【プリズンライターズ】再犯率が減らない理由を考えてみた Vol.5 教育編②
ここでは、刑務所が受刑者を更生させるための軸を担っており、一般と特別の二つから成っている「改善指導」について書きます。
これは監獄法から刑事収容施設法に改正された時に、指導を通じて内面からの更生をはかることを重要視し、充実させたと言われているものです。
ただ、充実させたと言う割には、再犯率が減るどころか増えてしまっているのは何故なのでしょうか?
効果が薄い、もしくは出ていないと言うことは、やはり何かしらの問題があるからでしょう。
この実状を少しでも知ってもらえたらと思っています。
改善指導はいつ行われているのか
「教育的処遇日」と呼ばれる土日祝日の他に、月二回作業を行わない日があります。
この日は、読んで字の如く教育を中心に据えた日で、休みと言うわけではありません。 なので、居室ですごしますが、制限の多い日となっています。
世間一般の人から見ても指導を行っていることがわかるようなことが、この日に行われているのが多いのは確かです。
ただ、作業の時間を割くこともあれば、余暇時間を使って行われていたりもするので、明確にされていないものも全て含めると、日常的に何かしれは行われているのかもしれません。
まずは一般改善指導についてから “一般”と付いているだけに全受刑者が対象です。この内容を受刑者の各居室に備え付けられてある「所内生活の心得」より抜粋します。
「被害者感情理解指導」「自己啓発指導」「自己改善目的達成指導」「体育」「社会復帰支援指導」「対人関係円滑化指導」の六つの指導を行っているらしいです。
各々の内容を詳しく抜き出したいのですが、それをしてしまうと大変な量になって収まらなくなってしますので割愛します。
ただ、概ね字面から想像できる内容と思ってもらっても差し支えないかと思います。これらの指導を講話、課題読書や教材、教養番組の視聴により行っているらしいです。
私の“~らしい”と言う表現に、「実際に受けているのに“らしい”はないんじゃないか」と思われた方がいるかもしれません。
ですが、「そんな指導されてたかな?あれがそうだったのか?」と言うレベルでの実感しかないため、どうしても“らしい”の域を出ないのです。
同様の声を他の多くの受刑者からも耳にします。
どうしてこうなっているかと言うと、現状が「とりあえずでやりっ放し」になってしまっていると言わざるを得ません。
多少はマシとは言え、初犯者の刑務所でもそうですし、再犯者の刑務所ともなると、その傾向がもっとひどくなると言うのが、私の実感です。
それを私の体験を元に書こうと思います。
ずさんとしか言えない指導実施の現実
教育的処遇日におけるラジオやテレビによる教養番組の視聴で知ってもらおうと思います。
ラジオ番組の内容は法務省から送られて来ているものになっています。
送ってきている方もなのですが、流す方も流す方で、男性受刑者しかない刑務所で、明らかに女子刑務所を対象としているのがわかるものを流してしまったりするなど、何も考えずにとりあえず流しているとしか思えません。
そしてテレビ番組の内容は、各刑務所の教育の担当部署が独自に録画したものを見せています。
これらは、とりあえずドキュメンタリーを見せておけば大丈夫と思っているようで、ドキュメンタリーが多めです。
それも二年も三年も前の古いものか、震災関係のものと偏り方がひどいので、やっぱりとりあえず感がいなめません…。
そのような状態のものをただジッと視聴せよと言うのですから、指導を受けていると言うよりも「これは一体何の時間なのだろう」と思うだけの苦痛なだけの時間になってしまっているのです。
何かに気付いて視聴の内容に対して感想文を書かせるところもあるのですが、これがよりずさんを感じる後押しを強めていたりします。
そうです、これも「書かせっ放し」で終わらせてしまっているのです…。
感想文に何か指摘をしたりして返却するでもなければ、これを元に何か面談などを行うでもありません。
このように書いたものに対して何のリアクションもないと、何かの気付きを得られないだけでなく、どう扱われているかもわからないし、ちゃんと誰か目を通しているかどうかすらも不明なままなのです。果たしてこれを“指導している”と言えるのか、はなはだ疑問です。
ここで一般改善指導への改善案を示したいところではありますが、まず先に特別改善指導について知ってもらいたいと思います。
特別改善指導について
“特別”と付いているだけに、こちらは受刑者ごとの特質に配慮しながら個別に行われるもので、人によっては何も受けない人もいたりします。
この内容も「所内生活の心得」より抜粋します。
「薬物依存離脱指導」「暴力団離脱指導」「性犯罪再犯防止指導」「被害者の視点を取り入れた教育」「交通安全指導」「就労支援指導」と、こちらも六つあります。
こちらの内容も割愛してしまうのですが、一般の時と同時に概ね字面から想像してもらえる対象者が受けるものと思ってもらって差し支えありません。ただ、こちらの実施方法は、10名に満たない比較的少人数による議論やワークブックを使用してのグループワーク形式で行われています。
これを概ね月二回程度で、その人の犯罪に対する進行度合により、半年から~一年の期間行われています。
法務省の熱心なアピールのかいもあってか、「改善指導を受けたのに、どうして再犯をしたのですか?」と裁判官に問われることがあるぐらい、法曹界では特に知られるようになっています。ですが裁判官や世間一般の人が思う程、受けたからと言って再犯がなくなるような万能なものではありませんし、法務省がアピールしている程、現場でちゃんと行われているとは言い難いように思います。
日本の社会に合っているのだろうか
特別改善指導は欧米にある矯正プログラムを元に作られたと言われています。
欧米では一定の効果を上げているので、ものとしてはすばらしいものだと言えます。ただ、欧米で上手くいっているからと言って、日本でもと言うわけではありません。それは、欧米と日本の犯罪者に対する扱いの根本的な考え方の差にあると私は思っています。
欧米では犯罪者を「刑務所に閉じ込めておく」と言うよりも、「刑務所で更生させる」と言う意味合いが強いように思います。
社会からの更生に対する理解やサポートは手厚いように思います。そうやって官民が一体となって更生させて社会に戻そうとする欧米に対し、日本はどうでしょうか?日本では「刑務所に閉じ込めればいい」と言うのが一般的でしょうし、社会からの更生に対する理解やサポートも無いに等しいぐらいの少なさで、まだまだと言うのが現実でしょう。社会性に大きな差があるに、形だけ似たようなことをしているだけでは、結果を出すのは難しいでしょう。
そして最も問題なのは、特別改善指導期間中はどうにか指導が行われていても、期間が終わってしまうと何のアフターケアもなくなってしまう事です。そうです、ここでも「やりっぱなし」になってしまっているのです。法務省は期間後も定期的に面談などでアフターケアを行っていると言っていますが、実際にアフターケアを受けている人を見たことも聞いたこともありません。これでは定着しないのは当然で、何も変わらないでしょう。
職員の意識を変える事で大きく変わる
一般と特別の両方に共通しているのが、「とりあえず」になってしまっている事と、「やりっぱなし」になってしまっている事であるのにお気付き頂けたでしょうか。更生させるために本来行っている大事な指導を、このように感じさせてしまっているのは、「指導している」と言うことからかけ離れてしまっていると思います。「とりあえず」になってしまっている部分は、何を学ばせたいか等を明確にし、内容をしっかり吟味して、それを丁寧に行うという本来の刑務所としての職務をまっとうしてもらえれば、当然のように改善していくものとは思えます。
一般改善指導での受刑者に対するリアクション等は、職員の働き方と重要を置くポイントを再考すれば、毎月とはいかなくとも半年に一回ぐらいは個人面談を行うことが可能になるはずです。
今は刑務所に「更生させる」と言うことが求められている以上、受刑者ときちんと向き合うことも職務の内のはずです。
ちゃんと考えてもらいたく思います。ただ、これで全ての「やりっぱなし」が改善しているかと言うと、特別改善指導のアフターケアについては厳しいでしょう。それは、“特別”となっているだけの、職員の意識だけではどうにもできない部分があるからです。
特別だからと言って解決できないわけではない
実を言えば、特別改善指導は、刑務官だけでは行われているものだけではないのです。
中には、グループワークにおいて、心療系のカウンセラーも同席して行われているものもあるのです。
なので、このカウンセラーを様々な事情で確保できていないため、刑務所によっては行えていない特別改善指導があるぐらいです。
ないからと言って受けさせないわけにいかないので、対象の受刑者をわざわざ行っている施設に移送して受けさせることで対応しているのが現状なのです。そのカウンセリングを行える人が元の刑務所に戻った時にいないので、アフターケアが行えていないと言うのも一つの要因でしょう。
一昔前なら人材を育てる環境を作ってからうんぬん…と、大変時間のかかってしまう改善案ぐらいしか示せなかったかもしれません。
でも、今なら自前でも育てることをしながら、比較的簡単に外部に頼ることができるはずです。
それは、私が「教育編①」で職業訓練の問題解消の時に提示した技術、そう「リモート」を使うのです。
リモートであれば、わざわざ来所してもらう必要がないので、どこの人でも大丈夫でしょう。
それに、「直接受刑者と対面するのは不安で…」と言うカウンセラー側の負担も、画面越しであれば軽減できるでしょう。
もしかしたら、カウンセラー資格はあるものの休止している人等の力を貸りる事も可能になるかもしれません。
ただ、リモートを導入すれば、各刑務所を「ZOOM」等を使ってグループワークを行う事が可能にもなれば、当然移送の諸々の負担がなくなることにはるはずです。これからもわかるように、「リモート」と刑務所とは本当に相性の良い技術なのです。
一日も早く改善をしなくてはならないのは
犯罪を犯してしまう多くの人は「認知の歪み」を抱えていると言われています。
これをどんなものか説明するなら…、例えば、信号が「赤なら渡ってはいけない」のはルールですよね?まず、「赤でも車が来なくて安全そうなら渡る」ぐらいならけっこうおられるかもしれませんね。
これぐらいなら軽度な歪みです。でも「赤であっても、私が渡りたい時に渡るので、車の方が止まるべき」と思っているのが重度で、このようなものが「認知の歪み」と言えます。
これがまだ信号の話なので、本人の命にかかわるぐらいでしょうが、「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」とジャイアン的な歪みになってしますと、他人に危害を加えてします可能性が大です。
この歪みが起きる原因は様々で、その人の生きてきた環境によるところが大きいと考えられています。
正しかったものが歪んでしまったというのは当然あるのですが、そもそも正しいものを知らないと言うのも意外と多いのです。
信号を守らない親を見て育てば「信号を守る」と言う概念がそもそもないため、「守らない」のではなく「守らなくてはならないことを知らない」と言うことになってしまっているのです。この歪みをきちんと正しておかないことには、社会に戻っても結局同じ事になってしまうでしょう。
それに、一時的に指導をしたからといって、今まで生きてきた中で積み重なったものが、ガラッと変わるなんて都合のいい事が起きるわけがありません。同じだけの時間をかけてじっくり向き合わなければならないものなので、在所中からもしっかりとアフターケアをして本人に定着させていくことが本当に大切なのです。「やっぱなし」になっているのは、本当に待った無しの状態です。
「再犯だから」ではなく「再犯でも」
全ての刑務所の全ての職員が、この「とりあえず」と「やりっぱなし」をよしとしているとまでは思いたくはありませんが、これが多いが現実です。
ただ、これは職員の仕事に対する意識による部分は大きいと言うのも現実でしょう…。
ただ、受刑者の中には、社会にちゃんと戻れるようになりたいと模索している者ばかりではなく、ズル賢こく今さえよければいいとしか思っていない者が多いと言うのも、それが再犯者に特に多いというのは私も知っています。
そんな者が職員さんの気持ちを崩いているのもわからないではありません。
これがとても難しいと言うのは重々承知していますが、「再犯だから」と言って諦めてしまうのではなく、「再犯でも」と言う気持ちで職員の方々、社会の人にも向き合ってもらえたらと思います。
数は少ないながらも戻ろうともがいている人も必ずいますし、向き合ってもらえたことによって立ち直ろうとする人も出てこないとは限りません。欧米ほどとまでは言いまえんが、今よりも少しずっでもよいので、官民が一体となって更生させていく社会になればと思います。
さぁ教育編②はいいかがでしたでしょうか?少しでも刑務所が社会に戻ろうとする人ががんばれる場所になりますようにと思います。
それでは、次回をまたよろしければ読んで下さい。
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