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月夜の怪
2017年頃、書いたもの
月、甚だ麿し。
虚空の虚、空しく。
腎、わろし。こちらも虚。
闇夜のさざめき、肌に染む、真冬は師走七日。
辻のひとかげ、不思議に怪し。
もののけの類いかと、目を凝らして見るに、おぼろげにして姿を隠す。
また忘れた頃、表す。暫しの繰返し、静寂。
そののち、ふいに、きょんと鳴き声。闇夜に、刹那、響き、すぐさま消え入りて。
あとはまくろき闇。
影の隠れたあたり、歩み出でてみるに、何やら硬い塊が爪先に触れる。
つまみ上げると、胡桃が二つ。柿が一つ。
柿はまだいくぶん青いが、食えないこともない。
しかるべきしたごしらへを施し、明日の昼にでも食す。
腎の臓の悪鬼、もののけに魅入られたか。
怪異による怪異の退治とな?
げに愉快、この上ない。
古狸の類いか?狸の祓いなど、ついぞ知らん。
恩などなかろうものを。
気のいい化け物も居たものだ。
帰路を急ぐ。
いささか飲みすぎた。
妻がまた、体に障ると責め立てる。
寝酒はのぞめそうもない。
息、白く、月、ますます青ざめる。
空気は凛々と冴え渡り、頬が切れんばかり。
闇は闇。
まくろき穴。
ぽかりと虚空に口を開く。
飲み込まれたら、一たまりもない。
急ごう、夜も更けた。
遠くで、ひとこえ、きょん!
古狸め、別れの挨拶か。
洒落こむじゃないか。
罠にかからなければいいが。
風呂が恋しい。
完。
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