3spoons vol.9 『入れ違い』the 1st spoon_かとうひろみ
文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons
明滅
出張でビジネスホテルに泊まった。部屋に入ってぽっと明かりを点けると、向かいのビジネスホテルに幽霊がいるのが見えた。幽霊はこちらにいる私を見ると、驚いたような表情になり、悲しそうにうつむいて、ぽっと消えてしまった。あまりにも悲しそうなので、身の上話でも聞いてあげたい気持ちになって、次の出張では向かいのホテルに泊まることにした。
いざ出張の日、チェックインして当の部屋に入る。ぽっと明かりを点けるが、そこに幽霊はいない。窓の外を見ると向かいの、前回私が泊ったホテルの部屋にあの幽霊は佇んでいるのだった。そして私がこちらにいるのに気が付くと、また悲しそうにうつむいて、ぽっと消えてしまった。
そうなると何がなんでも幽霊のいる場所に行きたくて、またホテルを変える。
ぽっ。部屋の明かりをつける。ぽっ。向かいのホテルの幽霊が消える。
ぽっ。部屋の明かりをつける。ぽっ。向かいのホテルの幽霊が消える。
ぽっ ぽっ ぽっ ぽっ ぽっ
出張が終わり、家に帰る。ぽっと家の電気を点けると、どこかで「ぽっ」と何かの気配が消える音がした。
明日も、出張に出かける。
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