「そ」
「総入れ歯」
母方の祖母の話である。
寡黙で不愛想だが笑うとしわくしゃな目じりと不自然な入れ歯を思い出す。
ぼくが幼稚園に通っていたころ、母ミツコが病気で入院した。
ばあちゃんは約一ヵ月間一緒に暮らしながら面倒を見てくれた。
兄は一人で何でも出来るが、ぼくは甘えん坊なので全部ばあちゃんがしてくれた。
靴下を履くのも、ぶどうの皮剥きも、泣き止むまで抱っこすることも。
そんなばあちゃんは、あずきアイスが大好きだった。
毎日食べていたが、いつも最後の一口を残しているのを覚えている。
時は経ち、ぼくが高校生になった時、母ミツコがリウマチにかかり体が自由に動かせなくなった。
そんな時、ぼくと兄に久しぶりに会いたいということで、ばあちゃんがやってきた。
ヨボヨボになったばあちゃんを見て年を取る速さを痛感して悲しさと寂しさを感じた。
夜に、ばあちゃんと二人で話していたら、母のことを気にしていた。
母は母で、ばあちゃんに心配させたくないと、無理して元気に振舞っていた。
「さとくん、ミツコは大丈夫かい?なんでもいいから協力してあげてね。」とぼくに。
「うん。できることは手伝うね。でもいつもは辛そうだよ」。
ばあちゃんは少し間をおいて「実はね、ミツコが心配で来たのよ。さとくん宜しくね」と。
ぼくは言葉が詰まった。
次の日ばあちゃんは、ぼくと兄にお小遣いと母への気遣いを置いて帰った。
夜、母ミツコに「ばあちゃんはお母さんのことが心配で顔を見に来たんだってよ」と
告げたとたん、声を出して泣いた。
親子というのは愛深きものである。
いつまで経っても子は子であり、親は親。この関係は宿命のように変わらない。
そんな寡黙なばあちゃんも4年前に旅立った。
大好きなあずきアイスを一口残したように
ぼくにも大切なことを残してくれた。
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今日の詩
おとうさんも おかあさんも
だれかの こども
おじいちゃんも おばあちゃんも
だれかの こども
そのだれかが いなかったら
ぼくもきみも いなかった