見出し画像

I.GLOG 第06回「門番」

「I.Gログ」は、いずれ編纂されるかもしれないプロダクション I.G社史において正式に記録されることもなくただ語り継がれていくであろう昔話しをnoteという形で記録に残しておこうというコラムとなります。
筆者の主観を軸とした、その時、その瞬間の記憶と聞いた話で構成されておりますので、その時々で修正を加えていこうと思います。

文・藤咲淳一(株式会社プロダクション・アイジー 脚本家)

セキュリティ

 建物に入ると無機質な端末が壁に設置されていた。
 俺はその端末を見て舌打ちを鳴らす。
 20XX 式電脳直結型有線式デバイス。
 この瞬間、俺が事前にインストールしていた『鍵壊し』はただのゴミアプリとなった。

――といったような電脳式のセキュリティが置かれた会社はまだどこにもないでしょう。
指紋認証、掌紋認証、網膜認証……といった様々な生体認証形式のセキュリティ装置が開発され、導入している会社もあります。

従業員が会社に出社する際に、玄関や従業員通用口などを通らなくてはなりません。
従業員が大勢おり、業者の出入りの多い職場では警備員さんなどがその入口を見守っていることもあります。

テレビ局や映画などの撮影所では、入館の際に事前登録をした上で、入館受付で名前などを記入、もしくは入館証を渡されてはじめて入館が許可されることが多いです。
最近は体温を計る装置なども置かれている場合があり、こちらでも許可をもらわなくてはなりません。

これはゲストの場合がほとんどで、こちらの手続きを省略するため、社員証が磁気カードやチップ内蔵となっており、専用の端末を通すことで入館を自動化している会社が最近の傾向のような気がします。

大手企業の一部では駅の改札口のようなゲートが設けられているところもあります。
すでに入館許可証をもらっているにも拘らず、このゲートを通るのに緊張してしまうのは不思議なものです。

プロダクション I.Gでもそれなりのセキュリティは施されており、業務に関係のない方の入館をお断りしていることがほとんどです。最近では休業日の入館は事前許可制となり、規定にのっとって申請を行っていない従業員やアニメーターさんなどの入館は認められなくなり、入館に対するセキュリティの意識が強くなりました。
もちろん警備会社との連携も行われており、入館退館に関しては従業員がちゃんと手続きを行い、これから人が入ること、誰もいなくなることなどをリモートで監視してもらっています。

未だに、一番早く出社したときと、一番遅く帰社するときは緊張しますが

もちろん従業員は入館証を個人個人で所持しており、誰がいつ入館したのか、いつ退館したのか――などを記録することも可能です。

これで大丈夫?

入館証による入館が導入される以前、暗証番号による入館が導入されていました。
さらにその前、I.Gのセキュリティに使用されていたのは、普通の鍵でした。

スタジオごとにルールは違っていたかもしれませんが、筆者が配属されていたINGスタジオのゲームのスタジオでは、入室するスタッフが限定的だったこともあり、全員が鍵を所持していて自由に出入りできるようになっていました。
フリーランスの人などが入退室する場所では、一時的な貸し出しも行われていたかもしれませんし、鍵当番などを決めて、解錠施錠をするなど行われていたかもしれません。
とはいえ、24時間誰かしらいるような不夜城が当時のアニメスタジオの姿でしたので施錠されたことのほうが少ないのかもしれません。

INGスタジオはともかく、本社の入っていたビルは雑居ビルだったため、ビルの入口玄関を管理人さんが解錠に来ていたことがあったそうです。

セキュリティの緩さ故にコピー複合機などの営業マンが入ってきたりすることがあり、面倒な対応を強いられることもありました。
(個人の感想です)

「関係者以外お断り」というステッカーや貼り紙を貼っても、それを無視してやってくる飛び込み営業マンが多かったこともあり、簡単に入れないようななにかがあればと皆が思っておりました。

門番がいれば――。

そう思った時、誰が設置したのかわかりませんが、INGスタジオの奥にあるエレベーター脇にプロテクト・ギアが立つようになっていました。
押井さん(押井守)の『ケルベロス・サーガ』シリーズのあれです。

画像1

当時、『人狼 JIN-ROH』を制作していたので参考用に制作部屋にあったのかもしれません。
それか置き場所に困って誰かが置いたのでは――と思います(現在P.A.WORKS代表取締役の堀川憲司さんなら知っているかもしれませんが)。

社内で聞き取りをしたところ、以下の情報がわかりました。
当時世界に三体しかないうちの一体であり、
I.Gで『人狼 JIN-ROH』を制作するという流れで『紅い眼鏡』で使用されたプロテクト・ギアが、当時バンダイビジュアルにおられた渡辺繁さんに寄贈していただいたそうです。

それがいつしか玄関のガラス戸の内側に立つようになり、INGスタジオ 名物となり、それを見に人が訪れることもありました。

「立たせよう」と提案したのは石川社長だそうです。

そしてこのプロテクト・ギアは、三鷹に移転した際にもスタジオビルの玄関に門番として設置されたのですが、ギアの重みに中にいれていたトルソーが耐えきれず、おじいちゃんのように徐々に腰が曲がり、最終的には座らされての門番業務となってしまいました。

画像2

長い間、門番を勤めたこのプロテクト・ギアは、経年劣化という問題にさらされ、静かに余生を過ごしていると噂に聞いたことがあります。

下水道にではありません。
経年劣化はげしく、特に接着部分が弱っているため、I.Gの秘密倉庫の段ボール箱の中で安静に寝かせてあるそうです。
修復したいんですけど。

なお現在、プロダクション I.G本社の門番として、入り口には映画『亜人』に登場していたIBM(黒い幽霊)さんが置かれております。

画像3

一時的にタチコマがビル内に置かれていたこともあるのですが、その愛らしさ故にいたずらされることが多く、彼らは現在ラボ送りとなっております。


以上、I.Gログでした。

I.Gログは不定期更新です。