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【まえがき(本書の発刊にあたり)】正しい独立・起業への歩みを始めよう
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このたび本書を発刊するにあたり、たぶん筆者の起業本の最終版(ラストメッセージ)になるであろうとの思いで、取りまとめました。本書は次の感想文にあるように、前著二冊を底本としております。
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筆者の友人・知人には、創業経営者や専門分野におけるプロ(士業)の方が数多くおられます。筆者は創業事業が軌道にのり、社外活動ができるようになった頃より強く感じたことは、「人生は邂逅(かいこう)である」との想いがあります。それは、人と人とが知り合う偶然の出会いが、以後の自分の人生に大きな影響を及ぼすことを知ったからでした。
機会があり、初めての名刺交換をした折にお話を伺っていて、この方とは良き縁を結べると感じましたならば、後日挨拶状と共に拙著を謹呈しました。そして、その方のリアクションのなかに識見や礼節を重んじる姿勢が見えれば、より積極的にお付き合いを重ねてまいりました。
ある方に前例に倣い二〇一三(平成二十五)年七月に刊行した『起業いろは塾 ―新しい自分の形 独立・起業への挑戦―』と、二〇一六(平成二十八)年四月に刊行した若きアントレプレナーに贈る『起業百話』の二冊を贈らせて頂きました。
後日、その方から読後の感想文がメールにて届きました。
謹呈頂きました『起業いろは塾』『起業百話』の二冊を読んで感想をお伝え致します
私の「起業」は三十歳になる手前でした。故郷の福島県にUターンし、フリーのプログラマーとして独立しました。上京後、四年間で一〇〇〇万円の資金を準備し、いつか起業を夢見ていました。その後以前の会社の上司と意気投合し、私が社長の立場で法人化致しました。拠点を千葉県・市川市に設け、そして縁あって他に二人の社員を抱え、四人でスタートを切りました。
最初の四年は赤字続き、自己資金のほかに準備した一〇〇〇万円も底を尽き、新たに八〇〇万円を借りて急場を凌ぎ、ぎりぎりのラインで幸いにも業績が好転。その後、停滞もありながら、順調に経営を続けております。
フリーの頃、仕事は多くないものの、経営に困ることなく法人化の資金を貯められた反面で法人化後、経営に非常に苦しんだのはなぜだったのか、それは明らかに「経営に対する甘さ」だったと思います。特に資金の流れに関して、甘く捉えていたためでした。本来2人でスタートすべきところが、倍の四人になったことが最大の原因だったと思います。対応策として一年目で一人、三年目に二人目のリストラを実施。元の二人になってから、事業は大きく好転したのです。
反省としては、起業で大切なことをきちんと理解していれば、このような苦しみを受けることはなかったでしょう。もちろん、苦しんだからこそ得たものはそれこそ沢山あります。二年経った頃から経営に関する猛勉強。読んだ本は数千冊。経営セミナー、CD・DVDなどをあわせて約五〇〇万円は投資したと思います。そして、私がこの度頂いたこの本を手にとって感じたことは、「この内容を事前にきちんと理解していれば、起業時に、徒に苦しむことはなかった」「すでに起業した人間にとっても、経営に関する必要な内容が多く書かれている」ということです。
私の経験からも起業には、理念、戦略、組織論、資金など様々な内容が必要です。しかし、多くの本は理念のみであったり、資金のみであったりします。あるいは、そのバランスが偏っている。頂いて読んだこの二冊は、このバランスがとても良いと感じております。
また、他にも本人の起業体験だけをまとめた本も数多くあります。この二冊もご自身の体験を書かれていますが、実際に起業家を育てておられる経験から書かれておられる内容が多いので、内容的にも十分理解度が深いと感じております。
起業に必要な四つのテーマとして、「資金調達」「ビジネスと売上の型」「粗利重視」「人間力」が掲げられています。これは起業時のみではなく、経営を継続し、永続するために常に磨き上げてゆかねばならない項目と感じます。
この2冊の利用法をあえて述べれば、
・起業前の人は、『起業いろは塾』で体系的に学ぶ。
・起業後の人は、『起業百話』で自らに必要な経営の課題を学ぶ。
「起業したい」人は、知識を体系的に得る必要があります。なぜ起業するか、どう起業するかの、WHY・HOWに始まり、心の固め方、考え方、ヒト・モノ・カネ、仕事術、起業後の展開に至る『起業いろは塾』は起業の「教科書」として最適な一冊と考えます。
『起業百話』は、初めから最後まで一通り読むのも良いですが、起業後に自らの経営上の課題にぶつかったとき、その解決法を見出すきっかけが得られる本だと感じます。タイトルに「起業」とついているので、どうしても起業後の人には無関係に感じられますが、よく読み込みますと長年経営してきた自分にも、常に必要な課題が詰まっており、「自分の課題は何か」に気づくことができる一冊と感じております。
できれば、二冊とも並行的に読むことによって、起業とその後の経営についての理解を深める。そんな読み方が最高なのかもしれません。起業百話にあるように、「アントレプレナーとは、進取の気性に溢れる人、出る杭」であるならば、常に事業経営している社歴の長い会社であっても、忘れてはならない心構えでもあるかと感じます。
筆者は若き日に上京し、脱サラして事業を興し、多くの紆余曲折を経て、創立五十周年を機にフェードアウトして、その後始末に一応の目途をつけました。
そのような中、二〇二二(令和四)年の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、三密生活のさなか、本書の取りまとめの作業を少しずつ行ってまいりました。
本書の発刊にあたり、筆者が真に願うところは今後、読者の方がご自身の夢と志とする独立・起業に関しての正しい認識をもって臨んでほしいということです。そして、成功することも大切ですが、先ずは失敗をしないことを心に留めて臨んでほしいとの思いに尽きます。
そのため、本書では留意点を強調しすぎた向きがあろうかと思います。これは筆者のライフワークである若き志をもった起業家を「生み・育てる」ことの活動における実情からして、最近では本当にネガティブな情報が多く、
その原因はこれまで若者特有の「軽いノリ」や「安易さ」などに起因する失敗例に数多く接してきた筆者からの経験上の警句なのです。
突き詰めて言えば、昔からの格言にあるように「事前の一策は、事後の百策に勝る」「成功は偶然、失敗は必然」という言葉に尽きると思います。