見出し画像

👽️👽️

高層住宅の屋上で、僕は彼女と月を眺める。夜空の無限の暗闇の中に、僕たちは小さな点のように存在していた。この街で一番宇宙に近い場所でもまだ、夜空は張り付いて見えた。ただ、月が綺麗に見えていた。


「僕たち、何者なんだろうね?」と、ぼくがつぶやくと、彼女は少し考えてから答える。「エイリアン、ってことはわかるけど、それ以上はわからないよね。」彼女の声はひどく平坦で、夜に溶けていきそうだった。


どうしてエイリアンであることを知っているのか、それすらも曖昧だった。彼女は短い髪をかき上げた。彼女には僕がウサギの耳の少女として見えている。僕たちの姿は見るものの見たいように見ることができるらしかった。だから彼女、黒いスーツを着たショートヘアの女性の姿も僕の求める幻なんだ。



「僕はエイリアンだ。鏡で見る自分は、僕自身が求める幻想なんだろう。」その言葉は拡散して闇に消えていく。彼女が微笑む。意味のない微笑に、僕は笑い返しているのだろう。


「でも、私たちはここにいる。」彼女が言った。彼女の声には不思議な安らぎがあった。僕たちは、少なくとも一緒にいることを知っていた。


人間の真似事をすることに、何か意味があるのかはわからなかったけれど、接吻を交わしてみる。その瞬間、ただの動作に過ぎなかったことを感じる。僕たちの心には、エイリアンとしての冷たさしかなかった。僕達はここにいる。


「人間はどう思うだろう?僕がエイリアンだって言ったら。」漠然とした疑問だった。どうでもいいことのように彼女は答えた。「きっと、驚くよ。でも、私たちのことは理解できないだろうね。」

彼女の言葉に空気が震えることはない。ただ僕には届いていた。エイリアンという存在は、人間からは決して理解されないだろう。どこにいたって僕達にとっては宇宙であり、僕たちはエイリアンなんだから。


「でも、私たちの存在は、ここにある。」彼女が言う。黒く短い髪は風にたなびき月の明かりがほのかに照らす。艶のある髪だ。目を離せば闇に溶けてしまいそうな彼女の存在は儚くて綺麗だ。エイリアンであろうと、僕たちは一緒に月を見て、人と同じ言葉を話して、朝が来る前にどこかへ向かう。僕は彼女のことをエイリアンであること以外知らないし、彼女も僕のことは何も知らない。ただお互い、そこにあるということを知っていれば十分な気がした。


もう一度接吻を交わしてみる。人間のように微笑を浮かべて、所在ない僕たちを確かめるように。

たしかにここには僕たちがいるらしかった。

心というあやふやな宇宙は彼女と溶け合っていって時の流れと共に消えていく。

「わたしたちはいまここにいる」あやふやな存在を確かめるようにその言葉を繰り返す。

僕を見る彼女の瞳の中に僕はいないのだけれど、僕を形作っているのも彼女だった。もう少しだけ、僕は月をみてこの宇宙に存在していたいと思った。月が優しく僕らを照らしていた。











いいなと思ったら応援しよう!