【短編小説】私とゼンマイ時計(6)
第1話はこちら。
1つ前のお話はこちら。
運よくお手洗いが見つかった。
少し気持ちを整えて時間を確認すると、なかなか良い時間になっていた。
お昼前に一度同じ道を歩いたからなのか、
それとも何だか色々ありすぎて、最初の目的を忘れそうになっているのか、
どちらにしても最初のどきどきは何処かへ行ってしまった。
ただただ暑い日射しの中、お腹一杯食欲0の状態で歩く。
それにしても、この道は食べ物屋さんが多い。
お腹が空いている時であれば、ついメニューを覗きたくなってしまうようなお店ばかりだ。
ついに時計屋さんに到着した。
ドアには"OPEN"の文字。
お昼前にはどうも準備中で板が裏返されていたようだ。
今度こそ、とドアの取っ手に手を掛けた。
突然どきどきが戻ってきた。
ゆっくりと引くと、
そこは本当に異世界だった。
外の夏の日射しを忘れさせるような温かい光。
白い壁には大きなのっぽの古時計たちが勢ぞろい。
そしてその前にも大小様々な置時計たちが鎮座して、
せっかちに時を刻んでいた。
つい店内を見回してしまった。
目に見える範囲では、人がいるスペースよりも時計たちのスペースの方がよっぽど広い。
ここはアンティークの時計修理専門店。
きっとここにある時計たちは、皆ゼンマイ式の時計なのだろう…
少しすると奥から店の亭主らしき男性が出てきた。
どこぞの魔法の国のお店のようである。
亭主ではなく、ご亭主、と呼ばせて頂きたい、そんな雰囲気をまとった丸眼鏡の初老の男性であった。
声まで柔らかい。
少し頭がぼぉっとしていたのか、ご亭主の言葉が思い出せないが、そうだ、と思い出して鞄にしまっていた祖父の時計を取り出した。
修理をお願いしたいのですが。
どきどきが戻ってきて、上ずりそうな早口な声で私は言った。
ご亭主がほほ笑んだような気がした。
~つづく~
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