知っているようで知らない暗号資産・ブロックチェーン関連の事業者8選【Chainalysis、CertiK、Quantstamp、ConsenSys、Securitize、Fireblocks、DigiFT、Blockdeamon】
こんにちは、プリズムと申します。普段はStir というブロックチェーンインフラ企業にてマーケティング施策の考案や暗号資産取引所へのトークン上場支援を行っています。個人の活動では、暗号資産に関するデータ分析(オンチェーン分析)もしています。以後お見知りおきを。
このnoteでは暗号資産業界で頻繁に名前を聞く企業を8社ピックアップし、その概要を解説していきます。解説に際しては、その企業が具体的にどんなサービスを提供しているのか、顧客は誰か、等を明確に記載することを意識しました。
いずれの企業もグローバルレベルで高い評価を受けている企業なので、暗号資産・ブロックチェーン業界以外の方が見ても参考になる点があると思います。
ブロックチェーンインフラ領域
Consensys Software Inc.
1社目として、ブロックチェーン(主にイーサリアム)のインフラレイヤーのソフトウェアを提供するConsensys(コンセンシス)を紹介します。ConsenSysは2014年にイーサリアム財団の共同設立者であるJoseph Lubin(ジョセフ・ルービン)により創業されました。
ConsenSysは様々なプロダクトをローンチしており、toCとtoB両面において存在感のあるブロックチェーン事業者です。具体例としては、以下のようなプロダクトが挙げられます(2024年1月時点)。
暗号資産ウォレット:MetaMask
機関投資家向けのカストディウォレット:MetaMask Institutional
ノンカストディアルのステーキングサービス:ConsenSys Staking
Ethereumノードホスティングサービス:Infura
スマートコントラクトのコード監査サービス:Diligence
zkEVM型のイーサリアムレイヤー2ブロックチェーン:Linea
Gethフォークのエンタープライズ向けコンソーシアム型ブロックチェーン:Quorum
Javaベースのイーサリアムクライアント:Hyperledger Besu
Solidityを用いたスマートコントラクト開発用フレー厶ワーク:Truffle Suite(2023年9月に提供終了)
ConsenSysはウォレット、ステーキング、ノードホスティング、コード監査などあらゆる形態のブロックチェーンビジネスを展開しており、アグリゲーター手数料やステーキング報酬、APIの使用手数料といった多様な収益源を生み出してきました。
しかしながら、2023年1月にJoseph Lubinから発表された声明によると、今後はMetaMaskとInfuraの開発にリソースを集中すると明記されていました。
レグテック領域
Chainalysis Inc.
2015年4月にニューヨークに設立されたChainalysis(チェイナリシス)を紹介します。同社は、ブロックチェーンのデータ分析、およびそれに関連するレグテックソリューションを提供している企業です。
レグテックとは規制(レギュレーション)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語であり、主に金融関連の規制・コンプライアンス遵守を効率的に行うための技術を指します。
Chainalysisの主な取引先は、政府機関(法執行機関や税務機関など)や金融機関です。取引先の具体例としては、アメリカ司法省、オーストラリア連邦警察、フィンランドやスウェーデンの警察組織や税務庁、日本の国税庁、国際的な金融グループであるBARCLAYSやBNY MELLONなどがあります。
このような取引先に対して、ブロックチェーン上の犯罪を追跡するためのツール提供、ブロックチェーン関連知識の習得を目的とした訓練プログラムの実施、暗号資産関連犯罪の調査代行、などを行っています。
Chainalysisが提供しているツールの例として、Reactor(リアクター)とStoryline(ストーリーライン)を説明します。
Reactorは特定の暗号資産アドレスの属性を詳しく分析できるツールです。アドレスに置かれている資金がどのような経路から流入し、どこにいくら出金されたのかが一目で分かるようになっています。
Storylineは複数種類の暗号資産の移転記録を、時系列で追跡できるツールです。Reactorよりも詳細に暗号資産の経路(どの取引所、スマートコントラクトをいつどのような操作が行われたのか)をたどることができます。
上述した2つのツールを中心に、政府機関による金融犯罪捜査やマネーロンダリング対策が促進されています。
ウォレット領域
Fireblocks Ltd,.
Fireblocks Ltd,.は2018年6月に創業された企業です。同社は暗号資産取引所やカストディアン向けに暗号資産をセキュアに管理するためのプラットフォームであるFireblocks(ファイアブロックス)を提供しています。
Fireblocksでは秘密計算手法の一つであるMPC(Multi-Party Computation)を利用した署名が可能なウォレットおよびAPI/SDKを提供しています。MPCウォレットでは、複数のエンドポイント間で秘密鍵の断片を作成、暗号化、保存することにより、秘密鍵が単一デバイスに保存されるような状態を無くすことができます。この仕組みによって、秘密鍵(の一部)が漏洩した場合であっても資産が盗まれることが無くなります。
MPCウォレットと似たメリットを持つソリューションに、マルチシグウォレットがあります。しかしながら、導入に際してプロトコルレベルでの改修が必要になるケースが多いマルチシグウォレットよりも、最終的な署名方法が従来と同じ(一つの秘密鍵を用いた署名)であるMPCウォレットの方が、①事業者にとって運用がしやすく、②ガス代の節約につながり、③異なるブロックチェーン間での互換性を実現しやすい、というメリットがあります。
以上のような特徴を持つFireblocksは、既に世界中の事業者による採用が進んでいます。Fireblocksを採用している企業としては、デジタル銀行のRevolut、株式取引アプリのRobinhood、大手信託銀行のBNY Mellon、グローバル金融グループのBNP Paribas、GMOグループのアメリカ法人であるGMO Trust、などが挙げられます。
Fireblocksは政府機関に対するサポート実績もあります。Fireblocksは2022年10月19日に、イスラエル財務省とテルアビブ証券取引所を通じたデジタル国債の発行に関するPoCに参画した旨を発表しています。さらに2023年3月には、オーストラリア国立銀行によるステーブルコインの発行及びクロスボーダー取引の実施にFireblocksが使われた旨を発表しました。
事業者がFireblocksを使用したい場合、最低$500/月 のサブスクリプション契約をするか、あるいはFireblocksへの問い合わせを行って導入を相談する形になっています。
Blockdaemon Inc.
Blockdaemon Inc.は2017年に設立された企業で、機関投資家やカストディ向けのウォレット、ステーキング、ノード関連のサービスを提供しています。ブロックチェーンへのアクセスを簡便にし、エンタープライズ向けに安全で効率的なUXを提供することを目的としています。
ウォレット事業では、Blockdeamon Wallet(ブロックデーモン・ウォレット)と呼ばれる機関投資家向けのウォレット(暗号資産の管理プラットフォーム)を展開しています。MPC技術を使用した高いセキュリティの実現、および事業者の運用体制の変更にも柔軟に対応可能な作り、をセールスポイントにしているようです。
またBlockdeamon Walletでは、エンタープライズ向けのステーキング機能も提供しています。サービスのエンドユーザーが保有するトークンでステーキングを行いたい時、事業者はBlockdeamon Walletを用いることで効率的なステーキングの実行が可能となります。
加えてBlockdeamonは、Blockdaemon Staking APIというステーキングの簡素化ツールを提供しています。このAPIを導入することで、トランザクション作成の自動化やステーキング時の委任プロセスの簡素化が可能となります。Blockdeamon Staking APIの解説動画では、1回のAPIコールで100個のイーサリアムバリデータを同時に立ち上げるような操作が可能である旨が解説されていました。
Blockdeamonの顧客として公開情報となっているのは、大和証券グループのFintertech株式会社、野村グループが出資するカストディ事業会社であるkomainuなどです。
セキュリティ領域
Quantstamp, Inc.
Quantstamp(クォントスタンプ)はサンフランシスコに本部を置く企業です。スマートコントラクトのコード監査や保険サービスを提供しています。
コード監査とは、ブロックチェーン自体およびその上で構築されているdApp(スマートコントラクト)のコードを第三者組織が分析することで、ハッカーの標的になるような脆弱性やバグを発見するための行われます。Quantstampによるコード監査では、AIによる監査と手動での監査の両方が行われます。
これまでの取引実績は、公式サイトにより確認できます。
Quantstampの保険サービスは、2022年7月にChainproof(チェインプルーフ)という子会社にて展開され始めました。Chainproofでは機関投資家やバリデータを対象に、DeFiプロトコルのハッキングに起因する損失やPoSブロックチェーンにおけるステーキングのスラッシングに対する保険を提供しています。なお、Chainproofは日本の大手保険会社の持株会社であるSOMPOホールディングスによる出資を受けています。
CertiK LLC
CertiK(サーティック)は、暗号資産・ブロックチェーン関連のプロジェクトにセキュリティー関連のソリューションを提供する企業です。2018年に米国で設立されて以来、様々なブロックチェーンプロジェクトに対して監査、ペネトレーションテスト、オンチェーン・モニタリングなど、さまざまなセキュリティ製品を提供しています。
CertiKの代表的なサービスはスマートコントラクト監査です。監査を担当した代表的なプロジェクトとしては、DeFi領域ではAaveやYearn Finance、ゲーム領域ではAxie InfinityやThe Sandbox、L1ブロックチェーンではPolygon、等が挙げられます。
加えてCertiKは、SkynetというWeb3データの分析プラットフォームを展開しています。Skynetはウェブサイト上で無料で提供されており、DeFiやNFTプラットフォーム、暗号資産取引所などのオンチェーン、オフチェーンのデータに基づいたセキュリティスコアをリアルタイムで観察できます。
以下の画像は、L1ブロックチェーンであるAptosに関するskynetでの情報です。セキュリティスコアがAAAとなっており、安全性が高いことが理解できます。このセキュリティスコアはXでのコミュニティ動向、価格や取引高、GitHubでのアクティブ状況などを鑑みて算定されています。コードやコミュニティに関する個別のスコアについても同サイト内で一覧できます。
CertiKもChainalysisやFireblocksのように、政府とのつながりを強めて言っていることが観測できます。CertiK共同創設者のロンフイ・グー氏は、シンガポール金融管理局(MAS)によって設立された国際技術諮問委員会(ITAP)のメンバーを務めており、MASに対して助言が可能な立場にあります。
RWA(特にセキュリティトークン)領域
Securitize, Inc
Securitize, Inc.は2017年11月にアメリカで設立されたセキュリティトークン(デジタル証券、STとも言う)の発行支援企業です。同社はSecuritize(セキュリタイズ)というプラットフォームを通して、機関・個人投資家向けのセキュリティトークン取引、および非公開会社向けのセキュリティトークン発行(STO)支援を提供しています。公式情報によると、120万を超える投資家口座と3,000の顧客を有しているとのことです(情報引用元:Securitize公式サイトのOur Story)。
資金調達を行いたい非公開会社は、Securitizeを用いてSTを発行します。ユーザーはSecuritizeの取引プラットフォームを通して当該STを購入します。これにより、これまで機関投資家やファミリーオフィスなどしか購入できなかった非公開会社のエクイティに関して、個人投資家にも投資機会を提供できるようになるのです。
Securitizeは規制対応の側面でも盤石の地位を固めています。2019年8月に米証券取引委員会(SEC)は、Securitizeを運営するSecuritize, LLCをTransfer Agent(株式の発行体に変わって株主名簿を管理し、株券の引き換えや分割、配当金の計算などの手続きなどを代理で行う業者)に認定しました。
日本支社(Securitize Japan株式会社)による国内ST発行の推進も多く行われており、具体的にはNTT DATA、SBINFT、ソニー銀行、三井住友信託銀行との取り組みが実施されています。
DigiFT Tech Singapore Pte. Ltd.
DigiFT Tech Singapore Pte. Ltd.(以下DigiFT)は、セキュリティトークンの発行・取り扱いを行っている事業者です。DigiFT社が構築している暗号資産取引所『DigiFT』はイーサリアムブロックチェーン上に構築されています。
DigiFTが注目されている点は、規制準拠かつAMM(自動マーケットメイキング)型の分散型取引所を世界で初めて構築した点です。DigiFTはシンガポール金融管理局(MAS)から資本市場サービス(CMS)ライセンスを取得しており、かつ認定市場運営者(RMO)としての認可を受けています。上記の認可を受けていることにより、シンガポールの証券先物法(SFA)に準拠した事業者として証券の一次募集、発行、発行者と投資家の仲介、投資家同士の取引仲介を許可されています。CMS、RMO、SFAの詳細については、こちらのページをご参照ください。
DigiFTは2024年2月時点までで、5種類のセキュリティトークンを発行しています。例として、米国の国庫短期証券(T-Bills)を裏付け資産として発行されている $DUST、wstETHを裏付け資産として発行されているDETHなどがあります。
DigiFTはシンガポールの規制に準拠した取引所となっていますが、利用者はシンガポール人に限定されていません(アメリカ、および国連が発表している制裁対象国は除く)。ただし誰でも利用できるという訳ではなく、2024年2月時点においては、資産額などに関する要件を満たす個人・法人投資家および機関投資家のみを対象にサービスを提供しています。
DigiFTの収益は、セキュリティトークンの発行元からのサブスクリプション収入、償還収入、取引手数料、およびオンチェーンでの取引手数料となっています。
まとめ
本記事ではグローバルレベルで高い評価を受けているブロックチェーン系企業を8社取り上げました。
事業拡大に応じた非線形的な収益アップが見込め、かつグレーな部分のないビジネスを展開するとなると、ウォレット開発やAIによるスマートコントラクト監査、セキュリティトークンの発行などが選択肢になるのかもしれませんね。
また各社の今後の動向としては、政府に対してオンチェーン上の規制促進ソリューションやブロックチェーンインフラを提供するようなムーブが見られました。BtoGビジネスであれば一度プロダクトが採用されれば他者製品への切り替えが起こりにくいと思われますので、盤石な収益基盤を構築できるのではなないかと思われます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。ブロックチェーンやオンチェーン分析系で情報発信もしていますので、筆者のTwitterアカウントをフォローしてくださると嬉しいです。
参考記事
本noteを執筆するに当たり参考にしたサイトの一部を列挙します。
ConsenSys
Chainalysis
Fireblocks
Blockdeamon
Quantstamp
CertiK
Securitize
DigiFT