短い物語P&D『月で逢いましょう』
ふたりの老人がいた。
若い頃、ふたりは大きな旗を掲げる為に東へ上った。
群れに閉じ込められることなくコンビで仕事を始めた。
いくつかの大切な物を失くしながら、追いかけていたものを掴もうとした。
苦労と喜びを経たふたりは、やがて成功者となった。
今はブームなんだと自覚しながら、誇りある日々は続いた。
けれど、突然別れてしまう。
その頃の二人は、「人生の答え」を考え始めていた。
長い話し合いの結果、ケンカ別れではない前向きな別れとなった。
あれから30年余り。
ふたりは、それぞれの部屋で、それぞれのベッドの上にいた。
長い旅の途中にあった出来事を思い出そうとしていた。
けれど、たくさん忘れてしまっていた。
お互いのことですら。
ある日の夜、ふたりは月を見上げていた。
一方には、月が近づいて来たみたいに大きく見えた。
もう一方には、月が何か言っているように見えた。
「なぜ月へ行かなければならないのだろう」
ふたりは記憶の中をかき分けながら、ひとつだけ思い出した。
月の力によって、深い底から引っ張り上げられたようなひとつ。
埃にまみれてはいたが、鼓動を感じた。
それは、いつかの約束。
別れるずっと前のこと。
ふたりの夢は月へ行くことではなかった。
ふたりが交わした約束は、月のステージに立つこと。
またふたり並んで歌うこと。
そんな約束を思い出しながら、ふたりは一緒にまぶたを閉じた。 ~終わり