EV普及で政治問題になってきたリチウムなどのレアメタル争奪戦をわかりやすく10分で解説!!!
こんにちは。
今回は今、話題になっている時事ネタを掘り下げてみました。
「レアメタル争奪戦」です。
以下、順番に解説していきます。
1.「レアメタル」とは
2. 「EV電池」のための「レアメタル」需要の増加
3. 「EV電池」のための「レアメタル」供給側の動き
4. 中国企業の存在感の拡大
5. 中国への世界各国の対抗処置
6. 「EV電池」に関する技術革新の動き
7. まとめ
1.「レアメタル」とは
まず「レアメタル」とは、から説明します。
スタートは、皆さんが中高の化学の時間に習った「元素周期表」です。当時テストに出ると、丸暗記した方も多かったのではないでしょうか。
全部で118種類あります。この中で、「レアメタル」とは
「地殻中の存在量が比較的少ないまたは採掘と精錬のコストが高いなどの理由で流通量、使用量が少ない非鉄金属」を指し、一般的に以下に示す47種類の元素が「レアメタル」と呼ばれます。
・リチウム
・ベリリウム
・ホウ素
・チタン
・パナジウム
・クロム
・マンガン
・コバルト
・ニッケル
・ガリウム
・ゲルマニウム
・セレン
・ルビジウム
・ストロンチウム
・ジルコニウム
・ニオブ
・モリブデン
・パラジウム
・インジウム
・アンチモン
・テルル
・セシウム
・バリウム
・ハフニウム
・タンタル
・タングステン
・レニウム
・白金
・タリウム
・ビスマス
の30の鉱物と、これ以外に「レアアース」とも呼ばれる17の元素が「レアメタル」なのです。
2. 「EV電池」のための「レアメタル」需要の増加
それでは、なぜ、今更この「レアメタル」が問題に、と思われる方もいるかも知れません。その原因は現在、急速に自動車会社が世界規模で開発、普及を進めている「EV車」なのです。
「EV車」はその動力として軽くて大容量の「EV電池」が必要不可欠です。そして「EV電池」の材料として重要なものが以下の3つのレアメタルなのです。
・リチウムLi
・コバルトCo
・ニッケルNi
今後、どのくらい需要が伸びるか整理してみましょう。
まず、EV車の市場規模の予測を調べてみると
・2030年に9519億ドル
・2027年に約1兆4千億ドル
・2028年までに1兆3182億ドル
などの数字がネットに挙がっています。
これらを参考とすると、世界全体で今後150兆円規模のマーケットになると思われます。
2022年の世界の乗用車市場の売上高は1兆8900億ドルと推計されているので、ガソリン車が残るとしても、代替が進み、ほぼ現在の自動車産業の規模と同等になることと思われます。
そして、現在、EV車はすでに販売され急速に広まっています。数字で見ると、「EV電池」に使われる重要鉱物の市場規模は2022年に3200億ドル(48兆円)に達し、ここ5年間で倍増しています。そのため、すでにリチウムの需要はこの5年間で3倍になり、コバルトの需要も7割増えています。
リチウムについては、2030年には更にこの2~3.5倍、すなわち6400億ドル(96兆円)から1兆1200億ドル(168兆円)の市場になると予測されています。
このように、「EV電池」の主要な素材であるリチウム、コバルト、ニッケルは今度ものすごい勢いで需要が伸びて、資源としては逼迫するほどになると考えられます。すでに「レア」ではないですね。
3. 「EV電池」のための「レアメタル」供給側の動き
さて、それでは供給側を見てみましょう。
<リチウム>
リチウムの2022年の世界生産量は13万トン、昨年から2割増えました。このうちの8割がEV車用とのことです。最大の生産国はオーストラリアで全体の47%
以下、生産量ランキングだと以下のようになります。
1位 オーストラリア
2位 チリ
3位 中国
4位 アルゼンチン
5位 ブラジル
<コバルト>
2022年の生産量は19万トンで、その7割弱がなんとアフリカのコンゴだそうです。意外ですね。
<ニッケル>
2022年の世界生産量は330万トンで、そのうち約半分がインドネシアです。
このように、他の鉱物資源でも同じことが言えるのですが、供給側の生産国が偏っている、特定の国に集中していることも特徴となります。こうした供給側の偏りから、生産国では「資源ナショナリズム」の政治的動きが非常に活発になっています。
例えば、インドネシアでは主要生産資源のニッケルの未加工品の輸出を禁止しています。
リチウムを見ると、まず最大生産国オーストラリアは自国内でリチウムの精製まで行う制度を検討しています。
また、リチウムの生産量の多い南米各国では以下のような動きがあります。
チリのポリッチ大統領は2023年4月に「リチウム産業国家戦略」を表明しました。
アルゼンチンのハビエル・ミレイ新大統領は選挙公約でリチウムなどの天然資源の開発に国家の資金を提供することを約束しました。
また、現在生産量はそれほど多くはありませんが、調査の結果170万トンのリチウム埋蔵量が推定されているメキシコでは、2023年9月になんと中国企業が握るリチウム利権を取消し、国有化に向けて鉱業法を改正したそうです。そして、今後は国営企業を設立して、リチウム生産の主導権をとる方針とのことです。
メキシコはテスラが大規模工場建設の計画を表明していることもあり、今後のリチウム立国になる可能性が高いです。
4. 中国企業の存在感の拡大
まず、川下の「EV電池」の世界シェア(2022)を見てみましょう。
1位 CATL(中国)
2位 LGエナジーソリューション(韓国)
3位 BYD(中国)
4位 パナソニック(日本)
5位 SKオン(韓国)
6位 サムソンSDI(韓国)
7位 CALB(中国)
8位 Gotion(中国)
9位 Sunwoda(中国)
10位 SVOLT(中国)
なんと、ランキング10のうち6社が中国企業となっています。つまり「EV電池」の川下分野においては圧倒的に中国企業が存在感があります。
この「EV電池」メーカーが自社で必要なレアメタル調達のために自国の資源のみならず、海外鉱山の権益獲得のための投資を行い世界規模のサプライチェーンを築いているのです。
例えば、リチウムではチリ、アルゼンチン、ブラジルの権益獲得に投資しています。ニッケルでは中国企業がインドネシアで採掘、精製に乗り出しています。コバルトではコンゴと連携を深め、鉱山権益の大部分を握っているようです。これ以外でも中国企業は豊富な資金力とスピードで、世界各地の鉱山権益を獲得しまくっています。
また、生産した後のリチウム、コバルト、ニッケルの「製錬量」も、現在、世界では中国がトップのようです。
5. 中国への世界各国の対抗処置
このような「EV電池」を軸にした中国企業の世界中の資源争奪の動きに対して、現在、各国は対抗処置を行うようになりました。
<アメリカ>
バイデン政権は「IRAインフレ抑制法」を制定。この中に気候変動対策などに3690億ドルの補助金をつけていますが、主なものとして「EV関連産業などの支援」があります。つまり、「米国内でリチウムなどの電池原料を採掘、製錬したり、正極などの部材を生産した場合に補助するもので、費用の10%相当分の税控除が受けられる」ものです。
この法律はEV車購入者に対しても、電池原料の40%以上を米国と米国のFTA国から、電池価格の50%以上が北米生産の場合に、最大で7500ドルの税控除が受けられるというものです。
この「IRAインフレ抑制法」施行を受けて、現在、各企業が米国内に「EV電池」の工場を建設しようとしています。これにより、米国および米国とFTAを締結している国内での資源生産、製錬、そして「EV電池」の製造を増やしていく国家戦略のようです。
<G7>
そしてG7も動きました。
2023年4月に札幌で行われたG7気候、エネルギー、環境相会合にて、「重要鉱物の安定調達に関する連携」を合意しました。これは明らかに重要鉱物の中国依存からの脱却を狙ったものです。
6. 「EV電池」に関する技術革新の動き
このような既存「EV電池」ですでに大きなシェアを持つ中国企業に対して、各企業、特に日本の企業も技術革新によってゲームチェンジができないかを模索しています。その一つが「使用済みEV電池のリサイクル」です。
日本企業のJX金属は、現在「EV電池」のリサイクル実証実験を行っています。つまり、使用済みの「EV電池」からリチウム、ニッケル、コバルトを再び回収できるかもしれないということです。
こうした技術革新は、既存企業だけでなく、日本の「エマルションテクノロジーズ」のようなスタートアップ企業でも研究されています。
2023年の「EV電池」の廃棄回収重量は23万3800トンにもなるため、これが実現できると、非常に大きなゲームチェンジになる可能性があります。
この「使用済みEV電池のリサイクル」の流れに拍車をかけそうなのが、EUで2024年以降に施行される「車載電池の原料の数%をリサイクル由来にしなければならない」というリサイクル規則です。
この技術は今後期待できますね。
それからもっと大きなゲームチェンジャーは「次世代電池」の分野です。
現在、主流の「リチウムイオン電池」に対して、それとは異なる構造の「半固定電池」「全固体電池」という次世代のEV車向けの電池を研究しているメーカーがあります。
また、巨大資本の中国「EV電池」企業も「次世代電池」として「ナトリウム電池」や「多価イオン電池」などを研究しているようです。
この「次世代電池」の分野でも次を狙って壮絶な研究バトルが繰り広げられているようですね。
7. まとめ
このように、世界規模で今一番ホットなビジネス分野がこの「EV電池」、そして、その原材料のリチウム、ニッケル、コバルトなど「レアメタル」なのです。資源採掘ができる各国では、政治で自国の資源権益を守ろうという資源ナショナリズムの方向性が出ています。現在「EV電池」でトップクラスの中国企業は豊富な資金力から世界各国の資源権益に投資して権益を獲得しています。これに対して、アメリカやEUそして日本は中国依存から脱却するために政治的な連携を深めています。
また、このマーケットは今後「EV電池」の技術革新によってゲームチェンジしていく可能性もあります。
普段生活をしているとなかなか目につかない資源競争ですが、今後注目して行きたいと思います。
それでは。