3spoons vol.12ー自由、港ーthe 2nd spoon_UNI
文芸ユニットるるるるんツイッター400字小説3spoons
ある人の五月のこと
「私は自由」
転びそうになりながら、私は綿の靴のまま浅瀬へ入る。
「ベビーカーはあなたの自由を奪うものじゃないよ」
母は言う。
「この温かさと冷たさは、自由」
「ざぶんとしたいなら夏にまた」
「ベビーカーが気に入らないんです」
「でもずっとあなたを抱っこはできない」
港は、と私は尋ねる。
「港まであなたの足では二時間はかかる」
私から発せられたふええという泣き声がことのほか大きくて、私は笑った。いくつかの乳歯をまだ隠している歯茎がうずく。
港から私が来たことを、覚えている。みんな港から来ることを、私は知っている。
やわらかな膝もうずく。たくさんの芽が体内に渦を巻く。日々育つこの体を思い、ベビーカーによじ登る。母が私の足から靴を脱がせ、言った。
「港は次のお休みに行こう」
足の親指と人差指をひねる。そこに風が通ったり、太陽の熱が射したりするのに夢中で、母の言葉は耳からつるりと逃げた。足の指はすぐに乾いて、すべすべして、ひねると楽しい。
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