誰がためのレトリック
先日たまたま何となく見ていた「嘘解きレトリック」というドラマにハマりました。そのとき視聴していたのは4話(しかも途中まで)だったのですが、ラッキーなことにまだTVerで1~3話(そして4話も)を視聴することができ、このたび無事追いつくことができました。最高。ありがとうございます。あのときたまたまテレビをつけたわたしでかした、そしてTLの賢者の方々、わたしの背中を押して下さり本当にありがとうございました。
探偵の祝先生と助手の鹿乃子ちゃんが醸し出す雰囲気がもうメッチャ良くてわたしはこういう2人がもうめちゃくちゃ好きなんですけど本当にめちゃくちゃ好きなんですけどそこを語りはじめると自我を保つのが難しくなるのでちょっとここでは割愛します。
「強くなければ生きていけない。 優しくなければ生きていく資格がない」
先生が初回から鹿乃子ちゃんに対してなにもかもが、鹿乃子ちゃんにむける眼差しとか物腰すべてが本当にめちゃくちゃ優しくてなんでこんなに優しいんだろうこの人のその優しさのねっこにあるものはなんだろうと考えていたんですけど(もはや割愛できとらんやないか〜い)ふとこの言葉が浮かんで来て、ひとりで納得しました。この言葉はフィリップ・マーロウという探偵のものなのですが、マーロウも傷や事情を抱えているひとへ優しく接したり、庇ったりするところがあり、(そしてそのせいで自分が危機的状況に陥ったりもするのですが)わたしはそんなところが良いなと思っているのですが、先生の優しさにもどこかマーロウのこの言葉と繋がるものがある気がしますし、それなのに自分の痛みは自分ひとりで抱え込もうとするところも似ているな…と思いました。(3話全体を通しての先生の「嘘」と終盤の料亭の玄関先のシーンで端崎さんが犯人を逮捕しているところを見つめる先生の表情を見て、なんとなくそんな人なのかな…と感じました)先生の来歴はまだドラマの中では明かされていませんが、先生も昔鹿乃子ちゃんと似たようなことを経験したことがあるのかなとか、過去になにかやり切れないことがあってそれが先生の心の中の墓標のようなものになっているのかなとも考えたりしました。
いつか鹿乃子ちゃんに「先生も1人で抱え込まないで、わたしにも分けてください」と言って欲しいです、言ってくれ…
ここからはミステリファンの端くれの戯言なのですが、1~3話で「日常の謎」を取り扱い、設定や人物造形を丁寧に描写した上での4話の本格ミステリ(最新話)という流れが上手く練られていて良いな〜と思いました。
ミステリとしてはちょっと物足りない…みたいなことをちらほら目にしてしまったのですが、わたしは死体がありトリックがあって、複雑な人間関係や思惑が絡み最後にどんでん返しがある、みたいなものだけが「ミステリ」ではないと思っているタイプの人間なので視聴するなかでそういう物足りなさみたいなものは感じなかったです。どれもちゃんと視聴者に対して「フェア」(ノックスの十戒というものに、探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない、というのがあります)だなあと感じましたし、原作者の方もきっとミステリが好きなんだろうなとも思いました。原作が少女漫画ということで「嘘解きレトリック」からミステリに触れる層も多いはずで、ここからミステリへの扉を開いて欲しい、ここをきっかけにミステリの世界へ踏み込んでほしい、というような熱量をもって描かれているのではないか、少なくともわたしにはその熱量があるように感じました(まだドラマしか観れていませんが…)しドラマの制作側のほうもそういった意図を汲み取ったうえでドラマを作っていることが伝わってくるような作り込み方だなと感じています。そうでありますように…
鹿乃子ちゃんの「嘘がわかる」という設定も絶妙で、「探偵方法に超能力を用いてはならない」「探偵は偶然や第六感よって事件を解決してはならない」(これもノックスの十戒)というところにギリギリ抵触するかしないかというところだと思うのですが、あくまで「助手」の鹿乃子ちゃんの力であり、先生は鹿乃子ちゃんの見抜いた嘘の先を見据えている、というところが全話を通して描かれているというところでギリギリセーフかなと個人的には考えています。
鹿乃子ちゃんの「嘘がわかる」という力が発動(?)する条件が「嘘をつく本人の意識が関係している」(本人が嘘だと認識していなければ鹿乃子ちゃんにも伝わらない)と明かされ、それが4話に繋がる展開も上手いなと思いますし、「探偵」には「助手」がつきもので、探偵が助手をそばに置く理由は十人十色だとは思うのですがその理由として「嘘がわかる」というのはなんというか「強い」なと思います。
タイトルが「謎」ではなく「嘘」解きレトリックなのも良いなと思っていて、先生が解いていくのはきっと鹿乃子ちゃんに聞こえた「嘘」なんですよね…2話で鹿乃子ちゃんが「先生のおかげで心が軽くなった」というようなことを言っていたけれど先生の言葉は鹿乃子ちゃんにとっての言祝ぎになるんだろうなとかそんなことも考えてしまいますしそれにしても先生の「一緒に抱えていく」発言がもはやプロポーズにしか聞こえませんでしたがそういう話になると本当に冷静さがなくなってしまうのでもうやめます。
PS:どうか2人で末永く幸せでいてください