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投げ銭に潜む法律問題
投げ銭という用語はどれほど広く知られた用語なのでしょうか。筆者自身は1年ほど前までこのような言葉が存在すること自体知りませんでした。(個人的に)知らないうちに一部の世界では最早常識となった投げ銭について、あまり知られていない法律上の落とし穴という観点から少し書いてみたいと思います。
【本記事のポイント】
投げ銭のプラットフォームを提供しているアプリやウェブサイトの運営会社は、資金決済法に注意が必要です。投げ銭のサービスの提供方法によっては、資金決済法の資金移動業に該当し資金移動業者の登録を行わなければならず、登録を行わずに投げ銭のサービスを提供した場合、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科される可能性があります。
「投げ銭」とは
「投げ銭」とは本来、路上でストリートミュージシャンや大道芸人のパフォーマンスを見た人が、路上のギターケースなどにその場で少額の現金を入れる行為を指します。この意味での投げ銭もいまだに世の中には広く行われていて、公園とかでよく見かけますよね。この場合、「銭」をギターケースとかに「投げ」入れていますので、これを「投げ銭」と呼ぶのは分かりやすいです。
この「投げ銭」が、今はネットでも浸透しています。ネットでの投げ銭の態様にも色々あると思いますが、典型的な形としては、インフルエンサーの方がウェブサイトやアプリで実況を行い、その視聴者がライブ配信の最中にサイト上のボタンをクリックしてインフルエンサーに現金を送金したり、ポイントを消費してスタンプ等のコンテンツを購入し、コンテンツをその場で使用し、その購入代金のうちの一部の分配金がインフルエンサーに支払われるといったものがあります。ボタンをクリックして現金をオンラインで送金するのは物理的な投げ銭とパラレルで分かりやすいですが、ユーザーによるコンテンツの購入→投げ銭のプラットフォーム事業者からその収益の分配がインフルエンサーに支払われるという間接的な形態も投げ銭と呼ばれているようです。
昨今のコロナのご時世、ライブハウス等で物理的に集客するライブやイベントが実施しにくくなっている現状では、このようなビジネススタイルは時代に適応したサービス提供の在り方といえるように思われます。
資金決済法とは
しかし、このような投げ銭のサービスを提供している運営業者にとって、注意が必要な法律があります。それが、資金決済法(「資金決済に関する法律」)です。
資金決済法2条2項は、「資金移動業」という業態を定めて、次のように定義しています。
「この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう。」
そして、資金決済法37条はこの資金移動業を登録制とし、登録を受けずに資金移動業を営んだ場合、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科される可能性があります。
上記のようなオンラインでの投げ銭のプラットフォームを提供するサービスは、サービス設計によっては、この「資金移動業」に該当する可能性があります。上記のとおり、無登録での資金移動業の営業は罰則の対象となる可能性があるので、投げ銭のサービス設計によっては、「資金移動業者の登録」が必要になる場合があるということになります。
資金移動業に該当する場合
では、どのような場合に、なぜ投げ銭が資金移動業に該当することになるのでしょうか。
資金移動業とは、上記法律の規定によれば「為替取引」を行うこととイコールであるといえます。では、「為替取引」とは何か。ここでの為替取引は、FXのデイトレードをやることではありません。為替取引の正確な定義を知るためには、最高裁判所の判例にまで遡る必要がありますが、ここでは分かりやすさの観点から、次のように表現します。
為替取引とは、「AさんからBさんへの送金をAさんとBさんの間に立って引き受けること」を意味するとお考えください。
これを、先ほどのオンラインでの投げ銭の例に当てはめてみると、ユーザー(Aさん)からインフルエンサー(Bさん)への送金を、ユーザーとインフルエンサーの間に立って引き受けること、となります。例えば、インフルエンサーのライブ配信の最中にユーザーがサイト上のボタンをクリックしてインフルエンサーに現金を送金するような仕組みである場合、ユーザーがインフルエンサーに「お金を送りたい」という行為をサイトの運営者が遂行していることになりますので、資金移動業に該当する可能性が高いです。
他方、ユーザーがライブ配信の最中にコンテンツの購入ボタンをクリックしてポイントを消費してコンテンツをサイトの運営者から購入する(その収益を後でインフルエンサーがサイトの運営者から受け取る)形の場合、ユーザーはボタンをクリックすることで直接お金をインフルエンサーに送っているわけではないので、実は判断が微妙です。判断は微妙ですが、このような場合についても資金移動業を所管する役所は目を光らせておりますので、このような間接的な形態だから安心ということでは決してありません。そこから先はサービスの実態にもよるところですが、仕組みを構築するうえで工夫の余地もあります。
このように、投げ銭には資金移動業とみなされるリスクが常につきまといますので、投げ銭のプラットフォームのサービスを提供する事業者の方々は、是非気を付けていただきたいと思います。