不思議な大ヒット、たぶん不思議じゃなかった配信中止 2016年頃の中国で配信されてその後に影響を与えたりしたアニメ作品その3
その1、その2
に続いて2016年に中国の動画サイトで中国国内向けに正規配信されていた当時の日本のアニメの人気作や話題作、その後の作品関連の動向や現在の評価やイメージなどについて大雑把にまとめていきたいと思います。
・坂本ですが?
中国に入ったギャグ要素のある日本の作品には、たまにアニメファン界隈を飛び出して現地の一般層も含む非常に広い範囲で大人気になる作品が出現しますが、「坂本ですが?」はまさに当時の中国で人気が大爆発したギャグ作品の一つでした。
この作品の人気も関しては当時の中国の動画サイトなどで盛り上がっていた、動画の弾幕コメントなどで「吐槽」(ツッコミ)を入れながら見るスタイルと合致していたのが非常に強かったという話があります。
この「吐槽」(ツッコミ)は主に現地の超訳字幕も加わり大人気となった「ギャグ漫画日和」から始まった流れで、その後「銀魂」の大人気などを通じて中国オタク界隈におけるファンサブ翻訳や吹き替えなどのオタクの内輪ウケ的なノリが中国の一般層へ本格的に拡散していき中国の娯楽コンテンツにも非常に大きな影響を与えたという話もあります。
「吐槽」的な内容は当時の中国でも人によって好き嫌いがハッキリと分かれていたそうですが、当時の若い世代を中心とした元気のいい層に刺さりやすかったことから定番要素として多用されるようになっていったのだとか。
「坂本ですが?」の配信後しばらくしてからになりますが、中国オタクの方から
「『坂本ですが?』は中国の吐槽で楽しめる作品の正統な流れにある作品で、期待通りに面白くて予想以上に大人気になった作品です」
という評価を聞いたこともあります。
また他にも「坂本ですが?」の人気に関してはOPが当時の中国のネットで大人気になったことや、当時流行っていた空耳ネタ、更には当時の中国で大人気だった声優が揃って出演していた等の要素が影響していたという話も聞きますし、内容の良さだけでなくめぐり合わせも非常に良かった作品だったのかもしれませんね。
・甲鉄城のカバネリ
「甲鉄城のカバネリ」は中国で大人気なった、名作扱いされているというような作品ではないのですが、当時の話題性と中国のオタクの記憶に名前が刻み込まれたという点では避けて通れない作品だと思われます。
当時の中国国内で「甲鉄城のカバネリ」は過去に中国で大人気になった作品に関わったクリエイターが制作スタッフに名を連ねている期待作、いわゆる覇権作品(この概念も当時の中国オタク界隈では何かと使われていましたね)候補として配信開始前から注目を集めていました。
それに加えて当時としてはかなり珍しい中国語の公式サイトの開設や中国語公式アカウントによる積極的な広報など、それ以前に中国国内で正規に配信されていた新作アニメとは違う、力の入った宣伝も行われていました。
しかしバイオレンスな内容が問題となったのか配信開始からすぐに原因不明の配信中止(当時は上からの圧力という説が有力だったようですが)となり、その後しばらくしてから復活の告知と共に一部の動画サイトで配信が再開される、しかしすぐにまた配信中止となり一連の復活関係のアナウンスも消える、その後しばらくしてから配信していた動画サイト側から配信再開をにおわせる発言が出て一時的に配信が復活、そしてまた消えるといったグダグダな状況が続きました。
そんな訳で「甲鉄城のカバネリ」は当時の中国国内では開始前の盛り上がりと開始後の配信中止を含む迷走が何かと注目され、その結果ある意味ではシーズン最大の話題作となってしまいました。
この作品に関して、ある中国オタクの方からは
「もし配信中止が無く普通に配信されていたら、中国では微妙な評価の作品になっていたように思えます。しかし宣伝の多さと配信中止の混乱により、当時の中国のオタクにとっては忘れられない名前の作品になりましたね……」
などといった話もありました。
「甲鉄城のカバネリ」が新作アニメとして配信された2016年4月のシーズンは他にも「ハイスクール・フリート」が内容を問題視されたのかやはり配信中止になっていますし、それ以降も中国で配信される日本の新作アニメ作品の唐突な配信中止は断続的に発生していきます。
そしてそのほとんどが具体的な規制や自主規制の理由が明かされず、ガイドラインも提示されないという中国ではありがちで対応が困難なケースでした。
振り返って考えてみると、この頃から日本の新作アニメの正規配信の不安定さ、中国国内における宣伝のコストや配信可否の見通しの難しさ、注目を集め過ぎることのリスクなどを意識せざるを得ない空気になっていったようにも思えますね。
今回挙げた作品以外の当時中国国内で正規配信されていた作品に関しては以下の記事にまとめております。