短い物語P&D『土に還る』/『今日の行方』
■短い物語P&D『土に還る』
僕は悩み考える。
選択できない未来。
花となって咲くのもいいと思う。
けれど、僕は大地に降りたいと思っている。
羽根はなくても、僕たちは遠くへ運ばれる運命だから。
遺伝子がそうしなさいって言ってるみたい。
アイツらは、咲き誇ろうと必死だけど。
最近はどこもかしこも落ち着きが無い。
風も迷っている。
地上に降りても直ぐにテイクオフ。
いったいどこへ運んでくれるのか。
旅する鳥や、運び屋の虫はいつも忙しい。
言葉を交わすことはないけれど、お疲れ様。
お忙しいところ悪いけど、僕をそろそろ導いてほしい。
あなたたちが頼り。
どこへいっても固く覆われていてダメになった世界だけど、それでも僕は諦めない。
人の邪魔をするつもりはないから。
悪役のまま終わるつもりもないんだ。
なんとか土に降り立って、また戻って来てみせる。
だから僕は、きっと安息の地を見つける。 ~終わり
■ 短い物語P&D『今日の行方』
僕の仕事帰りは、もう長いこと朝。
今朝もいつもと変わらぬ帰り道。
いつものように喉が渇いた。
都会のオアシスのような自動販売機が手招きしている。
小銭を手放すことにためらいのない僕は、ポケットの中に幾らあるかなんて確認していない。
だから右手は直ぐに投入口へ伸び、親指の腹で百円と五十円を押し出す。
二枚を送り出して選ぶのはいつものヤツ。
僕は人さし指を折り曲げ、第二関節の山でボタンを押した。
まだ静かな朝に響く小さめの騒音。
落ちてきたヤツは後に回し、先に釣り銭のレバーを下げた。
すると、いつもと違う音がした。
僕は取り出し口を見た。
なぜか蓋が無かった。
初めてだ。
外されたのか、外れてしまったのか。
無防備に開いた小さな口。そこに釣り銭の姿は無かった。
もしかして外へ飛び出してしまったのだろうか。
見たところ路上には何も落ちてない。
僕は自販機の向かい側にある花壇を覗いた。
飛び込んだとしたらここだろう。
朝露の滴で袖を濡らしながら枝葉をかき分けて探した。
なんとなくせこい気もしたが、見つけ出したかった。
そして、しばらく探した後、別の物に出くわした。
遭遇したのは、四葉のクローバー。
僕は素直に嬉しくなった。新聞の運勢欄を今日はで読んでやろうと思った。
それからクローバーを持って帰るために摘み取ろうとした。
その時だった。
更なる発見が続いた。
クローバーが密集している一画に目立つ黄色。
顔を近づけてみると、それはギターのピックだった。僕には見覚えがあった。
だいぶ前に行方を見失った一枚。
どこにいったのか分からないまま数ヶ月。
探そうともしなかった。
ピックはまだ劣化していない。
僕はそれを拾い上げた。
すると、聴き慣れない音楽が流れ始めた。
背中の方から賑やかに呼び掛けてくる。
その音は自販機が奏でていた。
どうやら当たったらしい。でも今頃?。
僕は少し慌てながら、さっきと同じヤツを選んだ。
そして放置していたヤツと二本取り出そうとした時、今度はお釣りが出て来る音がした。
まさか。
蓋の無い取り出し口を覗くと、十円硬貨が三枚。
途中で引っ掛かっていたのだろうか。
それが今になって落ちて来たということか。
硬貨を掴み出しながら、僕はクローバーの葉を思い浮かべていた。
三枚の硬貨と一枚のピックで四つの葉。
それから考えたことがある。
もう一度、ギターの練習をしてみよう。
今日の僕が行くべき方向。
それが決まった瞬間だ。 ~終わり