男友達を好きになった瞬間の思い出
”好きになっちゃいけない”と思うと、逆に気になるようになっているのか何なのか。1年くらいの間、何でも話せる間柄だった男友達がいた。この人は初めての男友達と言っても良いかな、と思えてきた矢先のことだった。たまたまよくご飯に行ってた人と疎遠になって、ふとLINEで「ちょっと夜、ご飯どう?」と誘って、その日の仕事終わりに会うことになった。
そんな日に限って、約束の時間より少し仕事が押してしまった。会社を出てすぐのベンチに腰掛けて、LINE電話をかけてみる。すぐにはつながらない。こういう瞬間は、かなりもどかしく感じる。”私は今すぐ会いたいのだけど、向こうはそうでもなかったのかな?”と、待たせたわりにわがままなことばかり考えてしまう。よくない、よくないと思いながらメッセージを送る。
「今どこー?」
既読がつく。うれしい。もうすぐ会えそう。早く顔がみたい。
LINE電話でやり取りをする。夜の街を歩く人と目が合って、自分がちょっと大きめの声でしゃべっていることに気が付いた。急にメイクが気になってきて、カバンから手鏡を取り出す。何だかいつもより上機嫌の自分がいた。そういえばこれって初めての待ち合わせになるのかな、とぼんやり思った。お互いある程度近くにいることがわかり、前に何人かとカラオケをした場所で待ち合わせることになった。
どこでご飯を食べるかがしっかり決まってなかったから、お店の明るさとかが分からなくて化粧をバタバタと直してみた。なんでわざわざこんなことしてるんだろう、と恥ずかしくなり早々に切り上げてしまう。早く顔がみたいな。お店には早めに入れると良いな。ちょうど一次会が終わるような時間帯だったから、上手いこと空き出すお店があるんじゃないか。そんな目論見があった。
早歩きで待ち合わせ場所に向かうと、先に待っていてくれてそれだけで嬉しかった。待たせた上に、さらに遅れてしまった自分のことを忘れてしまうくらいには舞い上がっていた。ビル全体に居酒屋が入っている建物が、何軒か続いている。「焼き鳥とかあるところが良いな」とか何とか喋りながら、何軒か目のお店に入れてもらえた。
ガヤガヤとした店内。見渡す限りスーツを着たサラリーマンの方がいた。大きな声をあげたり、大笑いをしたり、隣の人の肩をたたいたり。その脇を通り抜けて、厨房らしき場所の隣の席に通された。店内は、結構明るめの照明。もうちょっとしっかりメイク直しすべきだったかなと気になってきたけれど、手頃な割に美味しそうなものが並ぶメニューにすぐ気を取られた。
「あー、お腹すいた。焼き鳥食べる?」
「先に食べてきたから、お酒だけで良いや」
ウォッカ系にライムが入ったカクテルとかが好きなようで、今回もさっぱりとしたお酒を頼んでいた。私は目についた焼き鳥と、”明日も仕事だな”と思いながらも柑橘系のサワーを一杯だけ頼むことにした。
一緒に働いている人が会社に対して不満があるそうで、ここに来る前もその話で一次会をしてきたらしい。うん、うんと頷きながら話をきく。どちらかと言うと、これまで直接会ってと言うようりは電話ごしに話すことの方が多かった。今回席も二人がけで、面と向かって話しているのにちょっとだけ緊張した。でも、なんか嬉しい。何でもない話をした。好きだった携帯電話のリニューアル機種が発売する話とか、そんなとりとめもない話ばかりだった。
もっと話してたいなと思いつつ、明日も普段通り仕事があったし“最後に一杯だけ”と頼んだ飲み物もお互いなくなったので、終電にあと少しだけ余裕を持った時間帯で帰ることにした。
「この時間なら、近くのコンビニ限定アイス買ってから帰ろうかな」
「じゃあ、一緒に行くよ」
とアイスを買いがてら帰ることになった。家の近くにはないコンビニが、ちょうど近くにあったのだ。携帯で調べながら歩くと、ビルの閉館時間に合わせてコンビニも閉まることが分かった。意外と閉店時間間際ということに気がつき、23時代にも関わらず全力疾走することに。
「あ、足が辛い・・・」
「何でアイスのために・・・」
息を切らしながら、滑り込みセーフで閉店前のコンビニに駆け込んだ。お目当のアイスも、ちゃんとある。しめしめ。好きなものは何個も買ってしまうタイプなので、この日もついつい何個も握りしめていると、「3つも買うの?」と笑われながら「じゃ、せっかくだし1つ買おかな」と同じ アイスをそれぞれ自分へのお土産に買った。
「買えたね」
「そんなに美味しいの?これ」「うん」
改札まで送ってくれるということで、そこまでまたとりとめもない話をしながら歩いた。近道ということで閉店した駅ビルを通り抜けながら、少しだけゆっくりと歩く。お互いにコンビニの袋をカサカサ音を立てながら歩いた。
改札まで来たところで、「じゃあ、ありがとうね」「うん」と別れた。
他にも言いたいことがあったような気がする。何ならもっと一緒にいたかったけど、この関係が崩れるのが怖いしもうちょっとこのままでいたい。すごく嬉しい気持ちと、何だかよく分からない、少し前のテレビドラマでやっていた”みぞみぞする”という言葉がピッタリなような、そんな気持ちもあるような。言葉にしてしまうと、何かが変わってしまうような。自覚してしまうような。
それでも何かを伝えたかったので、「今日はありがとう。すっごく楽しかった!」とだけLINEした。
少しして、既読がつく。
「馬鹿たれが」
「楽しすぎた」
うわー、と思いながらも、すぐに返信をうつ。「私もー!」そこから家までのことは、あんまり覚えていないけれど、すぐにお風呂に入って、ベッドの中でまたLINEを開く。さっきの画面を、何度もなんども見返してしまう。何回か迷った挙げ句、LINE画面をゆっくりとスクショした。
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