さまざまな患者に対応する病院の秘訣とは?(後半)ー私たちは既に多様である、病院の患者もスタッフもー
こんにちは、プリンセススクゥエアーLGBTs2代目担当、関西出身のトランスジェンダー当事者、ワカクサです。
前回は私がやっとこさ受けた健康診断から、再検査でがんが見付かり、入院・手術に至るまでをお話しました(こちら)。私が入院した病院で、性別や家族について特に質問されなかったこと、それらを決め付けるような発言がなかったことなど、驚いたポイントを挙げてみましたが、しばらく入院していると、その理由が何となく見えてきました。
その病院の立地条件や受け入れ態勢などの要因もあるのでしょう、患者さんの中には転んで怪我をしたホームレスの方が救急車で運ばれて入院してくるといったこともありました。理学療法士さんが入院中のリハビリのプログラムを組んで、院内を歩くなどの支援を行い、日常生活に戻れるようになるまでサポートするのですが、いざ回復すると問題が。
理学療法士のお仕事のひとつに、退院後の生活を考えるために生活環境を整えるアドバイスをする、というものがあるそうです。しかしシェルターとも呼ばれるホームレス緊急一時宿泊施設を嫌う方もいるそうで、過去には「そこは規則が厳しいから帰りたくない」と言って、点滴を刺したまま点滴台をカラカラ押して公園に帰ってしまった人もいたとか。
かと思えば、同じように転んで怪我をした患者さんから「家に手すりを付けた方がいいですかね~?」と質問があったため、お家の様子を知るために訪問すると、市街でも有数の大規模駅近くの巨大ビルの最上階にお住まいになっている大家さんだった、ということもあったそうです。専用エレベーターでフロアに行き、ワンフロアがすべて居室、お風呂も広くてバリアフリーで、金銭的な支援も軽々とクリアできる状態。手すりどころかもうサポートできることがないよね・・・?というレベルで設備が整っていたそう。
そんなさまざまな患者さんの対応をしていれば、「患者さんにはいろんな人がいる」ということが肌感覚としてわかってきます。世の中、すべての人に家族がいるわけではないし、家があるわけでもお金があるわけでもない。家族がいる人もいるけれど、サポートしてもらえるかは個別の事情次第だし、家もお金もあっても、情緒的な人間関係がなく孤立を深めている人もいる。過去の手術でいくつかの臓器を摘出している人もいれば、既に服薬しながら闘病中の人もいる。これまでまったく健康面の問題がなかったのに、ある日突然、怪我や病気で思わぬ変化を体験し戸惑う人もいる。
どんな事情のある人に対しても「まあ世の中そんな人もいるよね」という共通認識が、病院スタッフにも出来上がっていました。その上で、目の前の患者さんが最大限、快適に生活するための支援を行う姿勢がありました。これが私の感じた快適さにつながっていると思います。医師にも、看護師にも、病院スタッフにも、「いろんな人がいて当たり前」が共有されているのです。
また、看護師のうち、4分の3が女性、4分の1が男性でした。看護学校から実習のために来ていた学生さんの中には、40代、50代の方もいました。「何歳になっても看護師の資格が取れるし、仕事にすることができる」ということを初めて知りました。また病棟内でシーツや病院着の補充、食事の配膳を行うのは、ベトナムから来ている外国人医療従事者でした。言葉少なく、しかしきびきび動くスタッフに、病棟全体が支えられている雰囲気を感じました。
こういった「いろんな人がいて当たり前」の病院空間は、誰か一人の経験だけで作り上げられるものではないのだと思います。患者も、病院スタッフも、既に多様な”私たち”の経験の積み重ねが、誰もが安心して回復を目指すことができる医療現場を作り出している。そこで働く人たち一人ひとりが安心感を生み出す主体である。そんな場だからこそ、私は辛い手術と長い入院生活を乗り切れたのだと思います。
さて、私が入院した病院がLGBTsに限らず、さまざまな患者に適切な対応をしている/できる2つの要因は次の通りです。
1.患者の多様性を医療従事者が知っている。
2.医療従事者にも多様性があることが共有されている。
過去最高に快適な入院生活を経て、これからも治療を続けて行こうと思える病院でした。このような病院に出会えて私は幸運です。これが幸運ではなく誰もがアクセスできる環境になることを願って止みません。
今後もプリンセススクゥエアーLGBTs2代目担当、ワカクサのがん治療のほか、さまざまな場面で感じたことを発信して参ります。引き続きよろしくお願いします!