ストロベリータルト #1
このところ美しい秋晴れが続いている。
澄み切った空はどこまでも青くて、毎日清々しい気分だ。
こんないい天気の日は、外に出かけないともったいない!それに、秋と言えば収穫の季節だ。この時期なら、フィオリーレの森でベリーやハーブ、木の実にきのこも採れるはず。
実は朝と夜に涼しさに家族や仲間と、みんなで行きたいねーという話はしていたのだけれど、結局予定が合ったのは一人だけだった。それでも誰かとお出かけ出来るのは嬉しい。
身支度を整えていると、スタンドに吊るしたイヤリングが淡く発光し、短く通知音が鳴った。
起動して見るとロック画面には『今日は同行できなくてすまない』と表示されている。友達からのメッセージのようだ。
まめだなと思いつつ『いいよ』と入力して送信する。返事はすぐに来た。
『フィオリーレに行くんだったね。入口から右に進んだ先に脇道があるのは知ってたかい?』
『そうなの!?それは初耳だった!』
フィオリーレは何回も探索しているけど、まさか行き止まりだと思っていた場所に、隠し道があるとは。
彼が言うには、その道を真っ直ぐ進んだ先に綺麗な花畑があるらしい。
『教えてくれてありがとー!!…で、対価は何をお望みですか?』
『おいおい!仲間とは情報共有するもんだろ?対価なんていらないって』
『ええ?ケイくんが何の見返りもなしに情報くれるなんて、明日雪でも降るんじゃ…』
『ひどいなw』
ケイ=フェアラート。彼とは高等部1年からの友達だ。噂話や情報を集めるのが得意で、将来はジャーナリスト志望だとか。
『でも驚かせてもらったし、お礼にお菓子適当に見繕っとくー』
『おお!それは楽しみだ。それならここはクレスティアの厚意に甘える事にするよ』
最後に『それじゃあ、また学校でね』と送信して、トークを終えた。イヤリングは戻さずに右耳にかけておく。
ケイくんとは別クラスだし、休み時間みんなでシェア出来るように、少し多めにクッキー焼いて持っていこう。
みんなとお菓子つまみながら話すの楽しみだな。ふふっと頬がゆるむ。
「いってきまーす!」
玄関のドアを開けると、あたたかい朝陽の光とともに心地良い風に乗って、ふわりと花の甘い香りが運ばれてくる。
外に出てうーんと背伸び!と深呼吸。敷石の上を軽やかな足取りで、鼻歌混じりに歩き出した。
馥郁たる香りに誘われるようだった。
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