Part5-1【解説】第2章完結 白雪千夜の「目的」と「理由」
注:当記事は2部構成です。
『Part5-2【解説】ストーリーコミュの小ネタ/伏線回収を深掘りしてみよう【白雪千夜】』に続きます
この記事について
2024年9月27日、全人類が待ち望んだ白雪千夜のストーリーコミュが公開された。
この記事では、ストーリーコミュ79話の内容を詳細に解説するとともに、このコミュ内で白雪千夜がどのように変わったかを説いていく。
本記事で述べることは主に次の4点である。
白雪千夜がアイドルをする目的は「『白雪』の名を残し続けるため」である
白雪千夜がアイドルをする理由は「歌うことが好きだから」である
白雪千夜は喪うことについて嘆くことをやめた
白雪千夜と黒埼ちとせは「友だち」になった
なお、今回のストーリーコミュは、過去5年間に登場したコミュ等の細かなところから多くのシーンをより抜く形で話を展開している。
可能な限りこのストーリーコミュの中の情報だけで解説したいところではあるが、過去のコミュの情報を多数引用せざるを得ないため、これまでの記事を一読しておくことをおすすめする。
コミュの流れ
コミュの大まかな流れをまとめると以下の通りになる
千夜のソロライブが決定する。しかし、「ソロ曲」という特別な仕事を前に感情の整理が付かず、千夜はアイドル活動を休止する。
偶然話を聞いていた二宮飛鳥と出かける。そこで千夜は、飛鳥に自身の過去を語る。両親を喪った事故の詳細が明らかになった。
飛鳥との対話を通じ、千夜は「白雪」という名を残し続けていたことに気付く。それがアイドルをする目的になるかもしれない。
ソロステージを経て、千夜は歌うことが好きであることを思い出す。歌うことは、千夜がアイドルをする理由になった。
このような大まかな流れの中に「自画像」「鏡」「感情」など、千夜の心情や考えを表す事柄がちりばめられている。
これらを1つずつ取り上げると記事が複雑になりかねないため、専用記事を用意して別途解説する。
1・2 「意味」と「目的」と「理由」
本記事のタイトルにもなっている「目的」と「理由」。加えて千夜が多用する「意味」、これら3つの単語を定義しておきたい。なお、ここでの定義は辞書的な定義よりも千夜自身がどのように扱っているかを重視する。
意味
白雪千夜は頻繁に意味を求める。
白雪千夜の言う意味とは、「それによって生じる変化や価値」といえる。
つまり、彼女が「意味があるか」を考えるのは、対象の事柄の価値や変化の生じる可能性を考えているといえる。
千夜が「意味」という言葉を使うとき、彼女はそこにある価値や変化を見定めている。これは後述する「理由」とは対称的なフレーズである。
「意味」には価値を必要とするが、「理由」には価値を必要としない。
目的
ストーリーコミュ中に「目的」という語は登場していないことに注意してほしい。
ここで扱う「目的」とは、「アイドルとしての到達点」、つまりゴールである。
後述する「理由」と区別されるものであることにも注意してほしい。
白雪千夜がアイドルをする目的とは、「『白雪』の名を残し続けるため」である。これが彼女がアイドルを通して達成すべき事である。
「目的」と「理由」は似た言葉であるが、「目的」は最終的なゴールとしてのある一点を指すものという認識でよい。
家族を喪ったとき、千夜は「白雪」という姓を残した。
これは、全てを喪った千夜に唯一残されたものであると同時に、これからも残し続けられるものである。
彼女が、そして彼女の両親が生きた証はアイドルをすることによって残すことができるのである。
理由
「理由」は「目的」とは異なり、「今この瞬間」に焦点を当て、ゴールを伴わない動機である。また、価値を必ずしも必要としないという点で「意味」とは対称的である。
白雪千夜がアイドルをする理由とは、「歌うことが好きだから」である。
白雪千夜は歌が好きである。
これは幼少期変わらぬ思いであり、アイドルを始めてからも歌に対して特別な感情を抱いていることが過去のエピソードでもわかる。
さて、「アイドルをする理由」はシンデレラガールズにおいて非常に重要な事柄である。
「目的」は無くても「理由」を持たないアイドルはいない。
言い換えれば、目的は無いが理由だけが原動力で10年以上走り続けているアイドルはたくさんいるということである。ただやりたいから、ただ楽しいから、ただそこにいたいから、そんな理由に突き動かされるアイドルは多い。
ストーリーコミュ中では砂塚あきら、小日向美穂がその例として描かれていた。
あきらは最終的な到達目標というよりは「この瞬間」どうしたいかを重視するアイドルである。
小日向美穂はアイドルになること自体が目的である。彼女がアイドルになったのは、文中にもあるような「何かになりたい」だけでなく、その上でアイドルとして行いたいことがあり、それが彼女にとっての「理由」といえる。
また、アイドルを始めた当初の目的が既に達成されているアイドルでも、達成したからといってアイドルを辞めることはない。それは、アイドルをする「理由」があるからなのではないだろうか。
もともと「目的」が無かったアイドルでも、続けているうちに見えてくる場合もある。アイドルとは多様である。
あなたの好きなアイドルを思い浮かべて欲しい。そこにアイドルをする「目的」は無くとも、アイドルをする「理由」は必ずあるはずだ。
白雪千夜もこのストーリーコミュをもってその内の1人になったのである。
「理由」とは専ら主観的なものである。
たとえ意味や価値が宿らなくとも、そこにやりたいという「理由」さえあればアイドルができる。その思いに応えるのがプロデューサーなのである。
まとめ
意味とは、千夜が判断する「それによって生じる変化や価値」である。
目的とは、「アイドルとしての到達点」である。
千夜にとっては「『白雪』の名を残し続けるため」である。
理由とは、「『今この瞬間』に焦点を当てた動機」である。
価値,変化を必要としないという点で「意味」とは異なる。
千夜にとっては「歌うことが好きだから」である。
3 嘆くことをやめた
得ることと喪うこと、白雪千夜の中核をなすテーマである。
このコミュを通して、千夜は「嘆くことをやめる」という答えを出した。
喪失に対する向かい方とその答えは、Drastic MelodyとHALLOWEEN GAME、ストーリーコミュで異なった答えを出している。それぞれを振り返ってみよう。
Drastic Melodyにおける答え
では、Drastic Melodyでは喪失とどう向きあったのか振り返ってみよう。
主にPart1で扱った内容である。
Drastic Melodyは、自らの強い思いを叫ぶことがコンセプトである。千夜の場合、それは全てが喪われていく運命にある世界に対する反抗の役割を持った。
つまり、喪失を受け入れるのではなく、むしろ積極的に嘆くことがDrastic Melodyの役割であった。これはクール属性ならではの対処法であり、渋谷凛、松永涼という2人のクール属性アイドルと共に見出した答えだった。
※「属性らしさ」については別記事で独自の定義を用いているので詳しくはそちらを参照していただきたい。
HALLOWEEN GAMEにおける答え
喪失との向かい方に対する答えはHALLOWEEN GAMEにも描かれている。
Part3で扱った内容である。
HALLOWEEN GAMEは全編劇中劇であり、千夜にとっての喪失は「霊界」という形で比喩的に登場した。
HALLOWEEN GAMEで千夜(たち)が出した答えは、霊界(千夜にとっては喪失)と和解することである。つまり、死は憎むべき相手、戦うべき相手ではなく、共に楽しむ儀式として考える、まさに我々がよく知るハロウィンである。
ストーリーコミュにおける答え
ストーリーコミュで千夜が出した答えは「嘆くことをやめる」という、Drastic MelodyともHALLOWEEN GAMEとも異なる答えだった。
キュート属性の千夜らしい答えでもあると言える。
千夜は誰かと共に歌うことが好きで、アイドルとしてステージに立つことはそれを可能にする。
ステージはやがて終わり、そこに喪失感が残る。だが、再びステージに立ちたいという理由が千夜を動かす。
それが「喪失を受け入れ、嘆くことをやめる」ということなのだろう。
4 「友だち」になった
黒埼ちとせと白雪千夜は「お嬢さま」と「僕」という関係であった。
なぜこのような関係になったのか、それは両親を喪った千夜を繋ぎ止めるためのいわば応急処置だったからである。
そして、「僕」だった千夜を「僕でなくさせる」ことこそが黒埼ちとせの目的だったのである。
全ての始まりであった「お嬢さま」と「僕」の関係はストーリーコミュをもってついに終わりを迎えたのである。
まとめ
以上が、ストーリーコミュで描かれていた内容である。
ストーリーコミュでは以下の4点が語られた。
白雪千夜がアイドルをする目的は「『白雪』の名を残し続けるため」である
白雪千夜がアイドルをする理由は「歌うことが好きだから」である
白雪千夜は喪うことについて嘆くことをやめた
白雪千夜と黒埼ちとせは「友だち」になった
2,039日。
これは2019年2月28日に千夜が初登場してからストーリーコミュの公開に至るまでにかかった時間である。ちょうど5年と7ヶ月である。
偶然か必然か、この5年という時間は、白雪千夜が両親を喪った12歳から現在の年齢である17歳になるまでとちょうど同じでもある。
この5年間、白雪千夜にとって無駄だった時間は1秒たりとも無かった。
レッスンも、仲間との交流も、ライブの数々も、プロデューサーを罵る時間も、寝坊して遅れた時間も、大喜利の時間も、変な仕事をする時間も、笑うときも怒るときも泣くときも悩むときも、その全てに意味があり価値があった。いや、価値や意味があったかどうかなどもはやどうでもいい。
生きている、それ以上に求めることがもとよりあっただろうか。
それでも千夜は、それがどんなきっかけでどんな思いであったとしても5年間アイドルを続け、自ら答えを出したのである。
これから
ストーリーコミュは白雪千夜の物語にとって最も大きな区切りとなった。
千夜の変化は不可逆的であり、昨日の千夜と明日の千夜は全く違ったものになったといえるだろう。
これからの千夜は一体なにをしていくのだろうか。
以前の記事では、第3章の展開を「お嬢様と僕」という関係の終わりと定めた。
しかし、これもストーリーコミュ内で完結しており、筆者としては今のところ展望を持ち合わせていない。
今後しばらくは流れに身を任せて千夜の動向を追っていくことにするつもりである。
近いうちにEPHEMERAL AЯROWの公開も控えている。
当noteではこれからも変わらず白雪千夜の歩みを注視し、都度記事にしていく。