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「ごんぎつね」を改めて読んで、その緻密な構成にびっくりしたことと、ごんのキムタクみについて
この記事のAI要約
「ごんぎつね」は、大人になって読み返すと、子どもの頃とは全く違う解釈ができる名作。SNSで話題の「ごん」の死については、実は物語の解釈が深まるポイントの一つ。作者は、きつねの心情を丁寧に描写することで、ごんを主人公として物語を進めています。兵十の心情は描かれていませんが、行動を通して、ごんの視点から物語が語られていることがわかります。また、人間しか登場しない設定や、ごんが孤独な存在として描かれている点も注目すべきです。大人になって改めて「ごんぎつね」を読んで、新たな発見や感動を得てみてはいかがでしょうか。
忘れかけていた名作との再会
最近 SNSで「ごんぎつね」のラストシーンで「ごん」が死んだと読み解けない子供が一定数いるといった内容が話題になっていました。
もちろん私は「ごんぎつね」のお話を知っています。
その記憶から「ごん」は死んでいると思っていました。
ですが、「ごんぎつね」を読んだのは子供の頃です。
そこで改めて、大人になった今、「ごんぎつね」を読んでみようと考えました。
もしかしたら子供の頃とは解釈が違っているかも…その程度の考えで読むことを決めたのです。
小学校の教科書にも載っていたのじゃないかな?だとしたら短くて読みやすい作品だろう。その気楽さもありました。
現在「ごんぎつね」は WEBで無料で読めます。
ごんぎつね全文:
https://www.aozora.gr.jp/cards/000121/files/628_14895.html
記憶と異なる物語の展開
読み始めて、最初の二行くらいですごく違和感を覚えました。
語り部が二重になっています。
「むかしむかし」に当たる部分が二行目にあります。
読み進むにつれ、自分は「ごんぎつね」をちゃんと読んだことがなかったんだ!
と強く思いました。
記憶の中の「ごんぎつね」の登場人物は3人くらいだと思っていました。
が、実際は登場人物がすごく多いのです。
それも、一回出てきただけで、それ以降物語に関わってこない人物な名前がどんどん出てくるのです。
これは一般的な小説の書き方としては褒められたことではありません。
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主人公は誰?
また、気になったのはきつねの心情の描写がものすごく多い。というか、きつねのごんの感情で物語が進んでいきます。
兵十の心情は、描かれていないのに行動はよく描かれています。最初に網で魚や鰻をとる描写など大変丁寧です。これはあきらかにごんの目線で見たものです。ごんが、見たことや感じたこと、考えたことで物語はしっかりと進んでいるのです。
自分の勝手な記憶の中の主人公は兵十の方だったのですが全く違いました。主人公は、ごんの方なのです(ごんは表面上の主人公で、実は…という見方もあるかもしれませんが、「主人公の目と感情で物語が進む」のだとしたら、ごんが主人公という書き方になっています)。
「ごんぎつね」は、大きく6つのエピソードで構成されています。
ラストシーンの最後で兵十がごんと気持ちを通じ合わせたと思わせるシーンがあります。
有名な兵十のセリフ
「ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは。」
の後に
「ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。」
という描写が続きます。
ここで、ごんは目を閉じてしまっているので、その後の描写は兵十が見たものと感じたことになると思います。
たった、一行だけですが。兵十の気持ちがそこに描写されているはずです。
私は、物語を読み終わりましたが、まだ最初に感じた違和感は消えません。
そこで私は最初に書かれていた場所について調べてみようと思い立ちました。
私の予想では、「この物語は作者のごく近い場所や人を描いている」です。
近くの場所を描く。そこに実際に住んでいた人たちの名前を出す。
もしかしたらごく小さなコミュニティで仲間内で楽しめるようにそのコミュニティにいる人たちの名前を出したのではないかと思ったのです。
大勢の人の名前が出てこなくてもこの物語が成立するのにわざわざ出しているからです。
物語の最初の方に
「むかしは、わたしたちの村のちかくの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまがおられたそうです。」
と書いてあるので、中山さまというおとのさまについて調べました。
参考にした WEBサイト:
https://www.nankichi.gr.jp/index.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/新美南吉
http://saint-just.seesaa.net/article/20801705.html
http://underzero.net/html/tz/spm_03_03.htm
ビンゴです!中山様が城主だった岩滑城の近くに「新美南吉記念館」がありました。
なんと新美南吉は、中山家の子孫である「中山ちゑさん」と幼馴染。
大人になってからは、結婚も考えたほどの間柄だったというのです。
しゑさんは民話を南吉に語って聞かせていたそうです。
彼女からの影響はあると想像できます。
また、「江端兵重」という兵十のモデルとなったと考えられる人もいたそうです。「六蔵狐」という、ごんを思わせる「村人から親しまれていたキツネ」もいたそうです。
そのようなことから、「ごんぎつね」の物語は、新美南吉が自分の身近な場所やことをいくらか思い出しつつ書いたものだと想像できます。
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語り継がれる「ごんぎつね」の真実
そこで、もう一度最初から読み直すことにしました。
過不足なくエピソードをきちんと並べて描いているに違いありません。
やはり、ごんが主役で、終始ごんからみた風景や感情が描かれています。
エピソード1は起承転結で言うところの起。
2で、ごんの反省。
3で、ごんの行動で思わぬことに発展し、ごんは自分の行動を考え直す。
…といった感じで、そのシーンで描くべきことをきちんと描いています。
しっかりした構成です。
と考えていくうちに、最初の行で語り部が二重になっている意味と「むかしむかし…」にあたる内容が一行目ではなく二行目にある意味もわかってきました。
物語の一行目は、 「これは、私が小さいときに、村の茂平というおじいさんからきいたお話です。」
「私」が、現在の語り部。「茂平さん」はその前の語り部。
二行目に 「むかしは、私たちの村のちかくの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。」 と続きます。
語り部である「私」にこの物語を聞かせてくれた「茂平さん」も誰かからこの物語を聞いたに違いありません。
ラストまで読んだ後最初を読み直すと、最初にこの話を語ったのは、兵十ではないか。
昔々の部分を二行目に書くことで、代々この村では「ごんぎつね」のお話が語り継がれているという事をあらわしているのでは、と思えてきます。
だからこそ主人公が、ごんなのかもしれません。 書き忘れていましたが、最初に読んだ時の違和感の1つに、この物語に人間は大勢出てきていますが、動物は一切出てこないこともありました。
ごんは、この物語に出てくるたった一匹のきつねで、孤独な存在として描かれています。そして兵十も母親を亡くし一人きりになりました。
…これ以上は、皆さんが読んでそれぞれの解釈をするのがいいと思いますので、このあたりでこの記事は終わりにします。
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おまけの感想
・個人的に可愛いなと思った文章
「兵十の影法師かげぼうしをふみふみいきました。」
・キムタクみがあるなと思ったセリフ
「ちょッ、あんないたずらをしなければよかった。」
・絵が浮かびにくいところ
はりきり網 これは新美南吉記念館の Q&Aの欄に写真付きで説明がありましたので、気になる方は、ご覧ください。
最後に、教材として活用する場合に参考になる WEBサイトと書籍をあげておきます。
https://koutoku.ac.jp/toyooka/pdf/department/kiyou/28/28-9.pdf https://www.toyokan.co.jp/blogs/edupia/tessoku005?srsltid=AfmBOoo_m_xPNgw3kU1SKotYlCwf5YulJHKlUSifclq59uiHDRNf6fsl https://foresta.education/estanet/share/pdf?token=l1MgkNE8yiUW3Ek_Q8E6NIUwpBOewUKQ_1487155968
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