ポルシェの23年ぶりのスーパーボウルCMに思う、高級自動車ブランドの新展開。


今年のスーパボウルのCMでは、多くの自動車メーカーの広告を見ることができたが、僕が特に印象に残ったのは、何よりもポルシェである。あと、ある種アウディも。

なぜ、プレミアムブランドである高級車ポルシェがスーパーボウルというゴリゴリのマスメディアに広告を投下する必要があったのか考えてみたい。

基本的に、1500万円以上する高級車のポルシェのターゲットはマスではない。一般的に考えると、限られた一部の富裕層がターゲットであり、その場合、最も費用対効果の悪いスーパーボウルにTVCMを投下するのは悪手である。

ただ、今回のCMのネタはTaycan(タイカンというポルシェ初のフル電動スポーツカー)であることから、仮説を立ててみたいと思う。

僕は、タイカンにスーパーボウルを当てたことに、ポルシェの強い意志を感じる。というのも、電気自動車のマーケティングを実行する上で、最大の課題は顧客の認識変化(perception change)である。従来のコアなポルシェユーザーが持つ、「タイカンはポルシェなのか」という問いにクリアな答えを提供し、パーセプションを変える必要がある。当然、メーカーの人間や販売店のセールスは、このお客様の「誤認識」を払拭するコミュニケーションを行うだろう。しかし、今回のこのCMで示したのは、一般の全生活者、つまり富裕層を含まないユーザーに対しても、タイカン、そしてポルシェの素晴らしさを訴求していく、ということ。つまり、ラグジュアリーの定義=「誰もが知っていて、憧れているブランドだが、その恩恵を受ける人は限定的(エクスクルーシブ)である」から鑑みるに、改めて、多くの人にポルシェは過去のブランド資産を引き継ぎ、新たなEVの時代に入ったこと、そしてこの新時代においてもエクスクルーシブなブランドであり続けたい、というメッセージだと思う。

さすがポルシェだと思った。「最新のポルシェは最良のポルシェ」という言葉があるが、過去のブランド資産をしっかり引き継いで今(タイカン)があることが伝わる、無駄に世の中に媚びない内容で素晴らしいと思った。

その一方で、あまり触れたくないが、アウディのCMは残念だと思った。

これは過去のクルマを否定し、新しい世界に"Let it go"しているように感じてしまう。過去の競争優位を捨てて、単に新規事業をやっている、イケてない企業に重なってしまった。

今年のスーパーボウルには、他にも多くの自動車メーカーがTVCM出稿をしているが、特にこの対象的な2社に目を奪われた。これからのクルマビジネスについて、とても楽しみになる展開だと個人的には思う。

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