Fate[UBW]の中国における地味で大きな影響 2015年頃の中国で配信されてその後に影響を与えたりしたアニメ作品その3
前回、前々回に続いて3回目になります。
背景説明をだらだらと書いていたら長くなってしまったので今回は1作品だけで。
・Fate/stay night [Unlimited Blade Works]
「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」(以下「UBW」と略)は中国において比較的地味な方のFateのアニメといった扱いになっているようです。
これに関しては中国で空前の大人気となって一時代を築いた「Fate/Zero」や何かと好き嫌いが分かれた「Apocrypha」、型月系作品としてマニア層からの高い支持を集める「空の境界」、中国市場でも大ヒットとなった「Fate/Grand Order」などと比べて良くも悪くも無難な作品になっているというのも理由なのだとか。
しかし中国におけるアニメ配信作品として「UBW」を見ていくと、当時の存在感や影響の大きさも見えてきます。
2015年の4月に第二期の配信が始まった「UBW」はそのシーズンで一番人気が高い作品となりました。これに関しては直前に中国で発生した日本のアニメに対する規制や取締りによる混乱の中で、安定した評価とファン層のある定番作品に注目が集まり既存のファン層だけでなく新規ファン層もスムーズに取り込めたという事情もあったようです。
配信開始後の再生数伸びも非常に好調で中国の動画サイトにおける再生数が本格的に跳ね上がる以前のbilibiliでは第一期と第二期それぞれの再生数が1億を超えるなど当時トップクラスに再生される作品となっていました。
当時の中国の動画サイト業界では外国産コンテンツの価格が高騰していて日本のアニメ番組に関しても価格が高騰し過ぎて現地側もさすがについていけない、目玉となる大人気作品は複数の動画サイトで費用を分担して配信しようという動きになったなどの話も聞こえてきました。
そんな中で「UBW」は商業的な面でも当時の中国における日本のアニメ配信のある種の象徴的な作品だったようです。
この当時を知っている方々と以前話した際には
「あの頃(2015年)は日本のアニメ作品の版権に関してもある種のバブル的な盛り上がり方になっていた気がする。日本の新作アニメの配信作品数や再生数に関しては後の時期の方が多くなるが、どこまで行くか分からない価格の高騰という意味ではあの時期がピークだったようにも思う」
「たぶん『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』などが当時の日本のアニメ版権バブルの頂点の一つだったのでは……」
といった話も出てきました。
それから「Fate/Zero」ほど目立ってはいないものの「UBW」が当時の中国オタク界隈における影響もかなり大きかったようです。
「UBW」の前後で中国の一般層~ライトなオタク層のFateシリーズに関する知識やキャラクターのイメージがかなり変わりましたし、特に主人公である衛宮士郎の評価に関しては大きな変化が起こりました。
実は「UBW」以前の中国では「Fate stay/night」本編に関する知識がきちんと広まっていなかったようです。
当時のFateのイメージは主に「Fate/Zero」によるもので、「Fate stay/night」に関してはスタジオディーン版のアニメ(ファンサブ字幕版)が最大のソースで他はネットで拾える中国語になったあらすじや断片的なネタバレ情報だったそうです。
またその影響もあってか
「Fate/stay nightの主人公の衛宮士郎が無茶苦茶に嫌われている。その嫌われ方は中国オタク界隈でもトップレベル」
という中国独自の特徴も目立ちました。
当時の中国オタク界隈における衛宮士郎の嫌われ方に関しては
「無能な熱血バカ、愚かで不快なキャラの代名詞」
「『School Days』の伊藤誠と並ぶトップクラスにクズなアニメキャラ」
「伊藤誠はネタが混じっている分マシで、衛宮士郎は当時の中国で最も嫌われた二次元系主人公かもしれない」
等々、散々な評価となっていましたし「士郎」から転じた「土狼」、そこから更に「土狗」となったあだ名というか蔑称で呼ばれることも多かったですね。
当時の状況を体験している中国オタクの方からは
「06年版(スタジオディーン版)のFateのファンサブ字幕はわざとネタに走っている所もありました。あの頃は字幕組(中国のファンサブグループの通称)もそれを見て楽しむ視聴者も、作品を尊重してそのまま翻訳するよりも、訳者が自身のセンスを強調して翻訳する方が良いと評価していました。正しさよりもカッコイイと感じられる、面白くてネタになるような翻訳が評価されていたのです。衛宮士郎に関しては元々中国では嫌われるタイプだった06年版の士郎のキャラが字幕組の極端な翻訳により増幅されて極端に悪いイメージが定着してしまった、オタクに好まれるにわか知識として広まってしまった面もありました」
などといった話を聞いたこともあります。
ちなみにゲーム本編に関しては膨大で独特な文体のテキストを翻訳するのは当時の中国のファンサブグループにとって難しかったそうで、人気や注目を集めたいグループはシリーズの人気や知名度はあっても新作アニメと比べて作業量や注目度的に割に合わないと近付かず、好きでやっている層にとっては手に余るといった存在になっていたのでなかなか翻訳が進まなかったという話を聞いたことがあります。
(もちろん日本語を学んで遊ぶようなツワモノもいました)
他にも中国オタクの方々からは現在の中国オタク界隈における衛宮士郎の評価に関して
「2010年代後半には中国オタク界隈の衛宮士郎に対する嫌悪感はかなり薄れていたと思います。『UBW』の方の士郎には感情移入して楽しめたという評価もありましたし、『UBW』で士郎が実はかなり中二病系の設定のあるキャラだというのを知った人も少なくないでしょう」
「評価の反転に関しては『UBW』で士郎がカッコよく活躍したのが大きいと思います。今は『UBW』のギルガメッシュと士郎の戦いは二次元的にかなり盛り上がる名場面と評価されていますし、中国版FGOで千子村正が実装された際にはキャラの評価と性能の高さでかなり歓迎されました」
といった話もありました。
中国におけるTYPE-MOON関連の作品の人気や広まり方、発生した事件などを見ていくと「UBW」は地味に見えてしまう所もありますが、この作品が中国に「Fate」の人気や知識を幅広く定着させその後の「FGO」の大人気につながる土台を築いたのは間違いありません。
また衛宮士郎に関しては
「中国オタク界隈において衛宮士郎ほど評価が変わったキャラは珍しい」
とも言えそうですし、簡単にアクセスできてまとめて見やすいアニメ作品(それも正規の字幕で)が存在することの影響はやはり大きいのだと感じられますね。
今回挙げた作品以外の当時中国国内で正規配信されていた作品や衛宮士郎の人気の変化などに関してはブログの方の記事もよろしければご参照ください。
中国オタク「衛宮士郎の蔑称『土狼』って昔とてもよく使われていたらしいがどんな感じだったの?」