君のための時間:第1話
序章:日常の破綻
1. 翔太の日常
夜のコンビニには、独特の匂いが漂っている。弁当を温める電子レンジの音、レジ袋がカサカサと揺れる音、そして外から聞こえる車のエンジン音。それらが混ざり合い、無機質な時間が流れていく。翔太は、アルバイト先のコンビニでレジ打ちをしながら、店内をぐるりと見回した。深夜2時。客の姿はほとんどなく、店内は静まり返っていた。
「翔太さん、そっち片付け終わりました?」
美咲が翔太の背後から声をかけてきた。美咲は同じ大学の先輩で、翔太とはアルバイトを通じて親しくなった。ショートカットの髪が似合う、明るくて気さくな女性だ。翔太にとって、大学生活の中でも少し特別な存在だった。
「ああ、もう終わりそうです。そっちは?」
「こっちも終わり!でも、深夜シフトって暇すぎて逆に疲れるよね。」
美咲は笑いながら言った。彼女の明るい声と笑顔が、この退屈な深夜シフトの癒やしになっているのは間違いない。
「たしかに。まあ、暇なときは考え事する時間ができるから、それはそれでいいかもですけど。」
「考え事?翔太くん、そんなに悩み事とかあるの?」
「いや、別に大したことじゃないですけどね。」
翔太は苦笑いしながら答える。最近の彼の頭の中は、大学の課題と、恋人の由香とのデートのことでいっぱいだった。
アルバイトが終わると、翔太は自転車に乗ってアパートに帰った。外は冷たい風が吹いており、季節の変わり目を感じさせる。ポケットからスマホを取り出し、LINEを開くと、由香からのメッセージが届いていた。
「お疲れさま!明日は何時に会える?」
翔太は少し疲れた指で返信を打つ。
「午後1時くらいでいいかな?ランチでも行こう。」
メッセージを送ると、すぐに既読がつき、かわいい動物のスタンプが返ってきた。それを見て、翔太は自然と微笑む。由香とは付き合って2年になる。大学で同じサークルに入り、彼女の純粋で優しい性格に惹かれて付き合い始めた。今では、彼女は翔太の生活の中心となっている。
2. 発端:突然の体調不良
ある日の朝、翔太は目覚めた瞬間、頭が割れるような痛みと倦怠感に襲われた。全身がだるく、布団から出るのがやっとの状態だった。
「昨日、そんなに無理したっけ?」
そう呟きながらも、なんとか体を起こし、顔を洗おうと洗面所に向かう。鏡を見て愕然とした。顔色が異様に悪い。肌は灰色がかっていて、唇も紫色をしている。これまでに感じたことのない異変だった。
「…とりあえず、病院行くか。」
翔太は大学の講義を休み、近くの総合病院を訪れた。簡単な問診の後、医師は「念のため詳しい検査をしましょう」と言った。血液検査、CTスキャン、さらには骨髄の検査まで行われた。検査が進むにつれ、翔太の中で不安が膨らんでいく。