あの日の花畑
韓国ドラマ「梨泰院クラス」は、主人公のパク・セロイが転校初日にイジメをしているクラスメイトをぶん殴って退学になるところから始まる。
立場を笠にきて偉そうにしたり不当な要求をする人間が自分も大嫌いだ。
例えば、物語などでよくある、飲食店で客が店員に切れるパターン。前に自分が好きと言った「君の膵臓を食べたい」でもそんなシーンがある。
でも実際、そんな場面に自分が当事者として関わることがあるだろうか?
僕にはあった。
社会人2年目くらいの頃、当時姫路に一人暮らしをしていた僕は、毎日のように同期の一人と晩飯を外食していた。
その日僕らが行ったのは中国人がやっているラーメン屋で、店員に留学生らしき若い中国人がおり、客は僕らの他には酔っ払いのオッサンが一人だけだった。
飲み始めてしばらくして、その酔っ払いが若い中国人にカラみ始めた。
事情は知らないがだんだんエスカレートしていき、酔っ払いが店員に土下座を強要したあたりで、僕は自然に立ち上がっていた。
自然にだ。
こっちも少し酔っていたとは思う。
なんて言ったかは憶えてないが、その後は店の前に出て揉み合いだ。文字通り、揉み合い。殴り合いにはならなかった。お互い、どこか冷静な部分を残していたので良かった。
感覚的に、1時間くらいは揉み合っていた。実際にはもっと短いかもしれない。
オッサンが少し落ち着いて帰りかけると、店長がここぞとばかりに「オマエ、モウ2度と来んな!」とか言うもんだから、また僕らが間に入り揉み合いというパターンを2回くらい繰り返したと思う。
そのオッサンが本当に帰ったときは、やっとか〜とホッとした。
そしてその帰り、僕は同期の友人から延々と説教を受けることになる。
「こっちは2人やから勝てると思ったか」
「相手がヤクザやったらタダではすまない」
「喧嘩で失明したやつを自分は知ってる」
「君は体が大きいからあまり狙われないが、自分は小さいから狙われる。そういうことも考えたか」
などなど…
そのときは、なんで説教されてるん…て思ってたが、今から思うとマジで僕のことを心配してくれてたんだと思う。
このままではいつか痛い目に合うぞと。
考えてみると、あのとき自分を動かしたのは勇気では無い。闘争本能でも無い(喧嘩なんかしたことないクチである)。どちらかというと頭の中お花畑による空想的ヒロイズムに動かされていたと思う。…確かに危なっかしい。
結果的に、日中友好に少しは貢献できただろうし、僕らは心の勲章を手に入れたし、説教を受けたことによって少しは現実を見つめることができた。まさに結果オーライだ。
その後、僕は転職で姫路を離れたので、その友人とは忘れた頃にLINEで連絡する程度だ。
「梨泰院クラス」はこの事を思い出すキッカケをくれた。パク・セロイの髪型をしている間に久々に彼に会いに行こうと思う。
そして絶望的に似てない声で「ホジン、ケンチャナヨ〜」と言うんだ笑
笑ってくれるだろうか