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雪山の一日


2025.1.18 記

大つごもりの月の晩


あんまり風が冷たくて


雪に言ってやったんです


いっちょ、あんたで


かまくらでも作ってしまおうか


そしたら風もしのげるだろう


そしたら少しは温かろう


雪は、こう言いました


どうぞ、どうぞ、お作りなさい


どうぞ、どうぞ、お入りなさい


急ごしらえのかまくらは


少しいびつだったけど


とても居心地のよいものでした


私は、大つごもりの晩だけ


かまくらで過ごしました


そして、あくる朝


まだ暗いうちに、山頂までゆき


初日の出を拝んで、山をおりました


帰り際、あのかまくらを覗いてみると


銀狐の親子が、暖をとっておりました


子狐は母狐に、ぴったりとくっついて


すやすや眠っておりました


私は、子狐を起こさないように


静かに、かまくらを後にしました


あの銀狐の親子は


あのまま、かまくらに住み着くのだろうか


春が来て雪が溶けたら


あの親子は何処へゆくのだろう


そしたら、太陽がこう言いました


銀狐というのも雪というのも


結局は同じだからね


別においらの光で溶けたところで


夏には、真っ白な入道雲に化けているのさ


そしたら、雨になって降ってきて


山百合なんかにも化けるのさ


山百合に化けたら、今度は蜜蜂がやってくるだろう?


蜜蜂が山百合の花粉で真っ赤になるだろう?


そんな蜜蜂が花粉を運ぶ夕方は赤いのさ


そんな夕方が来て、夜が来て、朝が来て、


昼が来て、夕方が来て、朝が来て、


いずれ秋が来る


秋は山が赤く染まるものさ


そして、また夕方と、夜と、朝と、昼とを繰り返せば 


やがて冬が来る


冬が来れば、また雪も降るだろう


赤くなったり、白くなったり


狐が化かすなんて、そんなもんさ


太陽は言い終わると、


西の山の向こうにゆっくり沈んでゆきました


ふと辺りを見渡せば


さっきまで赤いような橙色のような桃色の


ような藤色のようだった空は


竜のひげのような青に染まり 


空気も深々と冷たくなっていました


こうしちゃあ、居らんない


吹雪かれたら、たまったものじゃあない


そう呟いた瞬間


突然、粉雪を散らしながら


ぴゅう!と一陣の風が巻き起こり


さようなら、早くお帰りなさい


お気をつけてと言って


去っていきました


とても冷たい風でしたが


なんだか少し、春の匂いがしました


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