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たからもの

私には中学一年生の一人娘がいます。
彼女には、物心ついてから6月の誕生日には毎年必ず手紙を書いて渡すようにしています。
どんなことを書いているかは別の機会に書くとして、今回はなぜわざわざ手紙を渡しているかについて記そうと思います。

突然ですが、
あなたにとって絶対に捨てられない、宝物と呼ぶべきものは何でしょう?

私には二つあって、
一つは母からの手紙、
もう一つは師事していた武術の先生からの書簡、
つまりどちらもお手紙です。

母からの手紙ですが、便箋一枚程度の短さで、直前に送った誕生祝いのお礼が書かれた、とても簡素なものです。
ただ… これを書いた時の母は既に末期の癌であり、結果的に私が母から受け取った最後の手紙になりました。

誕生祝いには爽やかなミントグリーンの扇子を贈ったのですが、受け取った母はいっとき痛みを忘れたと手紙に記されています。
この手紙を開く度、当時の母の病状や心境が偲ばれて、未だに涙が溢れそうになります。
贈った扇子は、母を荼毘に付す際、棺の中に入れさせてもらいましたが、手紙を読む度にその光景までありありと甦る気がします。

亡くなって20年近く経つと、母から貰った物はもうほとんど手元に残っていませんが、この手紙だけはこの先もずっと捨てられないでしょう。
もしこれと同じ内容のメールだったら、と思うこととがあります。
もちろんそのメールも捨てられないものになることに違いはないでしょうが、手紙には手に取って味わい、感じられる重みがあります。
他の人には一銭の価値もないでしょうが、私にとっての何にも代え難い「たからもの」です。

翻って…
自分が娘に送る手紙は毎年のことですし、母のような厳しい状況下で書かれたものではありません。
ですが、手紙の重みを知っているからこそ、娘に何かを残してくれることを期待して、書かずにはいられないのでしょう。
娘にとって宝物となる一通がいずれ生まれることを期待しながら。

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