新型コロナウィルスから身を守るため今日からできること
【1.はじめに】
1.このnoteは今後COVID-19感染者の指数関数的増大によるパンデミックが危惧される日本(※1)において、個人リスクを最小限にとどめるため書かれた行動指針です。もともと個人的な備忘録として書いていたものですが、内容の公共性に鑑み、公開することにしました。
2.このnoteは、感染症を予防したいがどうして良いかわからないという不安を抱えている方、リモートワークができない等の理由で仕事先へ通勤せざるを得ない方、家族や身近な人を守りたいが具体的にどう注意喚起すべきか困っている方などを想定して書かれています。実質的な経済停止状態となった4月現在も、飲食店などの個人経営の商店や、スーパーのレジ、宅配便、郵便配達、公務員等さまざまな職種の方々が、毎日高い感染リスクに晒されながら職務を続けざるを得ない状況にあります。
3.初めにそもそも論ですが、最も有効な対策は外に出ないことです。しかしながら、4月10日現在も日本政府からの個人単位の現金給付や労働者の休業補償が決断されておらず(※2)、経済活動の自粛要請という「お願い」ばかりがなされている状況です。このような姿勢は、4月7日、対人接触の軽減に触れて「最も重要なことは、何よりも、国民の皆様の行動変容、つまり行動を変えることです。」といった安倍首相による緊急事態宣言発言や、山手線の混雑に対し(2月上旬と比較し)「4割減っています。でも、これでも足りないのです」と訴えた同日の西村経産大臣の発言にも一貫しています(※3)。このような状況下では、貯蓄が少なく経済活動を停止することができない世帯等は、当面の生活のため高リスクを冒して勤務を続けざるを得ず、結果的に感染拡大を招く危険性が指摘されます。このような状況下で、やむに已まれぬ事情で外出せざるを得ないような場合でも、せめてもの有効な自己防護策が提供できるよう、本noteは書かれました。
4.執筆に当って、大学の先輩である医者夫婦(小児科)の方の助言・実践を参考にさせて頂きました。ここで掲載する感染症予防の基礎知識は、医学生が最初の頃に習う内容であり、特殊な知識ではありません。ただし、一部COVID-19関連の研究結果(14日間の無症状期でも強い感染力があること、感染力が72時間程度続くことなど)を加味した部分があります。これに特化した情報としては、「COVID-19のウィルス学的特徴と感染様式の考察」(Web医事新報)が分かり易いので時間のある方は是非お読みください。
【2.基本的な原則】
(1)最も重要なことはウィルスを体の中に/家の中に入れないことです。ウィルスは人間の髪や服、鞄などの持ち物や、感染者の呼気(エアロゾル)に含まれ家の中へ持ち込まれます。COVID-19ウィルスは常温72時間以内に解体するという研究結果があり、現在無症候性の感染者やPCR検査をしていない感染者が発したウィルスもあることを考慮すると、予防の観点からは、外で人が触った可能性のあるところは今から72時間ウィルスが消えないと考えるべきでしょう。
(2)ウィルスはタンパク質と油(と核酸)で出来ています(医者の方曰く「牛乳を霧吹きでプシュッと撒いたイメージ」)。外に出ると電車のシートや手すり、エレベーターのボタンなど感染者が触ったところのあちこちに72時間消えない塗りたてのペンキが飛散していると考えてください。周りに咳をしている人がいないからといって油断してはいけません。自分も含め、無症状の感染者がどれだけいるかは分かりません。
(3)マスクは飛沫感染だけでなく、ウィルスのついた手でうっかり鼻や口をさわらないために有用です。逆に言えば、手元にマスクがなかったとしても手指を鼻や口にもっていかなければ感染は防げます。窓口カウンター、自動券売機のチャージ画面、マンションのドアノブ等から私たちの手指や衣服に付着したウィルスは、何気なく触った鼻や口を通じて体内に侵入します。
この3つの基本事項さえ押さえればまずは安心です。この原理を応用すれば、あとはそれぞれの状況に応じて対応策を思いつける(そして自分で考えついた原則は怠けず実行できる)と思います。忙しい人はここでブラウザを閉じて頂いて構いません。
以下は、具体的に筆者が実践している「個人的な」防護策です。
【3.外出時】
①付着したウィルスを体内に入れないことが大原則です。ウィルスは石鹸の界面活性効果で病原性を失し解体するので、アルコールがなくても心配しません。その代わり、どこかを触ったらその都度、石鹸で手を洗う。
②そして最も大事なのは、手で顔や髪をさわらないことです。マスク時も触るのはゴム部分だけ、布部分をさわるのは NG。
この2つさえ守ればとりあえず安心です。携帯用のアルコールジェルなどがあると便利ですが、品薄な中無理してまで買う必要はありません。
その他、筆者は加えて以下のことにも注意しています。
・コンタクトではなくメガネやサングラスを着用して外に出る。
・手すりや欄干を触らない。飲食店・スーパーのレジでも極力カウンターに触れない。特に、居酒屋などのカウンターは72時間以内に発せられた他人のエアロゾルがそのまま付着しているので、不用意に触るのは自殺行為。おしぼりや雑巾で拭いても、もしそこにウィルスが付着していたらかえってウィルスを室内に広げることになります。
・ちょっとした外出程度であればスマホをもって外に出ない。外でスマホを不用意に触らない。
・電車のつり革、柱、手すり、壁などを触らない(とはいえ、何も掴まらずに転んで無防備な体を床につけたら元も子もないので、これも「するに越したことはない」程度)。
・ドアノブを触る前後に消毒。アルコールがなくても石鹸でしっかり洗えばOKです。どちらもなかった時のためにハンカチを常備しておくとよいでしょう。
もちろん、これらはその都度手を石鹸で洗えば済む話なのですが、筆者自身ズボラな性格なので、毎時毎時こまめな手洗いを欠かさずできるのか心配なので、そもそもの接触リスクを減らすという対応策をとっています。
【4.飲食】
・極力外で食事をしない。知り合いと対面で向かい合い会食するなどは、もってのほか、言語道断です。テーブルやカウンターには直前72時間に周囲の人が発したウィルスが付着している可能性があります。箸や食器、テーブルを拭いたおしぼりからもウィルスは侵入します。また、自分が万が一無症候期の感染状況にあった場合、店内全体にウィルスを飛散させ、なじみの店舗や友人を感染に巻き込んでしまいます(※4)。
・やむを得ず外で食事する場合は、マスクを外す前に手を洗い、部屋の換気は十分か、周囲2mに人がいないかを確認してからマスクを外して食事をする。2mの社会的距離は死守しましょう。消毒液が置いてある店舗も増えているので、その場合はマスクを外して食べる前に手の除菌をしましょう。
・マスクをしていないまま調理されたものは避ける。食べなければいけない場合は電子レンジでよく加熱する。外で食べる場合は、飲食店よりも、個包装のお弁当のほうが望ましい。
・マスクをしていない調理人がいる飲食店には入らない。もしこれをご覧になった飲食関係者で、まだマスク無しで調理等に従事している方はすぐにマスクをしてください。
【5.帰宅時】
・ウィルスを持ち込まず、家の中で安心してゆったり過ごすためにも、帰宅時は注意のボルテージをぐぐっと高めて、危険因子はすべて排除しましょう。私は「手術室に入るくらいの気持ちで家に入る」ことを心掛けています。
・帰宅したらすぐにマスクを取り外し、表の布面に触れないようにそっと片付ける。
・マスクを再利用する場合は玄関の誰も触らない場所に置く/ひっかける(場所を決めておく)。せっかくマスクをしたのに、家の中で無造作に置いては逆効果です。
・スマホも玄関で消毒しましょう(接触面だけでなくカバーも)。我が家では除菌スプレーを靴箱の上に置き、すぐに消毒できるようにしています。
・そのまま服を全部ぬいで裸(下着でもよい)になり、服やハンカチ等を全部洗濯機の中に入れ、頭からシャワーを浴びる。
・鞄は玄関に置いたままにしておくか、室内に入れず廊下等に晒しておく。家の中に持ち込まなくてもいいように、外出用の小さい鞄を一つ決めておく。外で読んだ本など、洗っていない手で触ったものを取り出したときは手を洗う。
・一度着たコートなどは家の中に持ち込まず、ガレージなど誰も触らない場所にかけておく(私の家は玄関にハンガーかけがないので、そのままベランダで72時間干しておきます)。
【6.スーパー・コンビニ等】
・レジ待ち・レジ会計の時も対人2メートルの距離を死守。
・小銭のやりとりを避ける。対面せず、セルフ決済可能な店を選ぶのが望ましい(結局ボタンを触るので帰宅後すぐに石鹸手洗いでチャラ、のほうが楽かも)。
・露出しているパンや野菜(特に人が触って選んだもの、アボカドやトマトなど)は避け、個包装のものを選ぶ。触って選ぶ野菜はよく加熱する、皮をむいたらその都度手を洗うなどの対応で回避できるが、筆者は面倒くさがりなので露出しているもの全般を避けるようにしている。
・エコバッグも玄関に置いたまま常温放置。筆者の家は玄関にあまりスペースがないので、レジ袋を購入して帰宅したらすぐ捨てている。
・パン屋など小規模店舗では前の客が選び終わり出てくるまで外に並んで待つ(ヨーロッパ在住の筆者友人の話では、これがスタンダードになっているそう)。
・コンビニやスーパーの店員等の方は、レジ前に大きく「前の人との距離を2m空けてください」と注意書きを掲示するなどの配慮をした方がいいでしょう。
【7.そのほか、家でできること】
・朝夕1時間の換気。スマホとマウスとキーボードは帰宅して手洗い後すぐに毎回アルコール消毒。
・宅配便は対面受取をやめ、玄関外に置いてもらう。例えば、クロネコヤマトは玄関先で一言伝えれば受取印なしで受渡してくれる措置を行っています。
・届いたアマゾンや宅配便は、玄関先に72時間放置してから家の中に入れる。郵便配達物も、無くなったら困るような重要なもの以外は、玄関先や廊下に晒してから部屋に入れる。
【8.…といろいろ書いてきたけど】
以上はあくまでも筆者が自己防護として実践していることで、個人的なものにすぎません。また、他にも見落としている点などあるかもしれません(あればぜひ教えてください)。
読まれた方は、できるものからでいいのでぜひ実践してみてください。以上の行動方針は今日から実践できるものばかりです。「とりあえずの自衛」かもしれませんが、これらを実践することで失うものはなにもありません。と同時に、できれば周りに教えてあげてください。特に会社の役員や上司、学校や幼稚園の先生、市役所の方など社会的な責任が大きい人が行動を変えると、周りの人たちも真似して動いてくれるので、確実な効果が見込めます。
何より大事なのは「敵を知る」ことです。必要なのは大学初年次程度の感染症の基礎知識(とできれば少しの英語)だけです。目鼻口を触ることが問題であること、ウィルスが石鹸でも無効化することを知っているから、マスクやアルコールがなくても慌てません。マスクを求めて朝から何時間も密集した行列に並ぶ、全身防護をした電車内でべっとりスマホを触る、アルコール消毒したその手でスーパーの野菜を手に取り見定めるなどの元も子もない行動を避け、高い感染リスクの中少しでも自分や周りの大切な命を守れるよう、このnoteが少しでも「敵を知る」ことの一助になればと願っています。
(※1)既にCOVID-19に関する唯一の対策は公衆衛生的な対策である(WHOと中国の共同調査チームによる報告書、pp.21-2)ことが多く指摘されていますが、日本においてはCOVID-19の流行以前より自民・公明両政権により病床数削減の方向性が打ち出されていました。この流れはCOVID-19の流行が確認されたのちも凍結・変更されておらず、3月4日には感染症に対応する病棟を2025年までに20万床削減することを指示しています(3月27日、参院予算委の田村智子議員(共産党)の質問において加藤厚労大臣の答弁)。
現在、日本のICU病床数は人口10万人あたり5床と非常に少なく、ドイツ(29-30床)やイタリア(12床)に比べ国際的に後れをとっており、今後COVID-19の感染拡大に伴い集中治療体制の崩壊が急速にすすむ可能性が危惧がされています。日本集中治療医学会は4月1日に「死者数から見たオーバーシュートは非常に早く予想される」との学会声明を出しており、4月9日には日本救急医学会・日本臨床救急医学会により、COVID-19の重篤患者のみならず脳卒中や心筋梗塞等の重症患者の受け入れが「極めて困難」な状況になっており、感染防護具も圧倒的に不足しているなどの救急医療体制の崩壊が警告されています。
なお、これに関して、一部では軽い症状の段階で病院・保健所等に問い合わせをしたりPCR検査を行わないよう呼びかける向きがありますが、既にWHOを始めとする多くの機関はCOVID-19の感染を早期に発見するための検査体制の充実を提言しており(例えば3月17日、WHO・テドロス事務局長は「疑わしい全ての症状に対して検査を行う」よう各国に求めています)主要国ではPCR検査体制を整えてきています。しかし、「医師・ジャーナリスト」の村中璃子氏、「社会学者」の古市憲寿氏、大阪大学教授の菊池誠氏などは、TVやインターネット上で、疑わしい段階での検査があたかも躊躇されるべきことであるかのような、誤った発信を市民に向けて行っています。また「元政治家」の橋下徹氏、「思想家」の東浩紀氏、「起業家」の堀江貴文氏、EARLの医学ツイート(@EARL_Med_tw)等がTwitterでそれに類した発言を行っています。
(※2)なお、安倍首相は4月7日の記者会見で、国民への「世帯単位の」(個人単位ではないことに注意)給付や休業補償について「本当に厳しく、収入が減少した人たちに直接給付がいくようにしていきたいと考えました」と一律給付の方針を否定しています。また西村経済産業大臣は、4月11日、兵庫県の井戸知事ら7都道府県知事に対し、国の休業要請に対し補償をすることはできないと明言しています。なお、国家による休業の「要請」は日本国憲法下における経済活動の自由に抵触するおそれがあり、休業補償を行わないことは違憲状態を招く可能性も危惧されます。
(※3)国家の役割はこのような「お願い」をすることにあるのではなく、具体的な社会政策を行うことによって社会問題の解決(ここでは通勤電車の混雑解消と感染拡大のリスク軽減)を行うことです。休業補償ないし現金給付なきまま活動自粛の「要請」が繰り返される現状に疑問をもった方はぜひ声を上げましょう。民主主義国家では主権者はわれわれ市民であるので、政治(家)に物申すことは全く不思議なことでもおかしなことでもありません。
(※4)まだ開業している飲食店は、マスクや消毒、食器洗い等の徹底に加えて、店内のあらゆる箇所にアルコールを散布する等の厳重な防護が必要かと思われます。雑巾やおしぼりはお勧めしません。香港のSARSではホテルで感染者の宿泊部屋を掃除した雑巾で他の部屋を掃除したことが、集団発生につながった例が報告されています。