53.古賀コン提出作品『今宵、あなたが王子様』
きよしこの夜、私は恋のキューピッド
うなれ、走れ、突っ走れ!
今日、私は叶えたい願いがあった
時は2024年12月24日、決戦の日
私は同行援護のヘルパー小村として、粉雪が舞う冷たいアスファルトを駆け抜け、クリスマスで賑わう駅前にむかう。ポストの前に立つ、白いコートに赤いドレスの女性を目指した。
彼女は社交ダンスパーティーへとガイドする私を待っていた。
ヤバイ!この雰囲気はアレが来る
閉じた目で白杖を携え、凛とした姿はまるで女王のようだった。
息を切らして彼女に声をかけると、音声腕時計が無情にも告げる
13時02分デス
「2秒遅い!どうして今日のガイドにあなたを選んだかわかる?」
私の言葉に、彼女は白杖を振り上げるが、私はそれを華麗にかわす。
「ダンスができるからです」
彼女の鋭い声に、私の心臓はドキドキと高鳴る。
「小村、逃げないで!」
「白杖の使い方を間違ってますよ」
一歩下がり、彼女の次の動きに備える私。
大沢様は60歳でフルマラソンを走る実力者。彼女の情熱を侮ってはいけない。
「今日は鈴木さんとワルツを踊る日です。タクシーに乗ってレストランに向かいましょう!」
私は黄色いタクシーを拾い、彼女をエスコートする。大沢様は片思いの鈴木さんと踊るために、私と共に1年間の猛特訓をしてきたのだ。
彼女が告白をするために。
大沢さんの恋のキューピーットに小村はなりたい。なぜなら、この同行援護事業所で、はじめて指名をいれてくれたのは、彼女なのだ。
ダンス会場は熱帯魚のような華やかな紳士淑女で溢れ、鈴木さんは常に誰かと踊っている。
「まだ鈴木さんのパートナーは終わらないの?」
緊張を隠せない大沢様に、私は会場の状況を伝えつつ冷や汗を流す。
「私、鈴木さんに声をかけてきます。」
鈴木さんに声をかけるとは、いま踊っている相手に交渉することを意味する。彼はモテるので、女たちの遺恨が残るかもしれない。
つまり、先輩ガイドから嫌味がくるのを覚悟しながらダンスフロアに向かう。
しかし、彼女は私の手をしっかりと握った。
「小村、私は声をかけてきてと言ったかしら?」
彼女の言葉に驚く。
「いいえ」
「ガイドは利用者の希望をまず聞くのよ。あなたが私と踊りなさい。」
「いいんですか?だって今日は告白するって頑張ってたじゃないですか!?」
私の問いに彼女は微笑む。
「そんなのどうでもよくなったわ。それより貴方と一年でダンスを踊れるようになったのが嬉しいの。」
彼女は閉じた目で立ち上がり、私と共にダンスフロアへと歩を進めた。
「小村が私の王子様。私たちのダンスを見せつけてやるわ!」
その言葉に、私たちはの主役のように踊り始めた。
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1時間で初めて描きました。
白杖の表現に、疑問を思われる方がいるかもしれません。私の日常が半分はいってますが、ルポルタージュではありません。
同行援護経験者です。