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君のための時間:第4話
「翔太の決意」
1. 由香の異変
翔太が退院してからしばらく経った頃、日常はゆっくりと元の形に戻りつつあった。大学の講義に出席し、アルバイトを再開し、由香ともいつものように週末に会ってデートを楽しんでいた。
しかし、そんな平穏な日々の中で、翔太はふとした違和感を覚えるようになった。
「由香、最近ちょっと疲れてないか?」
デートの帰り道、彼女の歩調がいつもより遅いことに気づき、そう尋ねると、由香は慌てたように笑顔を作った。
「え?そんなことないよ。最近仕事がちょっと忙しいだけ。」
「そうか…ならいいんだけど。」
翔太は納得するしかなかったが、それでも彼女の顔色が少し青白いことが気になった。由香は、彼の質問に対して決して「体調が悪い」と言わなかった。それがどこか引っかかる。
2. 倒れる由香
それは、ある週末のことだった。
二人でカフェに入ったとき、由香は席に着くと、何かに耐えるように額に手を当てた。翔太が心配そうに見つめると、彼女は笑って誤魔化そうとしたが、次の瞬間、スプーンを落とした。
「由香、大丈夫か?」
「…ごめん、ちょっと…めまいが…」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女の体は崩れ落ちた。
「由香!」
翔太は慌てて彼女を支え、店員に助けを求めると、すぐにタクシーを呼んで病院へと向かった。
3. 由香の病気の発覚
病院に着くと、医師がすぐに診察を行い、血液検査や心電図を取った。結果を待つ間、翔太は病室の椅子に座り、由香の手を握りながら彼女の顔を見つめていた。
「なんで…こんなに無理してたんだよ…。」
眠る彼女の顔は穏やかだったが、どこか疲れ切っているように見えた。
やがて、医師が病室に入り、慎重な口調で話し始めた。
「翔太さん、由香さんのご家族の方はいらっしゃいますか?」
「…いえ、俺が一番近い人間だと思います。」
「では、お伝えしますね。由香さんは、重度の心疾患を抱えており、近いうちに手術が必要な状態です。」
翔太は耳を疑った。
「…心臓の病気、ですか?」
「はい。以前から症状があったようですが、ご本人が無理をしていたため、ここまで悪化した可能性があります。」
「そんな…。」
医師の言葉が現実として受け入れられなかった。由香はいつも元気で、笑顔を絶やさず、翔太を支えてくれていた。それなのに、彼女がずっと病を隠していたなんて…。
4. 由香の告白
由香が目を覚ましたのは、それからしばらくしてからだった。翔太が横にいるのを確認すると、彼女はすぐに状況を察したようだった。
「…ばれちゃったね。」
由香は、小さく微笑んだ。
「なんで…なんで言わなかったんだよ?」
翔太の声は震えていた。
「だって、翔太が入院してたとき、私が病気のことを言ったら、きっと余計に心配させちゃうと思ったから。」
「そんなの関係ない!由香が苦しんでるなら、俺に言えよ!」
翔太の言葉に、由香はほんの少し涙を浮かべた。
「ごめんね…。でも、翔太が退院して、元気になったのが嬉しくて…。それだけで、私は大丈夫だって思いたかったの。」
翔太は、ぎゅっと彼女の手を握った。
「もう一人で抱え込むな。俺がいる。由香を支えるのは、今度は俺の番なんだ。」
「…ありがとう。」
由香は翔太の手をそっと握り返した。
5. 翔太の決意
翔太は、その日から由香の治療に向き合うことを決めた。
「先生、手術の成功率は…?」
翌日、医師に直接尋ねると、医師は慎重に言葉を選んだ。
「正直、楽観視できる状況ではありません。ただ、彼女の年齢と体力を考えれば、可能性はあります。」
「可能性があるなら…絶対に助けたいんです。俺にできることは、なんでもやります。」
翔太の真剣な言葉に、医師は静かに頷いた。
由香の治療計画が立てられ、手術に向けた準備が始まった。翔太は由香のそばに寄り添い、彼女の不安を少しでも軽くしようとした。
「翔太、大丈夫?私、迷惑かけてない?」
「そんなこと言うなよ。俺が支えたいんだ。」
「…ありがとう。」
翔太は由香の手を握りしめた。
「絶対に、大丈夫だから。」
そう誓った彼の声には、迷いはなかった。