ドーナツ

ふとドーナツが食べたくなった。何気ない衝動を大切にいかないとさらに湿気た生活になってしまう気がして、シャワーまでしてドーナツを買いに行く支度をした。

長期休暇中なのでほとんど会うことのないクラスメイトに陽気な挨拶と彼からしたらどうでもいいドーナツを買いに行く報告をした。特別返事が欲しかった訳ではないが、なんとなくちょっかいをかけたくなってしただけだ。どうせあいつも僕と同じで暇なはずだ。

20分近くかけて歩いて着いたドーナツ屋は一番有名なチェーン店で、人がたくさんいるのが外から見えた。待ち時間が長いといろんなものに手が伸びてしまいそうだから気を付けなければ。

店内の入るとドーナツ屋特有の甘い匂いがした。たくさん吸いすぎると胸焼けしそうだ。雑多なドーナツが並んだ棚の前に立ち、食べたいものを選ぼうと思っても、ドーナツなんか久しく食べてないせいでどれがおいしいかなんて分からないから、目についたチョコでコーティングされたやつとクリームのやつをトングでとった。

帰って食べることも考えたが、もう少し非日常を味わうため店内で食べることにした。コーヒーも頼み、小さめの机でどちらから食べるか悩んでいたら、店内に見知った顔が入ってきたのが見えた。冷たくなったスマホを確認すると、さっき連絡をしたクラスメイトが高らかにドーナツを買いに行くことを宣言していた。どうやら彼も相当退屈だったようだ。

僕の倍も早くドーナツを買って隣の椅子に座った、彼は僕のとは全く違うドーナツを食べていた。きっと彼は一番人気のドーナツを買ったのだろう。そういう人間だ。お互いドーナツを食べ終わっても、世間話を続け、飽きた頃には1時間が経とうとしていた。帰ってもすることがあるわけでもないが、なんとなく帰ることにした。

久しぶりに中身のある時間を過ごした気がした。


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