平成最後の日。灼熱のグラウンドに湧いた奇跡の水。
光り輝く「件名」
MacBookのバタフライ式のキーボードをバタバタと打ち込んでいると、毎日のように届く国内外の企業からのPR依頼や企画提案やクライアントからの要望、さらにはAmazonや楽天セールからサーバー関連のおすすめ商品などのメールの中から、間違いなく光り輝いている「件名」を発見した。
キーボードの「J」キーの上にあった少し汗ばんだ右手の人差し指をTシャツで一度拭き、少しプルプルと震わせながら、トラックパッドに移動させ左下から右上に人差し指でトラックパッドの上を滑らせる。
生唾を飲み込みながら、少しだけ夢でも見ているような感覚でそのメールの「件名」をクリック。
「楽天ダイヤモンド会員(自慢ではないけどダイヤモンド会員なのはマジな話)限定の5000ポイントプレゼントキャンペーン」とか「100%出会いに満足!近所の人妻と簡単に●フ●になる」とかいうものではない。そんなオチではないので安心してほしい。
これは、紛れもなく、僕の胸の鼓動をドッと激しくするような「件名」が書かれたメールだった。
件名:イシハラさんのブログを書籍化したい
久しぶりに感じたあの頃の感情
GWの最中、まだまだ肌寒さが残っている。ここ長崎では天候に恵まれたとは言いがたく、GW初日から雨空が続いている。そのメールの内容を確認した僕は、瞬間的に喉の乾きを覚え、すぐさまダイエットコカ・コーラを口に含み乾きを癒そうとしたが、足りない。すでに、体は真夏の太陽が照りつけているように熱い。
無論、出版が決まったわけでもないけれど、僕は久しぶりにあの感情を味わっていた。
***
グラウンドの土よりも深い、それは地球のマントル近くかもしれない。下から上に燃えたぎるような熱さがすべての空気を支配していた、中学1年の夏。中学3年生がサッカー部を引退したことで、秋に開催される新人戦に向けて新しいチームづくりの最初の一歩目として、他校との練習試合に挑もうとしていた。いや、挑もうとしていたというか、もちろんレギュラーでもなければ補欠さえも確約されていない状況にあったので、よくある「他人事」のような練習試合を、僕は目前に控えていた。
溶けるような熱いグラウンドに、喉を枯らした僕らサッカー部員全員のお尻がへばりついている。顧問の先生が、パイプ椅子にギュッと座り、顔の割に少し小さめの丸メガネをかけ、手元のA4サイズのボードに視線を落としている。額から鼻の両側をかすめながら、口角、そして顎に汗がにじむ。
「今日のスタメンの発表な!」
その瞬間に少しドキリとした後、もちろんすぐに他人事のような感覚に戻る。発表されていく名前を聞いているようで聞いていない。内田有紀のニューシングルの発売日はいつだっけ?なんてことまで考える余裕まであった。お世辞にも体格に恵まれているわけでもないし、小学生の頃にサッカーで名高い成績を残したわけでもない。数週間前まで、「球拾い」の中枢を担っていた僕が、いきなりスタメンなんてことはあり得ない。
顧問の口から告げられていくスタメンの名前。1993年のサッカー日本代表のドーハの悲劇が起こる前にハンス・オフト監督から発表される日本代表のメンバーを聞いている感覚と近い。そこに現実味は全くと言っていいほどなかった。
でも、現実に起きた。
「FWは、イシハラ!」
ビクッ?!
今思えばそれは、日韓ワールドカップの日本代表の発表で、最後に「中山!」と呼ばれた時のサプライズを通り越してマジかよってな衝撃だった。
僕に価値なんてものがあったんだ
僕の心臓が地鳴りのように体全体を激しく揺らす。ドクンッドクンッ 死にそうだ。こんなにも胸が張り裂けそうになることって今まであっただろうか。いや、ない。恋だってまだしたことない。小学生の時、県のコンクールで絵画の特賞をとった時も、地区対抗のソフトボール大会でピッチャーで4番を打っていた時も、ある種の”自信”というか、「そのくらいはできるはず」という根拠が自分の中にはあった。
でも今回はそんな根拠や自信なんてものは全くなかった。
「球拾い」の中枢を担っていた僕が、いきなりスタメンなんてことはあり得ない。目を丸くしている僕に向かって、僕の気も知らずに、攻め立てるように顧問の怒号がグラウンドの熱さを切り裂く。
「おいコラ!イシハラ!なんで返事せんとや!」
「あっ…は…はい!」
灼熱のグラウンドに湧き出した奇跡の水。
喉の渇きが一瞬にして消えた。
まさか「自分が書籍を出すかもしれない」。あの時のスタメン発表の時と同じ感情が湧き出した。
もちろんこの手の話は、著作権などの契約を慎重に行わないと痛い目に合うことはうっすら知っているし、本の企画段階で契約破棄になる可能性もずいぶんあるという。けれど、ある種の価値がそこには存在する。
「僕が発信する情報に価値があるから、書籍化の話が舞い込んでくる」
という事実だ。
こちらのブログ「俺的デザインログ」のことを書籍化してほしいらしいのだが、もちろん「おはよう、今日も天気良いですね!仕事がんばりましょう」なんて発信していてもそんな価値は生まれない。芸能人や著名人でもないのだから。
少なからず「人が情報として読む価値のあるもの」という判断がなされたことになる。
それだけで僕は天にも昇る気持ちになれた。
こちらのnoteで、小説家になるために文章を練習しながらアウトプットしつつ、年間1000冊を読んで小説を書くためのインプットしようという目標を掲げて日々を過ごしてる。
今回の書籍化の提案は、もちろん”小説ではない”。しかも荒手の詐欺かもしれい。もちろんそこらへんはA型の僕は慎重に考えている。しかし、将来的に小説を出版しようと夢見ている僕にとって、これは”本の出版関連の契約や流れなどについての勉強”にはもってこい。前向きに検討していこうと思う。
どんな形であれ、「出版する」という夢は、ロスジェネ世代を生きる僕らの夢でもある。
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