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ものづくり補助金の功罪 ③徹底解剖"補助金コンサル"編


前回までのおさらい

 前回までの記事では、

① ものづくり補助金の政策としての概要(こちらの記事をご覧ください)

② ものづくり補助金を「1000万円お金配り祭り」へとハックした"補助金コンサル"とメーカーのスキーム(こちらの記事をご覧ください)

をご紹介しました。
たくさんの方に読んでいただき、大変嬉しいです!ありがとうございます。

 第3回となる本項では、前回の記事でご紹介した"補助金コンサル"の内情について、より詳しくご紹介したいと思います。

"補助金コンサル"をやっているのは誰なのか

 これまでの記事を読まれる中で、「事業計画書を作るには資格が必要なのでは?」という疑問を持たれた方は少なくないのでしょうか。

 結論から申し上げると、”何も必要ありません”

 今この記事を読んでいるあなたも、明日から補助金コンサルを始めることができます。
 私の肌感では、実際"補助金コンサル"として活動している人たちの80%以上は特に関連する資格を持ってないのではないでしょうか?

行政書士と中小企業診断士による激しいナワバリ争い

 とはいえ、皆が皆、"補助金コンサル"1本で事業を営んでいるわけではありません。"補助金コンサル"の中身には、とりわけ多い属性が2つ存在します。  
 それが、行政書士中小企業診断士です。
 いかんせん、"補助金コンサル"は「大学生レベルのレポートを出せば100-150万円がもらえる」やればやるだけ儲かる仕事です。
 当然競争も激しく、特に行政書士と中小企業診断士による激しいナワバリ争いが展開されてきました。

行政書士の主張「事業計画の作成は行政書士の独占業務である」

行政書士とはどんな仕事?

 「行政書士」がどのような仕事なのかを把握している人は多くはないのではないでしょうか?
 一言で言うと、「政府に提出する書類の作成を代行する仕事」です。
 そして、この仕事は行政書士法という法律で規制されている独占業務です。
 したがって、「政府に提出する書類の作成」を「行政書士以外の人」が行うと、行政書士法の違反となります。

「事業計画書」は「政府に提出する書類」なのか?

  行政書士の人たちは、"補助金コンサル"における自らのナワバリを広げるために、以下のような主張を展開しました。
 「補助金(ものづくり補助金を含む)の申請において添付する事業計画書は、経産省に提出する書類なのだから、行政書士の独占業務である。」

 ふむふむ、一見すると彼らの主張は筋が通っているようです。
 とはいえ、実際の社会では本当にこの主張がまかり通るのでしょうか?

 類似するケースで「官公庁入札」の場面を考えてみましょう。例えば、皆さんが建設会社に勤めているとして、インフラ工事の官公庁入札に参加するとします。
 官公庁入札の書類審査のために、工事計画や実績をアピールするための書類を作成する必要が生まれました。この書類審査用の書類は政府に提出する書類ですが、その作成を行政書士に依頼することはほとんどあり得ないと思います。むしろ、そのような書類の作成を、例えばデロイトやPwCのような行政書士ではない普通のコンサルに依頼することは、極めて自然だとは思いませんか?

 法律の世界は判例主義です。今のところ、「補助金の事業計画書の作成は行政書士の独占業務である」というを支持する見解は政府公式からは発表されていません。

 むしろその逆で、総務省の公式見解(新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表/令和4年2月16日回答)では、「事業計画書を作るためのアドバイスを送ることは、行政書士の独占業務ではないよ〜」という見解が発表されています。

 「事業計画書の作成を代行すること」自体が独占業務であるかどうかには政府はこれまで触れていませんが、実社会での現状や、法律的な考え方に基けば、この見解はむしろ、「行政書士以外の事業者が"補助金コンサル"に参入することを咎めないですよ!全然okです!」という政府の方向性を暗に仄めかしているように解釈できます。

そもそも…

  法律に明るい方であればご存知かと思いますが、行政書士の独占業務領域はもともと、あまり広くありません。
 行政書士試験でいわゆる「経営コンサルティング」に必要とされるような知識が問われることはなく、そんな彼らが"補助金コンサル"として活動したことは、むしろ"大学生レベルの粗悪な事業計画書の大量提出"を加速させたのではないかと私は考えています。
 私の周囲の行政書士法人でも、"無資格の業務委託に大量に事業計画書の作成を依頼する"事例が複数確認され、そんな彼らが「補助金の事業計画作成代行は行政書士の独占業務だ」と主張するのを見ると、

「お前らが言えたことか?」

と思うことも少なくありません。

中小企業診断士の主張「認定経営革新等支援機関の仕事だ!」

認定経営革新等支援機関とは

 サラリーマンの皆様には馴染みが薄いかと思いますが、実は「補助金申請における事業計画書の作成支援機関」として、「政府がお墨付きをあげるよ〜」という認定制度が存在します。
 それが、「認定経営革新等支援機関」です。

 「認定経営革新等支援機関」による事業計画書のチェックは、「事業再構築補助金」や「事業承継補助金」といったものづくり補助金以外のメジャーな補助金の申請要件にもなっています。
(ものづくり補助金では、同機関によるチェックは申請要件にはなっていませんが、「同機関から支援を受けたかどうか」を入力する欄があります。)

 私の仮説ですが、政府がこの認定制度を作った時点では、次のような流れを想定していたのではないでしょうか?

①中小企業が自分で新しい事業計画を策定する。
②認定計画革新等支援機関がその事業計画をチェックし、「こうしたらもっと上手くいくんじゃない?」とアドバイスする。
③中小企業がそのアドバイスをもとに事業計画を策定しなおして、融資や補助金の申請に利用する

 さて、少し前までこの認定経営革新等支援機関と同じ役目を果たしていた存在がありました。そう、メインバンクです。

メインバンクを担ってきたメガバンクのイメージ

 昭和から平成にかけて、メインバンクは「中小企業の経営状態を厳しくチェックする」という極めて重要な役目を果たしてきましたが、低金利政策における貸出競争を経て、その存在感はすっかり薄れてしましました。
 私の考えでは、「かつてのメインバンクの役目を認定経営革新等支援機関に担ってもらおう」というのが政府の意図だったのではないかと思います。

 ということで、日本のほぼ全ての金融機関は「認定経営革新等支援機関」になりました。
 とはいえ、メインバンクという慣習が廃れた現在、それだけでは数が足りません。
 そこで、「中小企業の経営コンサルタント」の国家資格でもある、中小企業診断士にも「認定経営革新等支援機関」になってもらうことにしました。

中小企業診断士とはどんな仕事?

 中小企業診断士は、経済学や経営学のフレームワーク、ITや法律の知識を駆使して、中小企業に経営のアドバイスを送る、れっきとした「経営コンサルタント」の国家資格です。
 一方で、法律家のような独占業務はないので、「補助金の事業計画作成支援は俺たちの独占業務だ!」と主張することはできません。
 とはいえ、先ほど触れた行政書士よりは、仕事内容に見合った資格だと思われます。

中小企業診断士はメインバンクの代わりになれるのか?

 「じゃあ、中小企業診断士が認定経営革新等支援機関としてメインバンクの代わりに事業計画を作ればいいじゃん!」と結論づければいいのでしょうか?
 以下の2つの理由から、私はそうではないと思います。

①中小企業診断士は融資をしてくれるわけではない

 中小企業が策定した事業計画に、「よっしゃ!これなら儲かりそうだな!お金貸してあげる!」と言えるのは、金融機関だけです。
 どんなに優秀な中小企業診断士でも、その企業に融資するわけではありません。むしろ、中小企業診断士自身には、「全然無理そうな事業計画でもとりあえず申請だけしてみる」ことにインセンティブが働いてしまうため、受託者責任の問題が残ります。(受託者責任:クライアントとコンサルタントの間に背任によるインセンティブが働く状態が存在する状態を指す金融用語)
 当初の認定経営革新等支援機関の制度導入の契機を考えれば、実際にその事業計画に投資して、自らもリスクを負う、金融機関による事業計画の承認が望ましいのではないでしょうか?

②事業計画は事業者自身で作るのが理想

 これもまた根本的な話になってしまうのですが、認定経営革新等支援機関が行うのは「事業計画を立てる上でのアドバイス」であり、事業者の代わりに事業計画をまるまる作ってしまうのは、事業を遂行する上で望ましくないのではないでしょうか。
 現状、"補助金コンサル"が作成した事業計画書の方が、事業者自身で作成した事業計画書よりも見栄えがよく、 採択率も高くなっています。
 事業計画を遂行する上で一番大切なのは「事業者自身のモチベーションモチベーション」です。コンサルといえどあくまでも他人であり、「人に作らせた事業計画」と「自分が作った事業計画」のどちらの方がうまく行くかといえば、確実に後者です。
 ということで、私の考えとしては、あくまで認定経営革新等支援機関は「事業者が作成した事業計画書を客観的にレビューする」存在であるべきであり、「事業計画を作成してそれが採択されたら成功報酬をもらえる」存在であるべきではないと考えています。

当社の紹介

 ということで、今回は"補助金コンサル"の内情について詳しく説明いたしました。補助金関連でお悩みのことなどがありましたら、弊社のメールアドレス(info@primeseed.net)までご連絡ください。

ウェビナーのご案内(11/6 19:00から)

 来たる2024/11/6(水)の19時から、Prime Seed合同会社主催「賢く健全に補助金制度を活用する」ウェビナーを開催いたします。
 本記事よりもより踏み込んだ、具体的な事例をご紹介した上で、石破政権下で補助金制度はどのような改革が見込まれるのかといった、最先端の情報についても共有させていただきたいと思います。

 どなたでも("補助金コンサル"さんも笑)ご参加を心よりお待ちしております。

こちらのリンクから、ご参加を受け付けておりますので、お気軽にお申し込みください。

Prime Seed合同会社 代表:宗片吉史
メールアドレス: info@primeseed.net
Webサイト: https://primeseed.net


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