六畳の部屋で 超短編
この薄暗く窮屈な六畳一間の空間はより一層私の精神を圧迫してくる。
最早ここには何も居ない。
全ての事がこんなにも立ちいかなくなるなんて、あれからは何をやってもまるで上手くいかない。
完全に社会から乖離された私の存在は曖昧に揺れているだけだ
誰からも必要とされない恐怖は焦燥感をも鈍らせる。
どれだけ絶望しても空腹感だけは訪れる。
付けっ放しのテレビからは未来への希望が流れ、自分との隔たりを映像化されている様で更に決定的な絶望感を与えてくれる。
空腹感を埋める術を得ないまま、既に3日目を迎えていた。
そして私は泡の様に脆くなった心で決意を固めた。
死のう。
都合良く手頃なロープがあったので後は話が早い。
ドアノブにロープを引っ掛け体の力を抜くだけだ。
この世への未練が無いと言えば嘘になるが、もうどうでも良い。43年。長かったのか短かったのか。
とりあえず今はお腹が空いた。
頭の中で鉛のような物がゆっくりと揺れ意識を混濁させる。まともに思考する事が出来ない。
視界には黒いもやがうっすらとかかり、狭い視界に拍車をかける。ぼやける。よく分からない。もう早く終わらしてしまおう。
そして私はロープを首にかけた。
全身の力を緩めようと最後の深呼吸をした。その時、私の手の甲を何か動く感触が訪れた。
ゴキブリだ。
私は慌て声を上げ手をバタつかせた。
ゴキブリは私の手の甲から飛び立った後、私の足元辺りでこっちを見つめるように留まっていた。
私は避けるように足をこっちに引っ込め三角座りの様な体制をとった。
これは死んでいる場合では無い。
いや、私は自分が死ぬ事よりもゴキブリの方が怖いのか?
途端死ぬのが馬鹿馬鹿しく思えた。
ゴキブリですらこうして生きているのに私は自ら命を絶とうとしている。
俺たちの様に残飯を漁ってでも泥水を啜ってでも生きなければならないのだとゴキブリに教えられた気がした。
気がつくとゴキブリは目の前から姿を消していた。
ひょっとしたら妻が生まれ変わって私の自殺を止めに来てくれたのかも知れない、と思いかけたが、
ゴキブリに生まれ変わったと考えるのは失礼な気がして止めておいた。