経済産業省のトランスジェンダー女性職員のトイレ利用に関する裁判、その後に思うこと
「生物学的に云々言う人ほど生物学を理解していない」と言ったのは、がんゲノム研究で博士号を取得している友人です。「自分の専門性に自負があるからこそ他人の専門性に頼ることができる」と言ったのは、ある大学教員です。専門家として研究すればするほど、他人の専門性に対して謙虚になれるものですね。
さて、7月11日に、経産省がトランスジェンダー女性の職員のトイレ利用を制限したことは違法という最高裁の判決が出ました。
このニュースに対し「生物学的男性が女性トイレに入って来るなんて怖い」という発信がSNS上で活発になっています。この「生物学的男性」という言葉が独り歩きしていると感じるので、プリンセススクゥエアーLGBTs担当なりに、この判決について考えることを書かせていただきます。
原告は10年以上前から服装や戸籍の名前を女性的なものに変更し、女性ホルモン投与も行っています。そして省庁職員として数十年働いてきた経歴があり、職場の人間関係が出来上がっています。また他のフロアの女性トイレを使って問題が起きたことはありません。戸籍の性別を変更するには「生殖機能を永久に欠くこと」という条件があり、健康上の理由からこの手術はしていない、という状況です(ちなみに戸籍の性別変更に当たり、名前を変えることは条件ではありません。産まれたときに付けられた名前のままでもOKです)。
「ある日突然現れた男性にしか見えない人がトランスジェンダーを名乗って女性トイレに入ってきた」のではなく、長年に渡って性別移行の手続きを踏んでいる人が、生活実態に合わせるために働くフロアの女性トイレの利用を求めた、という背景があります。
そんな中、先に挙げた「生殖機能を永久に欠くための手術をしていない状態」を「生物学的男性」と呼ぶネットニュースの多いこと。そうした発信をされる方は、ご自身の性染色体の検査をしたことはありますか? 性ホルモン値を測ったことはありますか? ボイストレーニングで声を変える練習をしたことはありますか? 私はどれも経験していますが、やったらやっただけ思うんです。「生物学的に云々」はヒトの身体的特徴の一部を表現しているに過ぎないと。
その「一部」だけを取り上げて不安を煽るようなニュースに、トランスジェンダー当事者はますます追い詰められます。想像上のトランスジェンダーと実際のトランスジェンダーの乖離が起こっている、あるいは起こしている人がいます。不安を掻き立てられている人もある意味被害者です。誰もが安心して生活できる環境を作るために情報発信することが、ALLY(アライ)として私たちに求められていることだとも思います。
トランスジェンダー当事者のリアルな生活を伝えるために制作された無料冊子「トランスジェンダーのリアル」が第7版を迎えようとしています。もし「なんとなく怖い」と感じている方がいらっしゃったら、「本当に怖い奴だった」あるいは「意外とフツーだった」を、ご自身の手で、目で、確かめていただけたらと思います。
日々を快適に過ごすために、住まいと暮らしのアイデアを、引き続きお届けして参ります。「こんなテーマを取り上げてほしい」といったご意見がありましたら、ぜひお寄せください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?