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マルハン新宿とはなんだったのか――ある紙飛行機の視点から――【放蕩ラザイエフの「死ぬかと思った」】

君は“使ってはいけないお金”を使ってスロットを打ったことがあるか。

私はある。

ここでは「“使ってはいけないお金”とは何か」という議論をするのは止そう。そもそも「この世には“使ってはいけないお金”など存在しない、なぜならこの世にあるお金は本来すべて無駄に使ってはならないはずのものだから」という主張があるはずで、そうした立場の人にとってはそもそもそのような議論は馬鹿げているからだ。そして実は、わたしもその主張に半ば肩入れをしているから、ここでは議論をしない。

ただまあ、当時の状況から考えて、私は“使ってはいけないお金”を使ってスロットを打っていた。それはまさしく昨年のことだった。

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去年の9月、収入が激減した。
わたしの個人的な事情についてもここでは立ち入らない。まあいまどき収入がなくなってパンクすることなんて珍しい話でもないだろう。とにかくわたしの収入は激減した。でもこの世界で生きていこうとする以上、生活費や家賃は発生するから収入は必要だった。ただ、金を作る方法はスロット以外は思いつかなかった。そんな状況下で出会ったのが、マルトコ店長が就任したばかりのマルハン新宿だった。

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さらに時を遡り、2020年1月。
月間収支でマイナス40万円を叩いた私は、泣きながら友人から生活費を借り、同時にスロットを引退した。

タコ負けした当時、自分が打っていた台を後任が育てていたことを思えば「ヒキが付いてこなかっただけ」という見方もできたのだろう。ただ、当時はとにかく負けが込んでいて金がなかった。マイナス40万円という結果がすべてを物語っていて、この業界で自分の能力は通用しないと考えていた。

年初に作られたそんな自己認識が、マルハン新宿に通い始めたことで徐々に変わっていった。

マルトコ店長がやってきたあとのマルハン新宿は、「スロット(とりわけジャグラー)は目の前の数字よりも根拠」というお馴染みのフレーズが通じたホールだった。データを串刺し(時系列)で見ていくと、どの機種(ハナビ、政宗2、ゴージャグetc...)のどの台番号の配分が厚いかがある程度分かった。不発台は概ね据えられる傾向にあったし、たとえ前日の段階で見立てが作れなくても、ジャグラーのREG出現率を見ながら末尾を掘っていくとニブイチくらいの確率で“当たり”に辿り着いた。

こうした自分の分析や立ち回りはある程度的を射ていたらしくて、筐体に投入した“使ってはいけないはずのお金”は“使ってはいけないお金”をたくさん連れ帰ってきてくれた。

結局、わたしは年末が締め日だった家賃の更新費用(家賃1ヶ月分!)や友人からの借金を、主にマルハン新宿での勝ち分で支払ったのだった。

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わたしは、自分自身は紙飛行機みたいなものだと思っている。

本当はもっと頑丈な作りに生まれたかった。それこそボーイングのジェット機みたいに頑丈な、いやせめてラジコンや模型くらいで良いので、プラスチック並みの固さをもった身体や精神が欲しかったと思う。

とはいえ紙飛行機なんぞに生まれてしまったものは仕方がないので、これまで紙飛行機なりのフワッと飛び方をしてきた。でも、ふらふらと空中を漂っていたら去年の8月に見えない壁に衝突して、完全に行き詰った。

そんな状況で、下から風を吹き付けてくれたのがマルハン新宿だった。ボーイングやラジコンみたいな身体の持ち主にとってはそよ風だったかもしれないが、ひしゃげた紙飛行機のような自分にとってはこれ以外にないって感じの、絶妙な<救いの風>だった。

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今日、ついにその風は止んでしまったけど、おかげで上のほうで吹いている気流に戻ることはできた(らしい)。実際、今年の2月ごろに仕事が見つかり、いまは“使ってはいけないお金”を使わずにスロットを打てているので…。

なんというか、この時代に自分のような紙飛行機みたいなわたしが生きているってのは奇跡みたいなものだと思っているのだけれども。その奇跡を起こしてくれたのはマルハン新宿と、そこで出会った多くの人たちだったってことは今後の人生で忘れないでおきたい。

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勝っている人の後ろにはそれ以上に負けている人もいるのがこの業界だから大きい声では言えないんですが。生存させていただき誠にありがとうございました。おれ、ここで得た経験を糧にもっと良いプレイヤーになるよ…。

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