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「チェルフィッチュといっしょに半透明になってみよう」レポート前編

こんにちは、臼井隆志です。ぼくはワークショップデザインを専門に、アートや子どもに関わる企画をつくっています。

子どもに関わる仕事をするなかで、どうすれば「大人と子どもが学び合う場」をつくることができるのか?という問いについて、いつも考えています。

「子どもが学ぶ」というと、大人が子どもになにかを教えることをイメージします。一方「子どもから学ぶ」というと、心理実験のように子どもを観察してデータを得ようとすることを想像します。子どもが大人から教わるだけでも、大人が子どもから情報を得るだけでもなく、同じ場で「大人と子どもが学び合う」ことは、どうすればできるのでしょうか。

2019年8月25日(日)に実践した「チェルフィッチュといっしょに半透明になってみよう」というワークショップでは、演劇カンパニーチェルフィッチュの岡田利規さんと俳優のみなさんと、参加した子どもたちの間に「学び合い」の風景が実現できていたように思います。


チェルフィッチュの新作『消しゴム山』とは?

チェルフィッチュは、演劇作家・小説家の岡田利規さんが作・演出をつとめる演劇カンパニーです。

その特徴は、「言葉と身体の独特な関係」であると言われています。日常会話のだらだらした言葉がさらに誇張されたようなセリフの言い回しや、なにかを伝えようとして身振り手振りする身体の動きが誇張されているような/いないようなノイジーな動きがあります。

チェルフィッチュの演劇を見るときは、普段あまり使ったことのない想像力を働かせなければならなりません。俳優たちの言葉と動きを見ていると、「情景」でもなければ「意味」でもなく、その両方でもあるような奇妙なイメージが思い浮かんできます。

そんなチェルフィッチュは、2019年秋、最新作『消しゴム山』の発表を行いました。今回のワークショップはその新作の稽古の一環として行われました。

『消しゴム山』では、美術家の金氏徹平さんとコラボレーションして制作が行われています。ホームページには、こんなふうに書かれています。

「人とモノが主従関係ではなく、限りなくフラットな関係性で存在するような世界を、演劇によって生み出すことはできるのだろうか?」

どういうことでしょう。ぼくがこの文章を読んだ時、「人とモノが主従関係ではなく」というところでまずハッとしました。たしかに「人がモノを使う/モノが人に使われる」という関係はあります。そうではない「限りなくフラットな関係」を作ろうということなのか?しかも、「演劇によって」・・・。

おそらく、今までのチェルフィッチュの特徴でもあった、言葉と身体の関係のなかに「モノ」という新しい要素が加わるのだろうと想像しました。でも、いったいどうやって???

そのヒントになっているのが、写真家の川島小鳥さんの作品を、金氏徹平さんが分析した「半透明」というコンセプトでした。

川島小鳥さんの写真には、被写体が建築やオブジェと一体化したような作品や、影や移動の瞬間をとらえた作品など、人をくっきりと撮っていないものがあります。それらを指して「建築化」「オブジェ化」「タイムスリップ」などの言葉をつけていったのが、金氏徹平さんの「川島小鳥論」です。

「人とモノとのフラットな関係」を、この「半透明」というコンセプトを借りて探求しているのが、新作『消しゴム山』の稽古現場であると聞いています。しかし、なかなか概念的な探求だけでは、表現方法に到達できない。もしかしたら、子どもたちならばこのコンセプトを演劇として具現化する方法のヒントをくれるのではないか?という話から、今回のワークショップの話が持ち上がったそうです。

この経緯を聞いて、ぼくは「きっと面白い場になる」と直感しました。

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▲『消しゴム山』『消しゴム森』稽古場風景。俳優たちが「半透明」になることを試みている。


「コネリング・スタディ」を始めるまで

ところで、ぼくがこのワークショップに関わることになったのは、ちょっと別の経緯がありました。株式会社precog代表の中村茜さんたちと一緒に、演劇公演を子どもと大人がともに体験できる「客席」をつくるプロジェクト「コネリング・スタディ」を立ち上げたことが、今回のきっかけになっています。

事の発端は、2018年の夏の終わり。ぼくは知り合いづてに中村さんを紹介してもらい、初めてお会いしました。

お茶をしながら話すうちに「子どもと一緒に行ける演劇がない。子ども向けの演劇に連れて行きたいわけじゃない。大人向けでも子どもが見られる客席がないのが問題だ」という話になり、子どもと大人が一緒に見られる「客席」をつくるプロジェクトをやっていこう!ということが、その場で決まりました。

その後、『プラータナー:憑依のポートレート』などでのお仕事をご一緒しながら議論を重ねていきました。

そのなかで、我々が目指すべきは「公演」それ自体を新しくつくることではないよね、という方向性が見えてきます。子どもと大人が一緒に見られるよう「公演前後」の体験をつくることが課題として見えてきました。

たとえば、演劇をみるまえに、俳優とふれあうエクササイズや、演劇のストーリーを推察する対話のセッションをおこなう。演劇をみたあとに、体験を絵に描いたり語り合ったり演じ直したりするレクリエーションをおこなう。こうして公演前後の体験をつくることで、子どもが子どもなりに公演を楽しむことができ、親が子どもとのふりかえりを家に帰ってから楽しめるようにできるのではないかと考えて、その方法を研究をしています。

これが「コネリング・スタディ」という研究プロジェクトです。

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▲「コネリング・スタディ」を支える研究会の様子


公演前の体験をどうつくるか?

今回のワークショップは、「コネリング・スタディ」においては、「公演前の体験をどうつくるか?」という課題に位置付けられます。

たとえば、公演を見る前に、稽古場に遊びに行ったり、公開リハーサルを見学したりすると、公演を見た際に「あの時考えてたことがこうなったんだ!」「リハーサルの時はわからなかったけど、こういう意味だったのか!」と、特別な気づきを得ることができます。

同じように、稽古の場に子どもたちが参加することで、物語や作品世界に事前に触れ、公演内容の予測を支援でき、上演を見たときの体験のあり方を深めることができるはずです。今回はそのための実験でもありました。

さらにチェルフィッチュや金氏さんが探求している「半透明」というコンセプトは、子どもたちが「かくれんぼ」や「いないいないばあ」といった遊びのなかに持ち合わせている要素でもあると感じていました。

チェルフィッチュのみなさんにとっては、「半透明になる」という実現不可能なことを、遊びのなかで行う子どもの様子を見ることで、さまざまなヒントが得られる場になるはず。

子どもたちにとっても、プロの俳優たちが真剣に奇妙なことに取り組んでる場に居合わせることで、自分たちが遊びのなかでやっていることを「演劇」という新しい眼差しから捉え直すことができる場になるはず。

双方向の学びの場がきっと実現するはずだと思い、この企画に乗り出しました。


学び合いのための空気と場をつくるには?

事前の打ち合わせでは、「どう伝えれば、子どもたちに探求したいことを伝えることができるのか?」について議論になりました。「半透明」という言葉で伝わるのか?「子どもに理解してもらえるのか?」

そのなかで「今度の作品でどうしても「半透明になる必要」があって研究をしているのだが、どうにもうまくいかない」という設定をつくるのはどうか?ということになりました。

また、子どもたちは「誰がリーダーか」をよく見るので、ぼくではなくチェルフィッチュのみなさんにリーダーをやってもらうことについても話をしました。演出の岡田さんが進行してしまうと、強いオーソリティ(権威者)として機能しすぎてしまう可能性があるため、俳優の原田拓哉さん、矢澤誠さんに進行をしてもらうことになりました。

で、岡田さんはみんなの研究が滞留したり次のきっかけを失っているときに、「半透明を研究する博士」として登場し、新しいお題をなげかける、という役割をになってもらうことになりました。

特に面白かった議論は、「人とモノとの主従関係」という日常の関係性に陥らないように「おもちゃ」「遊び」という言葉は使わないようにしよう、というもの。日常の関係に引き戻されないように、言葉に留意する。これはもう、シビアな創作の現場以外のなにものでもない!と、とてもよいヒリヒリ感をおぼえながら、打ち合わせの場をあとにしました。

こうして、当日を迎えます…

気になる当日の様子や成果についてのレポートは、次回公開。お楽しみに!


山吹ファクトリー コネリング・スタディ
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