星空撮影を変える AdobeのAIノイズ除去機能
TNAソリューションデザインの筆者Aです。先日、七夕も近くなってきたので、天の川の撮影に行ってきました。撮影したデータは、RAW形式で保存し、パソコン上で現像をして仕上げる(JPEG画像に書き出す)のですが、その過程で気づいた Adobe Camera Raw のAI機能「ノイズ除去」が素晴らしく、従来までの大変だった星空のRAW現像作業(ノイズとの戦い)を格段に楽にしてくれました。
カメラの性能をはじめ、写真撮影の環境はあまり大きく進化していないように思えますが、数年前の状況と比較してみると、やはり少しずつ良くなっており、作業効率や仕上がり品質の向上に繋がっています。星空の撮影に限っては、最近は星空AF(オートフォーカスで星空に自動的にピントを合わせる機能)も珍しくなく、スマホや360度カメラのような小さなレンズでも星空が撮影できたりします。
前述した AI機能「ノイズ除去」は、撮影したデータの処理(現像)に用いるアプリケーションの一つの機能ですが、これも結果的に星空撮影を格段に楽にしました。この機能があるまでは、ノイズ除去のために試行錯誤することも多く、何枚か連続して撮影した写真データをスタックソフトを使用して合成したり、かなり高額なアプリケーションやプラグインを購入したり、お金がかかったり、面倒だったり、なかなか大変でした。
というわけで、今回は Adobe Camera Raw のAI機能「ノイズ除去」について詳しく解説しようと思うのですが、それだけではあっという間に記事は終わってしまうし、単なるノウハウ的な内容であれば、動画にして Youtubeで紹介した方が分かりやすいので、ここでは星空撮影についての具体的な方法や雑感を織り交ぜて、あまりまとまりのない記事にしたいと思います(つまり、たぶんあまり読まれないだろうから、筆者の好き勝手に書きますよってことです)。
星空撮影の準備(カメラとレンズ、そして三脚)
前述したように、最近ではスマホでも星空を撮影できますが、やはり撮れる写真のクオリティには限界があります。多くの光を採り入れることができる大口径レンズ、カメラのレンズから入射した光を電気信号に変換し記録するイメージセンサー、これらの性能や大きさが、写真の画質には大きく影響するため、現在のところはやはりレンズ交換式のミラーレス一眼カメラが一般的な選択肢となるでしょう。
ちなみに、イメージセンサーの大きさにはフルサイズ、APS-C、マイクロフォーサーズ等の規格があり、センサーサイズが大きい程、暗所の撮影に強いとされています。星空撮影のためにカメラを購入するわけではないので、センサーサイズはその時持っているカメラのものとなりますが、マイクロフォーサーズ(フルサイズセンサーと比較すると対角長が約1/2の小さなイメージセンサー規格)でも星空は撮影できます。私たちもマイクロフォーサーズ規格のカメラを使用しています。
カメラは既に所有しているものを使うと思いますが、レンズは星空撮影を得意とするものを用意した方が良いでしょう。開放F値が低い大口径の広角レンズが向いていますが、レンズや焦点距離だけの数値で適切なレンズが選べるわけではありません。レンズにはそれぞれ特徴がありますので、星空の撮影に向いているかどうかは数値だけでは判断しにくいわけです。
そこで役立つのが、価格.com や PHOTOHITO のレビューや作例です。気になるレンズを見つけたら、これらのサイトでレンズの作例を確認したり、レビューを読んでみると、大変参考になります。
ちなみに、ここで紹介している写真は、「LUMIX DG-GH6」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」の組み合わせで撮影しました。
星空撮影において三脚は必須です。ちょっと星空を何回か撮ってみようというレベルであれば、そんなに高価なものではなくても大丈夫です。ただ、あまりに軽量で強度のない三脚だと、ちょっとした風の影響を受けてしまったり、カメラやレンズの重さに耐えられない場合がありますので、そこそこ普通のものにしましょう(深夜に執筆しているので説明がテキトーです)。
星空撮影のカメラ設定
星空撮影のカメラの設定については、ネットにめちゃくちゃ多くの情報が転がっていますし、カメラや機種によって異なるので、まあご自分で検索してもらった方が良いと思いますが、基本的な設定は以下のようになります。
・Mモード(マニュアル)
・開放F値
・シャッタースピード 13〜50秒程度
・ISO感度(適度)
・手ぶれ補正オフ
・RAWデータ保存
・セルフタイマー(2秒)
カメラの撮影モードは、もちろん M(マニュアル)です。レンズは少しF値を絞った方が解像度が上がる場合もありますが、星空撮影に向いているレンズの場合、開放で撮ることが多いと思います。シャッタースピードは調整しながら決めますが、50秒以上の長時間露光にすると、地球の時点で星が点になりません。ISO感度は上げれば上げるほどノイズが発生しますので、シャッタースピードとISO感度は、カメラや状況によって調整します。
三脚に固定することを前提としているため、手ぶれ補正はオフにします。手ブレ補正をオンにしていると、誤作動を起こして写真に影響を来たすことがあります。
撮影したデータは、JPEG保存ではなく、元データ(生データ)のRAWで保存するようにしましょう。JPEGは、適切な色味や明るさにカメラが調整して保存するデータ形式ですが、容量を減らすために余計な情報は省かれてしまいます。RAWデータは、撮影した時に得られた情報をそのまま保存していますので、後にデジタル現像する際に、調整の幅が広がります。
シャッターを押した時の振動が影響を与えないように、セルフタイマーで撮影します。大抵のカメラで 2秒の設定ができますので、揺れ防止であれば 2秒のセルフタイマーで十分です。
これらの設定は、普段カメラを使っている人にとっては難しいものではありませんが、どれか忘れそうですよね?
カスタムモードへの設定登録がオススメ
星空を撮影する場所は、大抵は真っ暗。一人で真っ暗闇の心細い場所で、懐中電灯を照らしながらカメラのダイヤルを回したり、液晶画面を見ながら設定を変えたりしていると、何か忘れてないか不安になったりします。そんな時にオススメの設定が、カスタムモードへの登録です。
大抵のカメラには、撮影モード(M・P・S・A 等)に加えて、C(カスタムモード)が用意されていて、好きな設定を登録しておくことができます。星空撮影に行く前に、このカスタムモードに設定を記憶させておくと、すぐに撮影に入れるので便利です。
撮影場所を探す・情報を確認する
景色や物が入らないと、どこで撮ったのかが分からないのが星空です。星空だけを撮影するならば、星がよく見える暗い場所を探せば良いのですが、景色と一緒に撮りたい場合には、周囲に光害(街灯等の撮影に邪魔になる光)がなく、景色と星がしっかり見え、撮影できる場所(駐車場はあるか、三脚は設置できるか等)を探す必要があります。
撮影場所を探すのはなかなか苦労しますが、重要なプロセスです。Googleの画像検索や、Instagramの投稿を参考にして、良い場所を探してみましょう。
撮影場所を決めたら、気象条件や星や月の動き(地球の自転)をチェックしましょう。明るい月が出ていたり、そもそも空が曇っていたりすると、星空は撮影できません。
星や月の状況、天の川の位置を確認するには、国立天文台の「今日のほしぞら - 国立天文台暦計算室」というサイトがオススメです。UIが古すぎて使いづらいですが、知りたい情報は得られます。
スマホアプリの「星座表」もオススメです。事前に星の動きをチェックでき、撮影場所に着いて目が暗闇に慣れていなかったり、方角が分からない場合にも、スマホをかざして星の位置を確認することができます。
星空が見えるかどうかの天気予報は、日本気象協会(tenki.jp)の星空指数、またはスーパーコンピュータが予測する高解像度の天気予報「GPV 気象予報」が便利です。
天の川の撮影時期
天の川は一年中見えていますが、撮影に適した時期は、天の川が明るく濃く写る 7〜8月です。天の川は、射手座付近が一番濃く見えるので、国立天文台の「今日のほしぞら 」やアプリを使って最適な時間帯を見つけてください。21〜23時頃が撮影しやすいようです。
天の川の撮影は、意外に時間がかかります。そもそもカメラのセッティングに時間がかかり、15〜50秒程度の長時間露光をしてカメラのノイズリダクションの時間を含めると、一枚の写真を撮るのに少なくとも30秒以上はかかります。念のために何枚か撮っておきたい、もう少し構図を変えたい、そう思うのは当然のことなので、あっという間に時間が過ぎます。天の川の位置はどんどん変わっていくので、時間を意識しながら撮影を楽しんでください。
暗闇の中を一人で行くのは心細いので...
星を撮りに行く場所は、光害のない山や森の中だったり、人があまり来ないような場所もあり、一人で行くには心細い場所も多いですね。あまり気にしない人は、どうぞお一人でお出かけください。私の場合、7月の週末に二日連続で星空撮影に行ったのですが、小学生の娘に「七夕なんだから自学の研究課題のテーマを天の川にすると良いね」と何とか説得し、家族と一緒に行きました。
日向市の日向岬(馬ヶ背)は、駐車場に車を停めてから約400m程、猿とか出そうな真っ暗な樹林帯の中を歩き、波の音が不気味な断崖絶壁へと行く必要があります(下の写真)。身投げをする人もいるとのことで、心霊スポットとしてネットで紹介されていたりもします(まあ、信じてませんが)。一人だとめちゃくちゃ心細いのですが、家族と行くと子供たちが騒ぐので、何とか無事に撮影できました。
RAW現像
さて、こうして苦労して撮ってきた撮影データを、RAW現像していく作業が必要です。前述しましたが、RAWデータとは、カメラが撮影した情報をそのまま記録した形式です。撮影したデータは、露出(明るさの調整)、ホワイトバランス(色合いの調整)、コントラスト、シャープ(輪郭やディテールの強調)、カラー(鮮やかさの調整)、ノイズリダクション等々の調整を行い、「こんな感じがいいよね」とカメラメーカーが設定した処理を施し、不要なデータは除いてJPEG画像にします。RAWデータは、それらの作業をカメラに任せず、自分で行うための形式です。
RAWデータを Adobe Camera Raw で開くと、上のような画面になります。右側の各種設定を調整していくことにより、明るさやコントラスト、色味などを調整して仕上げていきます。
楽しいけど、イライラする RAW現像
RAW現像は自由に写真を仕上げていくことができるので、最初は楽しいのですが、露出、コントラスト、トーンカーブ等、いろいろいじくり倒していくうちに、何が正解かがわからなくなります。星をはっきり点にしたいと思ってシャープをかけるとノイズが出て、ノイズリダクションをかけると星のエッジが弱くなり、カラーの調整も際限なくやりようがあり、コントラストを上げると現実味が薄れ、下げるとインパクトが弱くなり... いつの間にかぐちゃぐちゃの写真になりかねません。
特に今はスマホで、SNSを介して見る人が多いので、ちょっと派手目な現像にしないと平凡な写真になりがちになりますが、やりすぎるともはやファンタジーなCGになり、加減がなかなか難しいのです。そんな葛藤を乗り越えて、やっと仕上げてみても、画像検索やインスタで他の人の写真を見た後に、改めて自分の仕上げた写真を見ると、なんだこりゃ... と失望して、また最初からやり直す、なんてこともよくあります。
そして、そもそもがRAWデータを人の手でパラメータをいじりまくって現像した写真は、どれもが本物であり、どれもが偽物だ、という意味不明な結論で自分を納得させるしかなかったりします。
結局のところ、天の川をはっきり美しく表現したいという思いと、露出やコントラストを上げることにより発生するノイズとの戦いです。その長き戦いに、いよいよ決着が着く時がやってきたのかもしれません。
Adobe Camera Raw のAI機能「ノイズ除去」
めちゃくちゃ長いフリでしたが、ようやく本題です。星空撮影をする人は、高価なソフトウェアを購入したり、スタックソフトを使って面倒な作業をして、ノイズを除去していた人も少なくないと思います(最近の超高感度のカメラを使っている人は、「そんなことしたことないよ」という人もいるかもしれませんが、それは腕ではなく、カメラの性能です :p)。
RAW現像用のアプリケーションを含め、画像処理ソフトには、必ずノイズリダクション機能が備えられていますが、機能には限界があります。しかし、Adobe Camera Raw は、2023年4月のアップデートにより、AI技術を活用したノイズ除去機能を追加搭載し、これが凄いのです。
使い方は簡単です。Adobe Camera Raw の右側の操作パネルの中の、「ノイズ除去...」をクリックすると、上図(右側)のようなダイアログが開きますので「強化」をクリックします。何秒か待つと、AI解析によりノイズが除去された画像が生成されます。
おわかりいただけただろうか?(※注1)
元々星空は、小さい粒のような星が無数にあるので、ノイズと星の区別がわかりにくいのですが、ノイズ除去前の写真は、明らかに星ではないノイズによる粒状のものが空に多く、このままでは作品として成り立ちません。何らかの方法でノイズを除去するか、写真の露出を下げる等の処理が必要です。一方、ノイズ除去後の写真は、粒状のノイズはほぼ消えています。
どうですか? 凄いでしょ〜 というお話でした。
散々引っ張ってきましたが、説明はあっという間に終わります。
より詳しい情報をお求めの方は、以下のリンクもご参照ください。
この夏は星空を見上げよう
安っぽいキャッチコピーのようですが、カメラやレンズの機能は年々進化しており、今回ご紹介したように画像の処理についても環境は少しずつ変わっています。前出の Adobe Blogの中にも記載されていますが、画像処理ソフトウェアの最高峰である Adobe製品のノイズ低減アルゴリズムは、10年ぶりの更新です。特に最近は、AIを活用した機能がどんどん開発されており、またさらに便利になるでしょう。
星空の撮影は、ある程度の環境さえあれば、難しくありません。ぜひ、カメラを持って、星空撮影に出かけましょう。
星がしっかり見える真っ暗な場所に立ってみると、太陽のように自ら光を出して輝く恒星が、こんなにもいっぱいあることや、地球も宇宙の中の小さな星の一つであることを実感します。
星によっては、何十年、何百年の時間をかけて、地球に光が届いているものもあります(今見えている星は何百年前の姿だったりします)。無数に散らばっている空の星々は、今この瞬間に地球に光が届いていて、それぞれ存在している時間が異なるというのも、不思議な感覚になりますが、常に私たちの頭上で繰り広げられている事実です。
こんなことを考えるのは、意味のないことでしょうか。それとも、大切なことでしょうか。エアコンの効いた自分の部屋で、スマホを見ながら考えてみても、その答えは出ません。
ぜひ、満天の星空の下で、考えを巡らせてみましょう。
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