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I.Gログ 第04回「新人歓迎会」

「I.Gログ」は、いずれ編纂されるかもしれないプロダクション I.G 社史において正式に記録されることもなくただ語り継がれていくであろう昔話しをnoteという形で記録に残しておこうというコラムとなります。
筆者の主観を軸とした、その時、その瞬間の記憶と聞いた話で構成されておりますので、その際には 修正を加えていこうと思います。

文・藤咲淳一(株式会社プロダクション・アイジー 脚本家)

新入社員

東京では桜の花も満開となり、春が世界を包み始める今日このごろ。

ついこの間の話ですが通勤路にある大学の門の前に袴を身に着けた学生を見かけたりしました。 おそらく卒業式なのでしょう。
彼女たちもあと数週間後には新たな門出を迎え、そして社会人への一歩を踏み出し始めるのかもしれません。

日本では4月1日から新年度となり、この日付で採用された企業に所属し、社会人としての第一歩を踏み出す若者たちがいます。
メディアのニュースなどではこうした新社会人たちの入社式の様子が映像で紹介されることもあり、春の風物詩のひとつとなっています。
調べてみると「新社員」「新入社員」「入社式」は春の季語になっているようです。

プロダクション I.Gでも4月1日になると新入社員たちの初出勤となります。スーツを身にまとい緊張した面持ちで会社へやってくる若者たちの姿を毎年のように見かけていました。 
2020年度は残念ながらその姿を見ることは叶いませんでしたが、今年は衛生管理を徹底した上での対応をし、なんとか来てもらえるように関連部署は頑張っているようです。

新入社員たちは代表挨拶を聞き入社手続きなどを行ったあと、一週間ほどの研修に入ります。ここでは一般的なマナー講習から社内の組織図や各部署の業務内容、アニメ制作にかかわる法律などの説明を受けます。
ですので配属される部署のスタッフたちとの交流はまだ行われませんが、2019年度までは入社当日の夜、新人歓迎会なる催しが行われていました。

現在は感染症流行の状況鑑みて中止しております。

I.Gには本社ビルとスタジオビルのふたつがあり、スタジオビルの一階にはミーティングスペースも兼ねたロビーが設けられています。ここにはI.Gこれまで制作した作品のグッズなどが展示されていたり、吹き抜けには劇場作品『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の宣伝で使われた1/2スケールの散華模型が吊り下げられたりしています。

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どうやって掃除しているのだろうと見るたび 思います 。

この場所とスタジオ2Fの踊り場スペースまでを使って、本社ビル1Fで営業しているピッツアレストラン「武蔵野カンプス」からケータリングした軽食やスタッフ手作りのうどんや餃子などを用意しての新人歓迎会が行われるというのがここ10年ほどの新人歓迎会のスタイルでした。
各々が食事や会話を楽しんでいる中で、社内で制作している作品のプロモーション映像などが流され、研修よりも砕けた感じの社長挨拶や各部署の新人紹介とあいさつ、今年度制作する作品の紹介などが行われ、その後は交流会となります。

名だたるアニメーターや演出家などが傍にいたりして話しかけることもできるので、アニメ好きな方にはたまらない状況かもしれません。
筆者も当時スタジオに入られていたあの偉大なアニメーター、井上俊之さんなどと話をするまたとない機会だったりしましたので、ここぞとばかり突撃したことを思い出します。

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アットホームな雰囲気のあるI.Gの歓迎会ですが、国分寺時代 はどうだったのでしょう?

ちょっと振り返ってみます。

国分寺時代

筆者が入社した頃は国分寺駅の駅ビル8階 にあった「国分寺Lホール」を使っての新人歓迎会が行われていました。

筆者は1996年4月16日の中途入社のためその年の歓迎会を知りません。ですので1997年以降の記憶となります。

I.Gで仕事をしている社員だけでなくフリーランスの方なども集まっての新人歓迎会でした。人数は100名近くいたと思われます。
そのとき は駅ビル内にある飲食店に頼んだケイタリングを手配しての新人歓迎会でした。

ざわざわと時間近くになるとホールに集まる私服の集団。
その中に混じってスーツなどを着ている若干名の若者たちがその年の新入社員なのでしょう。
狼の中に紛れ込んだ子羊たちのようにどこか緊張した色を見せています。
中には早めに入社し、すでに戦士の顔をした新人も若干名いたりします。

やっていること自体はここ数年の新人歓迎会と変わることなく、各部署の説明を兼ねた挨拶と新人紹介が行われ、ひととおりの行事が終わり「ではご歓談を――」の声が終わる前に軽食に群がる若者たちの姿がとても懐かしいものとして蘇ります。
「ではご歓談を――」の声が「食え!」に聞こえるのでしょうね。
実際に夕食代を浮かせられるまたとないチャンスなわけですから、そこを逃すものはいないでしょう。熟練者の中にはタッパーなどを携行しているものもいたようですから。

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そして新人歓迎会が終わった後、または数日後に有志を募って近隣の公園などに向かい、花見が催されていました。

今年は桜は散ってしまいそうですが、当時は4月過ぎてもなかなか満開に至らないことが多かったような気がしています。
話によると井の頭公園まで遠征したこともあったようです。

夜桜での花見など風流なように思えますが、「寒い」という記憶が強く刻み込まれてしまい、花見の場でどんな話をしたのかは、ほろ酔い気分と過ぎ行く時間の中で、舞い散る桜の花びらのように消えていってしまうものでした。

ゴールデンウィーク近くになると、先に書いた(I.Gログ第02回より)八ヶ岳保養所での新人研修という形での交流会が開催され、とにかく新人との交流の機会が春先に設けられていたように思います。

新人の移り変わり

毎年、いろいろな新人が会社に入ってきます。
ほんの四半世紀前の新人たちは、人前でしゃべることが苦手でマイクを通しても音の拾えないような小さな声が震え、緊張の色が伺えるような方が多かったように思えます。

そのような新人たちが多い中、時折、受けを狙って一発芸などをする新人もいました。
もちろん抱負として大きな野望を叫ぶ若者もいました。

夢を抱いて入ったこの場所に、なんとか爪痕残そうとする若者たちは必死だったのだと思います。

ベテランたちはそうした新人たちの振る舞いの若さを羨ましく思いつつも、これから共に納品までの戦いを生き抜くために命あずける仲間たちですから、そうした部分から新人たちの適正を見抜こうとしています。

アニメーション業界――。

ここは結果だけが物語る世界。
過程も大事ですが、世界の人たちの記憶に残せるのはこうした仲間たちと作り上げた作品だけであり、それがすべての評価となります。
予算がない。
納期がない。
人がいない。
それは常につきまとう問題ですが、世間からはそうは見られません。
そんな状況であっても少しでもいいものを世に送り届けたいという気持ちと、自分自身の向上心がなければ終わってしまう、「個」に頼らざるを得ない産業です。

昔に比べてプロダクション I.Gは大きくなりました。
新人の 傾向も年々変化しています。
ですがやるべきことは変わりません。

見た人の心動かす作品を世に送り出すこと。

そのことに自分がどう向き合えるのか。
これだけは時が移り変わろうとも、新人誰しもが持っていなくてはならない課題であり、成し遂げてほしいことであり、社風であればよいなと思っています。

以上、I.Gログでした。

I.Gログの更新は不定期となります。