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自分の声を客観的に聞くのがとても苦手だ。

だから私は「インタビューを録音しない」という無謀なスタイルで仕事をしてきた。

もう随分前になるが、もともと街情報の月刊誌などをつくる編集部にいたため、「飲食店取材がメイン」「一件あたり取材時間が撮影込みで30分」「本文100文字とキャプションの原稿」「1日に取材8件」という無謀な世界が自分の故郷。録音する習慣が全くなかった。

フリーになってから、机に座ってじっくり話を聞くインタビューをする仕事もいただくようになったのだけど。私はかなり精度の高い記憶力を持っていたらしい。ほとんどメモも取らないのに「覚えている」状況が2週間ほど続くのだ。録音しても聞かないし、なんなら聞きたくないし、聞かずに破棄する。

それなら録音しなくていいか、と。

しかし

そろそろ記憶力が微妙。

歳をとってきたのだ。多分。おそらく。いや、確実に。どうにもこうにも。

先日、「6軒分の新築施工例インタビューをまとめて行う」仕事があって、これは、録音しないことには書けないだろうという状況になった。テーブルの上で、資料と元に、住宅会社の人からあれこれヒアリングする場合は「五感で覚える」という技が使えない。

(普段、五感を使って記憶装置を発動させているらしい。視覚以外の肌の感覚、相手の声のトーン、笑顔、どのネタで笑ったか、匂い、自分の汗、などなどなどすべてが脳に刻まれる。例えば新居などの実物を見ながら、そこに住む人と対面し、暮らしのイメージを膨らませつつインタビューするのなら6件溜めてもよさそうだが、会議室で写真と会話だけ感じ取った対象物を記憶し続けるには、情報が足りない。)

そこで、渋々iphoneのボイスメモを起動。滅多に録音しないから、なんとマイクを自分の方に向けて(浅はかだ)。録音された声の主役は私である。ひどい。


自分の声を客観的に聞くのは新鮮である。

普段聞かないからだ。

舌ったらずな口の動き、よそ行きでいつもより高いトーンの声にぞわぞわする。正直なところ、自分の声は好きではない。

しかし、5件分ほどぶっ続けて聞いていたら、意外にも慣れてきた。

なんだ。慣れか。

それも、きちんと資料が用意され、それを元に10分から15分ずつ、非常にコンパクトにまとまったインタビュー録音を聞くと、なんとメモよりも簡単に当時の記憶が思い出されるのだ。なにこれ超便利(やっぱり浅はか)。

→ここでまた一つのハードルをそのまま放置しているが。私は今度は「録音はするけど文字の書き起こしはしない」という状況であることが察せられる。しないぞ。しなくていいことは。取材を録音しながらパソコンを使ってテキストを打ち込むなどのスペシャルな技も使えない。アナログ階段を一歩ずつ登るしか無理。

さらに、自分の会話を客観的に聞いてみると、見えてくることが色々ある。


気づいたことその1。

そもそも、私は「ライターという職業を選んだ割に、コミュニケーションは不得手である」という特徴がある。

だからいつもヒヤヒヤしながら、会話が途切れることを超絶恐れるあまり、無音を作らぬように必死こいて質問を続けている。

が、録音から聞こえてくる「私の声」からは必死さが微塵も伝わらない。取材時、私は確かに次の質問を探して脳内大運動会みたいになっていた。でも、表面的には凪。そうか、バレてないかもしれない。

無音を嫌うあまり「そうなんですね、すごいですね、そうですか。なるほどですね」と相槌を打ち続けるマンになってる面もある。

それは意外と、相手が喋りやすいのかもしれん。

何が?


気づいたことその2。

凪状態で悠々と会話を重ねているように見えるが、それでも緊張が感じられる瞬間がある。

じっくり会話を聞くと、相手の発言をキャッチし損ねていることに気がつくのだ。ああ、私、バカ!。そこは「そうですね」じゃないだろ!

と、フレッシュな気持ちでツッコミを入れた。会話の流れの中で置き去りにしかけたネタを、録音を聞き返すことで拾い直せることもあるのか。ただし、リアルタイムじゃないからそれ以上深掘りはできないが。


気づいたことその3。

他人との会話は不得手、人と話すことは生まれた時から苦手でできることなら距離を置いていたい。

そんな心境で生きてきたが、そろそろ「そんなことない」と自分でも認めたらいいのだと思った。

緊張するし、聞き逃したりすることもあるが。総じて「とても楽しそうに話している」という印象だった。

なんだ。なんだ。良かった。

あと、録音を聞いた瞬間から記憶がバーッと蘇ってきて、聴覚が脳に与える影響の凄さを実感する。



これほどまでに「録音は良かった」と書いておきながら、その次の取材時、私はまたノー録音で現場に臨んだのだが。それはまた別の話である。


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地方の出版社を経てフリーの編集ライターとして活動しています。
○ライターの仕事を続けるには
○単価アップを叶えるには
○そもそもライターってどんな仕事?
○編集の視点とライターの視点の違い
などについて、自分なりの解釈をしていきたいと思っています。


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ライター和田知子:CLANG CLANG クランクラン
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