さまざまな患者に対応する病院の秘訣とは?(前半)ーがんで入院したトランスジェンダー当事者の体験談ー
こんにちは、プリンセススクゥエアーLGBTs2代目担当、関西出身のトランスジェンダー当事者、ワカクサです。今回からペンネームで発信させていただきます。
長らく更新が滞り、楽しみにされていた方には申し訳ありませんでした。2回の入院と手術、約半年間の食事制限を経て、そろそろ平常運転に戻りつつあります。その経験から、今回は私が入院した病院で驚いた経験をお話させていただきます。
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まず前提として、 認定NPO法⼈虹⾊ダイバーシティが毎年行っているアンケート調査から、LGBTsが医療にかかわる際の課題をご説明します。「LGBTQの仕事と暮らしに関するアンケート調査 2023」(こちら)では、よく知られるLGBTs当事者のメンタルヘルスの課題の他に、20%以上が医療を受ける際のストレスとして「質問がしづらい」と回答していることがわかっています。
病院の問診表で家族構成を聞かれたとき、「同性パートナーがいます」と言いにくい。ホルモン治療で体の変化が起こっていることを理解してもらえるか不安に思う。そういった事情に対応してもらえるか、そもそも質問しづらい。そんな場面がすぐ思い浮かびます。
同じ調査で、トランスジェンダーは健康診断を受けていない割合が他のセクシュアリティの人よりも高いこともわかっています。不本意な身体の性別を晒すことになるため、医療へのアクセスは当然悪くなります。女性のみの検査項目として、乳がんや子宮がんの検査も推奨されていますが、その善意すら圧力になることもあります。
私も今回の入院は健康診断から始まりました。多忙を理由に延期を繰り返して逃げ回っていたものの、いよいよ健康保険組合からお叱りの連絡を受け、しぶしぶ健康診断を受けたのが2023年の冬。そこで要再検査になった項目が!
「再検査、しなきゃダメですか? 仕事も忙しいし検査も辛いんですけど」
「ご自身の健康のために検査しているんですから、ちゃんと受けてくださいね」
健康保険組合の担当者とこんなやりとりをした後、やはりしぶしぶ受けた再検査で見付かったのが、がんでした。
「はい、悪性腫瘍、いわゆるがんですね。すぐ手術が必要です。来週から入院できますか?」
「来週!? いやちょっと仕事が・・・」
「じゃあ再来週にしましょう」
そんなに急がないといけないのか・・・。と、この時点で既に驚きました。国立研究開発法人国立がん研究センターによれば、日本人の2人に1人ががんを経験する時代(こちら)。とは言え、私の親戚にはがんを患った人がおらず、自分はきっとがんとは無縁だろうと思っていたのです。そして医師がこんなことを仰いました。
「手術について、一緒にお話を聞いてくれる方はいらっしゃいますか?」
アレ?? 「ご家族」って言わないの?? 医療ドラマではよく「ご家族を呼んでいただけますか」みたいな台詞と物々しさがあるよね?
「友人とか、同居人でも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。じゃあ、いつがご都合いいですか?」
拍子抜けするくらい、スルスルと説明が進むんだけど、これは何?? 私は性別変更のために身体の一部を手術していますが、過去の手術の履歴を話しても「はいはい、こことここを手術されているんですね。その時は開腹手術でしたか? 腹腔鏡手術でしたか?」と、手術の目的などは一切聞かれません。
その後、入院の準備をして病院を訪れると個室に案内され「こちらの都合ですから差額のベッド代は不要です」。アレ?? 流れ作業のように一切の質問がなく進むんだけど、これは一体??
2024年の春であってもコロナ対策を徹底していた病院ということもあり、お見舞いは一切なし。シャワーは個室に付いており、手術の後でも手すりにつかまりながら、何とか体を拭いたり洗ったり。入院中はただただ手術と回復に専念する環境が整っており、性別にかかわる話題は一切出ませんでした。私の経験的に、ヒソヒソ噂話をされたり、患者の意向を無視したり、揶揄するような発言があると思ったのに。
私の入院した病院が、LGBTsに限らず、さまざまな患者に適切な対応をしている/できる背景には、大きく2つの要因があることが、後々にわかるようになってきました。入院中に看護師さんや理学療法士さんから伺ったお話、私が拝見した病院スタッフの様子を元に、次回、後半にこの病院の秘訣をお話ししたいと思います。