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中華ファンタジーで見かける桃白白みたいに剣に乗って飛ぶ技「御剣飛行」とは

中国オタク界隈の反応をまとめているブログとは別に、こちらの方では個別の中国オタク事情や用語について、昔記事を書いたもののメディアが消滅して読めなくなった話に関するまとめなどを不定期に載せていこうかと考えております。
今回は以前書いたものの使う場所がなくなってしまった話を。
 
 
中国の国産作品、主に武侠や仙侠系の中華ファンタジー作品に出てくる特有の描写として
「剣に乗っての飛行移動」
というのがあるかと思います。
私のブログの方にも
「中華ファンタジー桃白白みたいに剣に乗って飛ぶあの描写は何なのか?舞空術みたいなものなのか?」
という質問をいただいたりしたので、文化方面にも詳しい中国オタクの方に話を聞くなどもしてまとめてみました。
 
まずあの剣に乗った飛行は主に「御剣飛行」や「飛剣」などと呼ばれる武侠系の技で、「御剣飛行」で検索してもらえば該当する描写の画像や動画も出てくるかと思います。
(11/7追記:googleなどで検索する際には日本語漢字ではなく簡体字の「御剑飞行」で検索した方がたくさん引っかかるようです)
この技が登場したのは「蜀山剣侠伝」という作品からで、元々はこの作品の独自設定だったそうです。
(ちなみにこの話を教えてくれた方はさらっと「わりと新しい作品なので古典的な設定ではないです」などと言っていましたが、「蜀山剣侠伝」は1930年代に連載がはじまり1949年に中国共産党による新中国成立の影響で連載中止となるまで続いた作品なので日本の感覚だと結構な昔の作品だったりします)
 
この「蜀山剣侠伝」において物凄い強い存在として出てくるのが剣仙で、剣仙が使う法力で動かす光をまとった剣が飛剣、そして飛剣と一体化して超高速で移動するのが「御剣飛行」という設定だそうです。
「御剣」は「剣を制御」するという意味になるので、「御剣飛行」は日本語だと「ぎょけんひこう」と読むのが正しいのでしょうかね。うっかり「みつるぎ」や「ごけん」と読んでしまうと認識が混乱しそうです。
 
この辺りに関しては
「この御剣飛行という技が考えられた1930年代は飛行機も珍しくなくなっていた時代ですから『中に入って操縦する』のも想像しやすくなっていたはずですし、現代兵器のイメージに勝つために考えられたSF的な設定にも感じられます」
といった話もありました。
 
現在はスケボーやサーフィンのような描写になっていることも珍しくない御剣飛行ですが、描写から受ける印象とは違いこの技はいわゆる剣サーフィンではなく、剣と一体化した高度な飛行技術だそうで、

「ガンダムで例えるなら普通の操縦ではなくモビルトレースシステムの方」

「剣の上に乗ったら『乗剣飛行』、剣の上に立ったら『踏剣飛行』になるので『御剣』にはなりません」

とのことでした。
 
ちなみに中国の古典では仙人や妖怪は雲や風を操って飛ぶ、龍や鶴などの仙獣に乗って飛びます。また乗り方も平然とした優雅な乗り方、跨るのではなく立つ、横座り、座禅を組むなどのポーズがあるべき姿とされていたので、「伝統的なお約束」からすると剣サーフィンのような動きの大きい乗り方をするのは「未熟」となってしまうそうです。
これに関しては日本的な表現で仁王立ちして力強さを表すのもよろしくないそうで、泰然自若としているのがカッコイイ仙人という話でした。
 
またそもそもの話として、仙人には縮地法があるので移動するなら瞬間移動すればいいということになります。それに煙や風或いは鳥に変身することもできますし、「羽化」をすれば肉体の重さが失われそのまま空に浮くわけですから、剣でわざわざサーフィンするようなのはまだ体が重い未熟者、或いは未熟者が「本物」の仙人の法器の力を借りてようやく飛んでいるみたいな話になってしまうのだとか。
 
そんな訳でこの御剣飛行の描写に関しては自分で操作するゲームならともかく、アニメで描写すると伝統文化や設定的にカッコイイとされるものと視覚的にカッコイイとされるものが矛盾するのでなかなかに扱いが難しい技だそうで、今回イロイロと教えてくれた中国オタクの方からは
 
「古典作品の演出では人が剣の上に立ったり、座禅を組んでいたりしますが、それではあまり速そうに見えません。ドラゴンボールのオーラをまとった飛行が筋斗雲より速く見えるのと同じです」
 
「外国人が予備知識無しで『正しい御剣飛行』を見るとカッコよく見えないでしょう……DAICON FILMの剣サーフィンのように動かす方がカッコイイですよね……」

などといった話もありました。
 
また現在のように武侠系作品で扱われるような形の御剣飛行が定着したのもゲームからの影響が非常に大きいらしく、分かりやすい所では中国の国産RPGの先駆けである「仙剣奇侠伝」のシリーズ第一作目の、元のDOS版からムービーが追加されたwindows98版による影響が特に大きいのではないかという見方があるそうです。

確かに私の個人的な印象でも御剣飛行は仙剣シリーズが流行りだして以降に増えた描写という印象がありますし、昔の香港系の作品でも派手なエフェクトの武侠パワーや剣ビーム、ワイヤーアクションはあっても剣に乗って飛ぶアクションを見る機会は無かったように思います。
 
そんな訳で「御剣飛行」に関しては、武侠系作品において「あまりにも影響が大きいので簡単に見えてしまうようになった技」、日本の作品で例えるなら「ドラゴンボール」の舞空術や「マジンガーZ」のジェットスクランダーのようなものなのかもしれませんね。


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