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中小企業の経営に簿記2級は超役に立つ‼︎ ー①黒字倒産編ー
先日簿記2級を取得してきました。
商業簿記については大学の経済学部や趣味の株式投資で学習した内容と同じだったため復習だったのですが、工業簿記については初めて学ぶ内容が多く、新鮮な気持ちで勉強することができました。
簿記2級不要論
さて、簿記2級を学習する中でふと疑問に思いました。
「社会人は簿記を学ぶことで、普段の仕事にどのように活用できるのだろうか?」ということです。
しばしば、
「資格だけ持っていても役に立たない!実際資格を持っていなくても実務経験のある人の方が現場では使える!」
といった意見が展開されることがあります。
この意見は部分的には正しいのですが、資格勉強の大きな醍醐味を見落としています。
私が思う資格勉強の醍醐味は「資格勉強をしないと触れられなかったであろう知識」に触れられることです。
ということで、これから数回の記事は簿記を資格として勉強したことのない方や、これから勉強を始めようと思っている方向けに、「実務ではあまり目にしないけれど、知っておくと役に立つ簿記2級知識」について紹介していこうと思います。
(現時点でのイメージでは、①黒字倒産編・②減価償却編・③M&A編・④株編)
簿記2級で学べる知識 ①黒字倒産
経営コンサルタントの方とお話しすると、「日本の中小企業が抱える問題はなんだと思いますか?」という議論になることが多いです。
そして、私の経験上ほとんどの場合で「黒字倒産」の話になります。
黒字倒産って皆さんイメージつきますか?
大手企業に勤められている方や、経理以外の仕事に携わられている方は「黒字倒産」といった単語だけ思い浮かべてもパッと思い浮かばないのではないでしょうか?
例えば、500万円の商品を売って、現金500万円を受け取った時、簿記では以下のような仕訳を行います。
現金取引の時の仕訳
$$
\begin{array}{|l|l|l|l|} \hline
\text{借方} & \text{} & \text{貸方} & \text{} \\ \hline
\text{現金} & \text{5000000} & \text{売上} & \text{5000000} \\ \hline
\end{array}
$$
仮にこの商品の原価が300万円であれば、この取引から200万円の収益が発生するわけです。
$$
\begin{array}{|l|l|l|l|} \hline
\text{借方} & \text{} & \text{貸方} & \text{} \\ \hline
\text{現金} & \text{5000000} & \text{売上} & \text{5000000} \\ \hline
\text{売上} & \text{5000000} & \text{売上原価} & \text{3000000} \\ \hline
\text{} & \text{} & \text{収益} & \text{2000000} \\ \hline
\end{array}
$$
しかし、現実世界では500万円の商品の取引を現金で行うことは一般的ではありません。
納品してから実際のお金が振り込まれるまでは数ヶ月のタイムラグがあることが一般的です。
このような場合、簿記では以下のような仕訳を行います。
売掛金取引の時の仕訳
$$
\begin{array}{|l|l|l|l|} \hline
\text{借方} & \text{} & \text{貸方} & \text{} \\ \hline
\text{売掛金} & \text{5000000} & \text{売上} & \text{5000000} \\ \hline
\end{array}
$$
さて、これ自体は会計上では現金が売掛金に変わっただけの簡単な処理です。
収益もさっきと同様に、200万円の収益が立ったとみなされます。
しかし、実際の企業経営においては大きな違いがあります。
それは、売掛金が実際に回収できるかは不明瞭な点です。
もし仮にこの売掛金が回収できる前に取引先が倒産してしまえば、200万円の収益を失うどころか、原価の300万円を失ってしまい300万円の損失になってしまうのです。
取引先が1件倒産しただけならまだ耐えれるかもしれませんが、これが2件3件とまとめて続けば巨額の損失となり、黒字のはずなのに取引先の倒産という事故によって自社の出費(給料の支払いや仕入の支払い)が賄いきれなくなってしまうのです。
これが黒字倒産の全容です。
なぜ黒字倒産が大きな問題なのか
大企業に勤めていると「取引先が契約書を履行しない(期日までにお金を払う)」ということはほとんど発生しないため想像しづらいと思いますが、中小企業の世界では「契約を破られる」ことは日常茶飯事です。
なぜかというと、「契約を破られた際にそれを取り返すために訴訟を行う費用(弁護士に依頼すると50万円以上)」そのものが中小企業にとっては大きな負担になってしまうからです。
「契約を守らないこと」は刑事犯罪ではありません。前科もつきません。
そのため、「こいつは支払契約を破っても訴訟してこなそうだな」といった中小企業を狙って契約を踏み倒すことは、企業にとってある意味収益を最大化するための有効な戦術です。
そして、往々にしてこのような「契約を守らない」企業はキャッシュフローに苦労する中小企業です。
中小企業同士で潰し合っているわけですね。
このように倫理的に問題がある行動が、金銭的には最適戦略になる状態を経済学用語で「モラルハザード」と呼びます。
強盗のような刑事犯罪は懲役や罰金、前科がつくことによる社会的評価の低下といったペナルティによって、モラルハザードとなることを防いでいるのですが、中小企業との取引における契約不履行には十分なペナルティが存在せず、モラルハザードを防ぐことができていません。
Prime Seed合同会社がクライアントの黒字倒産を防ぐために行なっていること
私が代表を務めるPrime Seed合同会社は、日本の中小企業が強靭な収益基盤を築き上げることをミッションに、多角的なコンサルティングサービスを提供しています。
そして、このミッションを達成するための最優先課題こそが「クライアントの黒字倒産を防ぐ」ことです。
現状の「契約を踏み倒した者勝ち」というモラルハザードを防ぐ、最も有効な手段は「契約不履行に対してはどれだけコストがかかろうが、必ず法的処置で応戦する」といった姿勢を示すことで、(経済学のゲーム理論ではこれを「コミット」と呼びます)取引先から「ナメられない」ことです。
実は、契約不履行に対する民事訴訟は適切な法律知識があればほぼノーコストで行うことができます。
弊社は法律事務所ではないため、この手続きを代行するサービスは提供していないのですが、弊社のコンサルティングサービスはこのような法律的見地を踏まえた上で設計されています。
「キャッシュフローが厳しいけど何からやればいいかわからないよ…」といったお悩みをお持ちの方は、info@primeseed.netもしくは弊社のウェブサイトからお問い合わせください。お力になれる限りでご協力したいと思います。
やはり簿記2級は役に立つ
話を元に戻すと、簿記2級ではこのように自社の資産を現金と売掛金に分けることで、黒字倒産の危険性を明確化することの重要性を学習することができるのです。
実際の会計処理でもこのような売掛金には「貸し倒れ引当金」という「売掛金を踏み倒された時の保険」を設定することが求められており、これも簿記2級で学ぶことができます。
このように、簿記2級は漫然と学習するだけだとただの暗記科目ですが、「なぜこのような仕訳が必要なのか」という点を突き詰めると、経営に大切な視点が得られるのです。
ぜひこの記事を読んで「会計なんて今まで気にしたこともなかったけど勉強してみようかな…」と思っていただけましたら幸いです。
Prime Seed合同会社 代表:宗片吉史
X:@prime_seed_
Webサイト:https://primeseed.net
メールアドレス: info@primeseed.net