『カブアンド』は令和のポンジスキームなのか?
2025/01/02追記
※あくまで現時点での個人の所感です。
カブアンドを否定する記事ではありません。
見落としている視点があればぜひコメントにてご教示ください。
カブアンドとは
『カブアンド』というサービスを知って、やはり前澤さんは天才だと思った。
ZOZO創業者で、「お金配りおじさん」として有名になった前澤友作氏が、「カブアンド」なるサービスを始めるという。
簡単に言うと代理店ビジネスであり、電気やインターネットなどの生活インフラをカブアンドで契約してもらい、各事業者からのマージンで利益を得るタイプの収支モデルとなっている。
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というのは経営者目線での話で、ユーザーにとっての目玉システムは、
運営会社である株式会社カブアンドピースの株式をもらえるという部分だろう。
前澤さん本人も、”国民総株主”をスローガンに掲げ、本も出版している。
発行価額は1株5円相当となっており、「上場すればそれが数千円にもなるので儲かるかも!」という部分がユーザーにとって魅力だ。
現にSNSでも話題になっており、公式HPでも発表されているが、第一回発行の株式がなくなりそうだから、募集を予定より早く停止するらしい。
ブロックチェーンゲームと類似
この図式を見て、僕はあるビジネスモデルを思い出した。
それが、”ブロックチェーンゲーム(以降、BCG)”である。
カブアンドに対する僕の見解の前に、BCGの仕組みについておさらいしておこう。
BCGとは、超ざっくり言うと仮想通貨が稼げるゲームで、プレイした報酬として仮想通貨が発行されるというもの。
そういうと聞こえがいいが、実態はシステム自体が矛盾した、情弱からお金を巻き上げるシステムである。
仮想通貨に限らず金融商品は人気が出れば単位あたりの価値が上がり、流通量が増えると需給バランスが変わり、相対的に価値が下がる。
その売買の差額によって利益を得られるシステムになっている。
ということはBCGでもらえる通貨も、プレイ人口が増えればその価値は上がるはず。
しかしBCGはプレイするだけでゼロから仮想通貨が発行されるため、ゲームの人口が増えれば通貨の流通量が増えてしまい、価値が下がる。
つまり、BCGでもらえる通貨は価値が上がりにくい構造になっているのだ。
なので多くのBCGは、プレイ報酬として無限に発行される通貨A(ユーティリティトークン)と、発行上限を定めている通貨B(ガバナンストークン)の2種類の通貨を採用し、通貨Bの価値を上げる構造を取っている。
(このあたりはやや複雑なのでこれ以上の説明は割愛する)
BCGは”ゲームでお金を稼げる”、”Play to Earn”を銘打ってはいるものの、まずゲームを開始するためにはゲーム内アイテムであるNFTを購入しなければいけない。
そしてそれが3万円~など高額であることがほとんどだ。
3万円のアイテムを買って、それが3万円の利益をもたらしてくれるならいいのだが、多くの場合そうはならない。
YouTuberのヒカル氏がアンバサダーを務める「Project XENO」というゲームの場合、1ヶ月ガチでプレイして1万円程度しか稼げないらしい。
1ヶ月の1万円の稼ぎのために投じた課金額は10万円ほどだそう。
(参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=EmbUt8J_Ehg)
10万円の初期投資をかけて、可処分時間もフルに使ってようやく10ヶ月で初期投資を回収である。
稼ぐことが目的ならアルバイトしたほうがいいし、楽しむことが目的ならもっとおもしろいゲームはたくさんある。
初期投資の数万円は、もちろんゲームの運営会社に入る。
ちなみに多くのBCGでは、通貨をマイニングできるアイテムを合成させると一定確率でレアなマイニングアイテムが手に入るミントという機能を採用している。
レア度が高いとゲームを有利に進められるため、他ユーザーに高値で売れるのだが、それを利用して(アイテムを転売することで)儲けるNFT転売ヤーもいる。
この仕組み上、ゲームリリース時は有名人に宣伝してもらって「ゲームしながら稼げる!」という夢物語につられて集まった人たちからお金を集め、プレイ報酬として少しだけ還元。
そこから「あれ?儲からないぞ・・・」とバレてきた時点で人が減っていき、人口が減るとNFT転売ヤーも離れるので、ゲームに連動している通貨の価値も下がっていく。
というお決まりのパターンをたどるのがBCGのビジネスモデルだ。
最初にお金をかき集め、
少しだけ還元し、
結果投資したお金は返ってこない。
この流れが確定しているため、BCGはよくポンジスキームと揶揄される。
ここまでBCGの概要を説明してきたが、なぜ僕がカブアンドを見てBCGを連想したのか。
このBCGの構造を理解したうえで、カブアンドのビジネスモデルに着目したい。
カブアンドはポンジスキームなのか?
カブアンドの特徴を一言でいうと、ポイ活を複雑化させたものだ。
電気やモバイル、ウォーターサーバーなどの料金を見てみると、業界最安水準とはならない。
料金はまだ比較できるだけマシで、提供されるサービスの品質に関してはサービスが始まるまでわからないので、費用対効果が予想しづらく、「高いけど品質いいからいいよね」とはならないのが現状だ。
ではなにに価値を感じて契約するのかというと、それは目玉である株の投機価値だろう。
上場すれば5円の株が何百倍にもなるよっていう。
だがそのために割高のサービスを契約するのであれば、本末転倒な気もする。
これは株という、価値が上下する金融商品が報酬となっているからわかりずらいが、もしこれが価値が上下しにくい、ポイントに置き換えてかんがえるとわかりやすい。
品質はさておき、安いしポイントも貯まるからという理由で楽天モバイルを使う人は多いと思う。
カブアンドでモバイルを契約する人は、熱心な前澤さんのファンを除いて同じように、「最安ではないけど株で儲かりそうだから」という理由での利用者がほとんどだろう。
経済的メリットを目的に契約するため、本質的にはポイ活と変わらないのだ。
もし楽天モバイルが他社よりも割高で、ポイント還元を考慮しても損をしてしまうという料金体系であれば、熱心な楽天ユーザーであっても契約しない可能性が高い。
同様に、「今は儲かりそう」という理由でカブアンドに申し込み、特別安くはないインフラサービスを契約している人たちがいる。
しかし、もしサービス利用による利益とカブアンドの株式売買による利益の合計がマイナスだと計算できる状況だったら、おそらく熱心なファン以外は申し込まないだろう。
この、リリース前に広告費をかけて「儲かりそう」という雰囲気を醸し出し、お金がほしいと思っているユーザーを集めている構造が、BCGリリース時の流れによく似ている。
1回で高額の初期投資を求めず、サブスク型だから違う、と思うかもしれないが、契約時に3年縛りがついているので、これは3年分の売上を分割払いしてもらうのと変わらない。
これが、カブアンドを見てBCGを連想した理由だ。
カブアンドの集客はBCGにすごく似ている。
もちろん、だからといってカブアンドがBCGと同じような流れ、つまり実質的なポンジスキームになるとは言い切れない。
本当に上場して、割高な料金を払った以上に株の売却益を得られる可能性は十分ある。
それに前澤さんは「3年後に上場しなければ買い取る」と言っている。
何より、事業開始前の現段階で集める利益(3年間の事業利益)よりも、カブアンドピースが上場することによって得られる利益のほうが大きいので、前澤さんも本気で上場を目指すはずだ。
また、
・得られる報酬をユーザー間で簡単に売買することができない
・報酬が有限
・可処分所得ではなく生活費の支払い先が変わるだけ
といった点がBCGとは異なるので、カブアンドがBCGと同じ末路をたどるとは考えにくい。
特に3点目が重要で、ユーザーからすれば割高かもしれないが、生活費が微増するだけなので、可処分所得を費やさなければならないBCGよりも手が出しやすい投資と言える。
つまるところ、カブアンドがBCGと同じようなポンジで終わるかどうかは、今後の会社の運営次第だろう。
運営に失敗し、株式の価値が下がってしまえば、結果としてポンジスキームだったということになるし、上場に成功して儲かる人が増えればよいビジネスだったねということになる。
ちなみに僕はやらない。
他人にも勧めない。
カブアンドのここがすごい
カブアンドがポンジっぽいとは思ったものの、実はビジネスとしては成功する可能性が高いんじゃないかとも思っている。
最後に、経営者目線でカブアンドについての所感を述べたい。
まず”国民総株主”というビジョンがとてもよいと思う。
株を持ってもらうことによって、少なくともカブアンドピースのIR情報に興味を持つ人たちは確実に増えるだろう。
そうなれば、世の中がどのような仕組みでお金が動いているのか、なぜ値上がりするのか、など経済への理解が深まる。
要するに日本の金融リテラシーが高まると期待している。
ビジネスモデルに着目してみよう。
”国民総株主”を目指すだけなら、事業内容はなんでも良さそうに見えるが、そこに生活インフラサービスを選んだのもすごい。
・サブスクである
・メイン事業(お金配り)とのシナジーがある
という2点のメリットがある。
サブスクであることは、買い切りアイテムを売って儲けるBCGと違ってポンジ化を防げる重要な要素だし、経済的メリットがあるインフラサービスの見込み客はすでに前澤さんのXのフォロワーにたくさんいるので集客のハードルも低い。
そして、集客モデルの素晴らしさ。
BCGはポンジスキームであると言ったが、そのBCGの秀逸なところはしっかりと人を集めている点だ。
やはり儲かりそうだと思うと飛びつく人間というのは多い。
カブアンドも同じく「儲かりそう」という餌で集客しているものの、確定でユーザーを不幸にしてしまうBCGとは違って、上場がゴールなのでポンジの意思はないと断定できるからユーザーにとっても安心だ。
そしてサブスク型のビジネスモデルにすることでサービススタート時には3年間の収支予測がつきやすいようになっており、成功率を高めている。
さらには、前澤さん(お金配りおじさん)のフォロワーにはカブアンドのサービスに興味を持ちそうな人が多いという点も、既存の資産をうまく活用できる非常に効率的なビジネスであるといえる。
ただ、僕はカブアンドは利用しない。
ビジネスモデルは優秀で成功しそうだし、理念にも共感するが、それでも今のサービスから乗り換えるほど、リスクリターンのバランスが取れてはいないというのが現時点での感想だ。
それに結局のところ上場して儲かるのは前澤さんであって、利用者はそのうちのごく一部を還元してもらうだけ。
つまり、既存のポイ活や節約とほとんど変わらないので、その程度のメリットなら、確実性のある最安のサービスや、自分の生活スタイルに合わせたサービスを選ぶ方がよい。
ただ、もしカブアンドをやろうと考えている人、すでに申し込みをした人はぜひ、このようなビジネスモデルやマーケティングの観点からもカブアンドを応援してほしい。
そんなことを思いました
おわり。