安田洋祐さんが解説する資本主義と医薬品業界について考えること
安田洋祐さんによるNews Picksでの資本主義の解説を基に、医薬品業界について考えてみました。
ハイライト
・"資本主義"とは何か?をカッコよく説明出来るようになる
・ファーマとバイオテックの違いが分かる
“資本主義” なんて中学の社会の授業以来、考えたことがなかった理系人間ですが、定義は以下の要素を含むとのとこ:
• 私有財産 -> コトバンクによると、”原則として所有者は自由に使用し、収益をあげ、また、処分することができる。” 日本の歴史を振り返っても、私有財産制でない時代は大化の改新から墾田永年私財法までの100年位だと思いますので、当たり前のような感覚もありますが、中国は土地の私有化が認められていなかったりしますので、世界的には当たり前ではないのかもしれません。
• 利潤動機 -> 所有者が基本的に財産を自由に使用出来るのであれば、その利潤を追求しますよね。確かにこれが社会主義となれば、モチベーションは利潤じゃなくなるのでしょうね。
• 市場経済->需要と供給により価格が決まるということですよね。安田さん曰く、市場経済の優れた点はニーズを導き出すことにあるとのこと。ニーズがある物は良く売れて、売り切れて明確になり、そこに利益が生まれて再投資される。
ただ、これは資本主義をシステムの面でしか説明していなく、資本主義=Capitalismは、"Ism"ですので、何らかのイデオロギー(人間の行動を左右する根本的な物の考え方の体系)があるはず。それは何かと言うと、”利潤を再投資する”という考え。近代(高度経済成長期)はモノを作れば売れたので、このイデオロギーが叫ばれなくても、自然と利益を再投資して生産量を増やしていった。一方、現代は、企業は利益を再投資する先が分からず、自社株買いや内部留保が増えてしまっている。
医薬品業界を見てみると、経済産業省の「2015年企業活動基本調査」によると、医薬品製造業の売上高研究開発費比率は18.99%。製造業の中では2位の光学機械器具・レンズを2ポイント以上引き離して最も高くなっています。(いつも拝読しております、Answer Newsさんの記事より)
2017年の売り上げに対する研究開発費の割合を見てみると、比率が最も高かったのはセルジーン。45.5%と売上高の半分近くを研究開発に投資しています。次いで高かったのはブリストルで30.9%。アストラゼネカ(25.6%)やメルク(24.9%)も売上高の4分の1を投じました。(こちらもAnswer Newsさんの記事)
そういう意味では、医薬品業界はしっかりと資本主義のイデオロギーが生きていると思います。研究開発をしてモノを作り出さないと会社は生き長らえないので。。
資本主義とは少しそれますが、医薬品業界にいて切実に思うことは、医薬品になる種がないと我々臨床をやっている人間は仕事がないということです。非臨床試験(実験施設や動物実験)で薬の種になる化合物を同定するのですが、それが安全性・有効性の条件を満たして初めて、臨床のステージに進みます。例えば、IT企業であれば、従業員さえいれば、何かしらのモノは作り出せるかと思います。製薬企業は、臨床ステージに沢山の人間がおりますが、それらの人は研究施設から化合物が出来上がって初めて仕事が生まれます。それなしに基本的には仕事はりません。
最近、医薬品業界でバイオテックカンパニーという言葉をよく耳にしますが、従来のファーマと整理することは、上記の”仕事がない状態”を考える上で重要です。
メガファーマ:(将来的な展望も含めてですが)非臨床の研究開発は行わず、基礎研究を行っている会社をM&Aしたり、芽が出てきた化合物を買い上げる製薬会社。主に、臨床の後期開発や薬事申請、生産、販売を行うことになる。
バイオテック:基礎研究から医薬品の種となる化合物を生成するステージまでを担う。その種をメガファーマに売る若しくはM&AされてExistする。
日本の企業でUSに駐在して、M&A先や共同研究先を探している方にお話を聞くと、製薬企業とバイオテックのお見合いパーティーのような所に参加すると、傷物がある化合物しか残っていないそうです。その要因としては、良い化合物やバイオテックはベンチャーキャピタル(VC)に既に取り込まれているそうです。これまで、国内の製薬企業が海外のベンチャーやアカデミアと共同で医薬品開発に成功した事例はありましたが、今後は、これらメガファーマやベンチャーキャピタルが先に唾を付けてしまうので、本当に厳しくなることが予想されます。
希望があるとしたら、本庶先生と小野薬品工業のオプジーボの例のように、日本のアカデミアとの共同です。日本のアカデミアの基礎研究は、ビジネス化(薬にすること)を意識していないことが多いので、そこの橋渡しを整備することが出来ればきっと道は開かれると思います。日本のアカデミアは海外のVCもまだ入り込めないですし。
安田さんの話に戻すと、資本主義のアップデートとしては、従来のアプローチとテクノロジーを利用した新しいアプローチを以下のように挙げております。
私有私財
Old - 公営、再分配、規制
New – ベーシックインカム、シェアリング -> モノはシェアすることでセミパブリックになる
利潤動機
Old – シェア最大化、CSR、三方よし
New – クラウドファンディング、ESG投資、SDGs -> お金以外をモチベーションにする
市場経済
Old – 企業(内)、家族、コミュニティ
New – 拡張家族、分人(平野啓一郎さんが提唱する個人が複数のレイアーを持つという考え)、トークン -> お金で動く市場経済とお金が全く関与しない家族としての生産行動の中間をトークンを用いて実現する
医薬品業界で言うと、またオプジーボの例ではないですが、製薬企業は儲かり、アカデミアにはお金が入らない状況なので、もっと基礎研究をやっている人に企業からお金・研究費が入るようになるべきだと思います。これを、他の業界に比べて、医薬品業界で難しくしている背景は、臨床に進んでからも結構な確率で失敗しますし、数十億円~数百億円と開発費が掛かるので、製薬企業はかなりのリスクを負っていることがあると思います。研究室はこのリスクを一緒に背負えないので、化合物の開発が成功した時だけ研究室がお金を貰って、失敗した時のリスクは背負わないという契約は少し虫が良いような気も致します。(この辺りは有識者の方にコメントを貰いたい所です。。)
国内製薬企業がメガファーマ+バイオテック+海外アカデミア連合軍に淘汰されないように、打開策を考えることが大切です。この記事がその一助になれば幸いです。
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