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凛として時雨インディーズ期の楽理的特異性について
ここ最近のピエール中野がキツイ、とかそういう話ではないです。キツイですが。
インディーズの頃の凛として時雨、凄かったですよね。今も凄いと思いますが、あの頃の凛として時雨、或いはTKが纏う唯一無二性の虜となり大切な青春の一部をテレキャスターに捧げ、文化祭で大爆死してしまった人も多いと思います。
そんな凛として時雨のインディーズ期の楽曲のうち何曲かに特異性があるのですが、そこに言及してきた記事や言説が見当たらなかったので楽理的な側面からインディーズ期の凛として時雨を解説したいと思います。
1. コード進行の役割
(少し長くなるので時間がない人は 2. まで飛ばして読んでください)
いきなり話が反れますが、音楽の雰囲気を決定づけるものは何でしょうか。 メロディ? 楽器? 歌詞?
様々なファクターが複雑に絡み合って曲の雰囲気が構成されるのは確かですが
「コード進行の頭にくるコード」
が音楽の雰囲気を構成するのに最も重要なファクターであると私は考えます。
基本的に西洋音階を元に作られた音楽はコード(和音)によって解釈することが可能であり、このコードが他のコードに移り変わることをコード進行と呼びます。コード進行は謂わば伴奏であり、コード進行に伴って曲が進行する仕組みになっています。
コード進行は基本的に4つ,或いは8つのコードを1つの単位として構成されており、この単位がいくつも繰り返されたり徐々に変化しながら曲は進行していきます。ここで、一般的なコード進行の例を以下に記します。
(例) C→G→Am→F
この記事での「コード進行の頭」とは、(例)のコード進行においては1番最初のCコードを指すことにします。
この「コード進行の頭」の種類は大きく分けて3つに分類され、それにより楽曲や楽曲の雰囲気が決まります。それらがどのような雰囲気になるのか、それらのコードをよく使うアーティストの例を以下に挙げます。
Cコード …… 突き抜けて明るい雰囲気。童謡でよく使われる。
(アーティストの例 …… サンボマスター、WANIMAなど。)
Fコード …… 明るさと暗さの合間の微妙な雰囲気、繊細さ。
(アーティストの例 …… toe、Spangle call Lilli Lineなど。)
Amコード……暗くてかっこいい雰囲気、あまりにも露骨すぎると演歌みたいになる。
(アーティストの例 …… 9mm parabellum bullet、 THE BACK HORNなど。)
(※補足 …… 簡単のため C, F, Amコードと書きましたが、ダイアトニックを理解している人は I, IV, VImと解釈してください。また、これらが主要なだけでIIImやテンションコード等から進行が始まる場合ももちろん存在します。)
さて、凛として時雨の楽曲にはどのコードが頻繁に使われているでしょうか?
大方の予想通り、繊細さや暗さが前面に出ている凛として時雨ではFコードとAmコードから始まる進行がよく使われます。ちなみに、TK from 凛として時雨の方ではFコードから始まる進行がめちゃくちゃ頻出します。
コードと雰囲気の関係性をなんとなく掴んで頂けたでしょうか。
2. インディーズ期の凛として時雨の特異性について
ここからが本題です。前置きが長くなってしまいました。
インディーズ期の凛として時雨には、「コード進行の頭」が Cコードから始まる曲が4つ存在します。
・Ling (2:16~)
・Acoustic (20:39~)
・傍観 (35:36~)
・夕景の記憶 (0:00~)
(曲名をクリックすることで該当の箇所を聞くことができます。)
インディーズ期の凛として時雨好きに上記の曲を嫌いな人はいないのではないでしょうか。TKが自身の内側を外側に吐露するような暗い歌詞が特徴の曲たちです。
凛として時雨の中でも特にTKが内側を吐露しているような曲であるにも関わらず、これらの曲では突き抜けて明るい曲で使われる「コード進行の頭」が Cコードから始まるコード進行が用いられています。
ギターを持っている人は、傍観のAメロの最初を元気にコード弾きしながら腹から声出して歌うと明るさを感じると思います。
傍観 / 凛として時雨 ギターコード/ウクレレコード/ピアノ - U-フレット
楽理的には明るい曲を、歌詞の内容や歌い方によって無理やり暗くなるようTKが持ち前のアレンジの才能でねじ伏せています。
僕自身音楽をめちゃくちゃディグってる、、、って訳ではないですが、このようなコードの使い方は他のアーティストの曲でも見かけたことがないので特異性がさらに強調されています。そのような曲があったら是非教えてください。ちなみに相対音感を鍛えればコード進行がCコードから始まっている曲かどうか分かるようになります。
僕はTKの動きを逐一追っていなかったので、なぜこれらのような暗い曲に明るいコードを用いたのかは分かりませんが、以前時雨のことを好きだったフォロワーが
「TKは喜劇を悲劇的に表現し、悲劇を喜劇的に表現する」
という旨のツイートをしており(記憶の端っこから引っ張り出した言葉なので一言一句同じではない)、なぜ彼がこのような結論にたどり着いたのはわからないのですが、この通りであれば暗い心情を明るいコードに乗せたTKにも納得がいきます。
このあたりの考察が弱いので何か思いつくことあったら是非教えてください。
3. メジャー移行後の凛として時雨
『moment A rhythm』でソニーにメジャー移行した後の凛として時雨は、「mib126」のような暗い雰囲気の曲をCコードから始めることが無くなりました。
「Ling」のアンサーソングのような、かなり暗い曲調の「Missing Ling」もFやAmのコードから進行が始まるように作られています。
しかし 、2018年のアルバム『#5』の「Who's WhoFO」という曲のBメロにて、メジャー以降後初めてCコードから始まる進行が使われることになります。
凛として時雨はインディーズ期に『#1』~『#4』というアルバムを出しており、ナンバリングを引き継いだ『#5』でその頃の気持ちに戻って曲を書こう、という気持ちのもと「Who's WhoFO」を書いたという解釈もできなくはないのですが、それにしてはあまりに曲調が軽く、ポップさを際立たせるため意図的にCコードを使ったという解釈のほうが自然に思えます。
4. 最後に
この考察自体は高校の頃から出来ていたのですが、この話を友人に話してみたところ「それを踏まえてメジャー以降TKの心情に何の変化があったのかまで考察しないと記事にならないのでは?」と言われ何か考察の糸口を探していたのですが全然見つからず、それなら記事にしてから有識者に意見を仰いだほうがいいのでは?と思って記事にしました。
TKの心理的な変化の側面をよく知っている方、是非何か意見を下さるか、このnoteを踏まえて新たなnoteを書いてくださると嬉しいです。
(追記)
ツッコまれる前に書いておきますが、実はインディーズ期にコードの頭がCコードから始まる曲がもう1曲存在します。
「想像のSecurity」(2:20~)では進行がCコードから始まっているのですが、これはCメロで曲を「起承転結」の「転」にするために使われているので 2.の曲から除外しました。
多分TKもこんなところでCコードを使いたくなかったと思う。知らんけど。
あと、ナンバーガールの「ZEGEN VS UNDERCOVER」からTKは明らかに影響を受けている、みたいなネタもあるのですがそれはまたの機会に、、、