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僕の恋愛小説【第3章 初恋の味】


好きという感覚

小学一年生の時の、可愛らしい女の子に対して興味を覚えた出来事を前回披露したのだが、初めて「好き」と言える女の子は幼稚園生の時に出来た。

その頃、女の子に対する性の意識が容姿くらいしかないのだから、女の子には男の遊び友達にはない可愛らしさを期待する訳で、好きという感覚は、外見の可愛らしさや仕草に興味を覚えることであった。

その頃興味を持った女の子は、少し丸みを帯びた小熊を思わせる愛くるしい外見に、少しツンツンした性格を持った活発な女の子であった。愛くるしい外見は見ていて飽きないし、その容姿で活発に動き回る様は、ギャップ萌えとでも言うような可愛らしさがあった。同じクラスなので一緒になる機会も多かったが、中々こちらに馴染んでこないところも興味の尽きない要素だった。

そう言う期間が続くと、他の女の子とは違う感情だというのに気づき始め、それが「好き」ということなのかもと意識するようになっていった。

おさなき恋心

これが初めての恋なのかもと思ったのは、「初恋」と言うロマンチックな響きに酔って振り返った頃なので、中学生から高校生くらいになった頃だと思うのだが、今の僕の記憶の中でそれが「初恋」と言う体験に位置付けられている。

異性に恋してモヤモヤしたりドキドキしたりする事が恋のはじまりであり、脳内物質による生物学的な興奮状態なのだと知ったのはだいぶ後の事であるが、未発達な心と身体の幼児にとって恋する心には、モヤモヤはなく、単なる好奇心からくるドキドキだったのではないかと思う。好奇心というのは、好きなものや好きなことに対する集中力のようなものだが、女の子に集中力を費やすというのは、その可愛らしさを目で追っかけたり一緒に遊んだりした体験に満足を得ることで、好きな女の子に対しては飽きることなく続けられた。

そうやって追っかけていると、向こうの女の子もこちらに関心を寄せてくれるようになり、多少は仲良しになって距離が近づいた感じはするが、それ以上関係が進展することはなかった。というか、進展しようもなかった。時々おしゃべりする女の子の一人という位置付けだが、それでも恋心は満足されていた。

破局は意外な出来事から

そうやってしばらく遊ぶようなことが続いて、好奇心も満たされてお互いの関係にもそこそこ満足していたのだが、意外な事件が起きた。

幼稚園は給食があって、使った食器は各自が返却口に返すようになっていたのだが、その日は少し食べきれないご飯がお皿に残っていて、それを持ちながら列を作っていた。その列に反対向きに並ぶ列があって、既に返却を終えて出口に向かって並んでいる列だった。しばらく並んでいると初恋の女の子がその反対向きの列に出てきた。すれ違い様に声をかけようとしたら、その女の子はいきなり僕のお皿に残っていたご飯の上に唾を吐いた。

何が起こったか理解できないでいると、その女の子はこちらをチラッと見るだけでいじわるそうな笑みを浮かべ満足気に隣を過ぎ去っていた。

彼女なりの愛嬌だったのだろうか。何かに怒っていたのだろうか。それがあまりにも強烈な出来事として残ってしまい、後のことは何も思い出せない。その女の子の味が沁みたご飯を食べるという変態性はその頃持ち合わせてなく、ご飯に出来た水たまりを気にしながら、そのままお皿を返却した。当然、その女の子とは距離を置くようになってしまった。
初恋の味は、幼稚園の教室に漂う粘土の香りが混じった、雨水のようだった。

心に響いたBGM:I’m not in Love by 10cc

#セクシャルなひらめきで潤いのある生活を
#僕の恋愛小説

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