婦人科がん専門医が明かす:慢性生理痛が“子宮内膜症”そして“卵巣がん”につながる理由
1. はじめに
「生理痛くらい、あって当たり前」と思っていませんか?
毎月の生理で、我慢できないほどの痛みを感じる場合は、実は子宮内膜症という病気の前兆かもしれません。子宮内膜症は不妊や慢性骨盤痛の原因になるだけでなく、特定の卵巣がんリスクとも関連があるといわれています。
本記事では、子宮内膜症の基礎知識や生理痛との関係、そして将来的に増加し得る卵巣がんリスクについて、専門医の視点から解説します。
2. 生理痛と子宮内膜症の関係
2-1. 子宮内膜症とは?
本来は子宮内部(子宮内膜)にしか存在しない組織が、卵巣や腹腔内、子宮筋層など子宮以外の場所で増殖してしまう病気です。
代表的な症状:生理痛(下腹部痛、腰痛)、性交痛、排便痛、不妊など
進行例:卵巣内に“チョコレート嚢胞”と呼ばれる嚢胞が形成されるケースが多い
2-2. なぜ生理痛がひどくなる?
炎症や癒着:本来の位置ではない場所に内膜様組織が付着し、月経周期に合わせて出血や炎症を繰り返す
プロスタグランジンの過剰生成:痛みを引き起こす物質が通常より多く産生される
慢性的な刺激:骨盤内臓器の周囲に癒着が広がり、痛みが増幅されることも
2-3. “前駆病態”という考え方
生理痛が慢性化している状態は、**子宮内膜症の初期または発症前段階(前駆病態)**である可能性が指摘されています。若いころから「毎回生理痛が重い」「鎮痛剤が手放せない」場合、将来子宮内膜症が進行し、不妊やより強い痛みにつながる恐れがあります。
3. 子宮内膜症と卵巣がんの関連
3-1. どんな卵巣がんが増える?
子宮内膜症に起因する卵巣病変は、**“明細胞腺癌”や“類内膜腺癌”**などのタイプの卵巣がんと関連があるとされています。
明細胞癌:日本人の卵巣がんの中で比較的多いとされ、子宮内膜症がリスク要因の一つ
類内膜癌:名前の通り、子宮内膜に似た組織との関連が深いタイプの卵巣がん
3-2. リスク要因としての“慢性炎症”
子宮内膜症があると、骨盤内で慢性的な炎症状態が続きやすいです。炎症が繰り返されることで細胞がダメージを受け、がん化のリスクが高まる可能性があります。
チョコレート嚢胞などがある場合、周囲の組織が長期的に刺激を受け続ける
細胞の修復・再生過程で突然変異が起きやすくなる
3-3. 絶対にがんになるわけではないが、注意が必要
子宮内膜症があるすべての人が卵巣がんになるわけではありません。しかし、一般的に子宮内膜症を持たない女性よりも卵巣がんを発症する確率が高いと複数の研究で報告されています。
早期に発見・治療を行うほど、がん化リスクを適切に管理できる可能性が高まります。
4. 早期発見と予防のポイント
4-1. 生理痛のセルフチェック
生理が始まる前から痛みが強い
鎮痛剤を飲んでも痛みが治まらない
腰痛や排便痛、性交痛など他の痛みも伴う
年々痛みがひどくなっている
これらに当てはまる場合、子宮内膜症の疑いが高いと言えます。
4-2. 婦人科受診と検査
超音波(エコー)検査:卵巣のチョコレート嚢胞などの有無をチェック
MRI:子宮や卵巣の病変をさらに詳しく把握
血液検査(CA125など):腫瘍マーカーで炎症・腫瘍の指標を確認
子宮頸がん・子宮体がん検診:併せて受けることで総合的に女性の健康をチェック
4-3. 生活習慣・ホルモン療法の活用
低用量ピルやホルモン剤による内膜症状の進行抑制
鎮痛薬や漢方薬:痛みを和らげ、炎症緩和をサポート
適度な運動と体を冷やさない工夫:血行改善、痛みの軽減
定期的な検査:半年~1年に1回程度、婦人科検診を行うことで病変の変化を見逃さない
5. 専門医からのメッセージ
生理痛は、“女性なら普通”という認識が根強いですが、**「毎回つらくて寝込む」「鎮痛剤が手放せない」**ほどの痛みがあれば、子宮内膜症の可能性を疑うべきです。放置すれば慢性的な炎症が進み、将来的に卵巣がん発症リスクを高める要因にもなりえます。
もちろん、すべての子宮内膜症ががんに進行するわけではありませんが、定期検診や早期治療によってリスクを抑え、QOL(生活の質)を高めることが可能です。いま一度、「自分の生理痛は本当に“大丈夫”な痛みなのか」を振り返ってみましょう。
6. まとめ
強い生理痛は、子宮内膜症の前駆病態である可能性がある
子宮内膜症と**特定の卵巣がん(明細胞腺癌・類内膜腺癌など)**には関連が認められる
放置するほど慢性炎症が続き、将来のがんリスクを高める恐れ
定期的な婦人科検診や超音波検査、必要に応じたホルモン療法などで早期対策を
「生理痛は当たり前ではなく、身体からのSOSかもしれません。」
つらい症状が続くようであれば、ぜひ婦人科受診を検討し、専門医とともに原因を探ってみてください。適切なケアによって、大切な身体をがんや不妊などのリスクから守る第一歩を踏み出せます。
【免責事項】
本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の症状に対する診断や治療を行うものではありません。具体的な病状や疑問点がある方は、必ず医師や医療機関にご相談ください。