ヤマボウシ

トラオさんの家の庭のすみっこには、ヤマボウシがある。白いガクが王冠のように木の上に乗って、夕日が当たるとキラキラ光る。

タルボットは、縁側に腰掛けて、読書中。今日の本のタイトルは、『むべなるかな』だ。作者は富田安江。女流作家の自伝的小説である。

タルボット、それ、面白いの?とトラオさんが聞く。ネコには、むつかしい、とタルボットは答える。ただ、夜遅く帰ってきて、おひつに残っていたわずかなご飯をかきとって、カツブシをかけて、お茶漬けを食べるシーンが、好きなのだ。

トラオさんは、タルボットの隣に座って、ヤマボウシを眺める。日が長くなってきたねえ。今度、夜中の本屋さんに出掛けるときには、タルボットも一緒に来る?
そんな先のことはわからない、とタルボットは答える。
そうかそうか、行こうねえ、とトラオはタルボットの背中を撫でる。

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