2018年映画『散り椿』感想
2018年映画『散り椿』(監督/木村大作)観賞。
西島さんが演じるのは、18年前、新兵衛(岡田准一さん)と共に武芸に励み、新兵衛の許に嫁ぐ前は恋仲だと噂されていた篠(麻生久美子さん)を想っていた榊原采女(さかきばら うねめ)。
新兵衛は剣豪である上に藩を追い出された、という厄介な存在であるだけに彼が戻って来たと知るとガンガン色んな奴ら(奴らて)に付け狙われます。
新兵衛は義理の妹にあたる里見(黒木華さん)の家に居候することになり、最初こそ歓迎しなかった甥、藤吾(池松壮亮さん)だが内情を知るにつれ、次第に慕って行く。最初あまりにも可愛らしく威勢を張って登場する藤吾の姿に、もしやこの人は殺されるのでは、と危惧していたがそれはなかった。許嫁、美鈴役の芳根京子さんと藤吾のカップルは最初から最後まで仲睦まじくて(イチャイチャしてw)微笑ましかった。
新兵衛は篠に託された最後の願いを叶えようとするが、彼女の願いには続きがあった。それは「采女を助けて欲しい」と。采女とは俗に言う恋敵でもあった。
新兵衛と篠、采女の恋の関係が、血生臭い権力争いの中、静かに描かれる。
散り椿を穏やかに眺めるはずが、采女から篠に宛てた熱い手紙を見つけてしまい、嫉妬から思わず剣を抜いてしまう新兵衛だが、采女の出した手紙には返事があり、篠自身が新兵衛と共に生きる決意を持ち、采女との仲をはっきり断る内容だった。最終的に自分亡きあと、新兵衛が自分のあとを追わないよう、わざわざ故郷に帰す用事を申し付けていた。何と言ういじらしさだ。
篠を演じた麻生久美子さんの色の白さがあまりにも儚く見えて、美(佳)人薄命という言葉を思う。澄んだ雪解け水のような美貌を持ち、情にも厚く、愛される運命の人だったのでしょう。この場面は、嫉妬した新兵衛こそが実は篠の愛を手にしていたのが明らかになり、心情的には采女に同情する。しかしそんな篠の想いを知って、きっぱりと諦めた采女も人間のできたひとなのだろう。やがて、そんな采女にも悲しい運命が待っていた。
最後、新兵衛は故郷を去るが、その際、篠の妹、里見は新兵衛を引き留めようと「私の胸の内には姉上がおります(意訳)」と告げる。
……ん? その台詞は采女にも言ったよね、と邪念が。いや采女には好きだと言っていなかったけど、十分勘違いさせるような視線で見つめたよね? そう言う重い言葉をふたりの男に言うのはどうなんだろう。里見、あざといよ、里見……。(黒木華さんを悪く言っている訳じゃないの! この脚本よ! 脚本のせいよー!)
もちろん、すべての事件が終わり、慕っている新兵衛が立ち去って行くのはどうしても止めたかったとは思うが、もしも自分がいるせいでこれ以上大事な人間を巻き込んでしまったら、と新兵衛なら考えるだろう。どんなに見えなくても深い情が存在するとしても、新兵衛は愛するひとを失い過ぎた。
ところで、西島さんが死ぬ役をやると死に方が呆気なくて、酷い時は殺された上に放っておかれっぱなし、とかもあるので、この作品ではきちんと友人である新兵衛が看取ってくれて良かった、と思ってしまった。
そして、この作品の見所のひとつに岡田准一さんの殺陣があります。エンドロールの殺陣指導に岡田さんの名前があるので、なるほど、そこまでの腕前を持っていらっしゃるのか、と納得。
何と言うか早さや技術もさることながら、とても魅力があるんですよね。殺陣に旨味があると言うか。上手く言えないな。全体的に悲哀に満ちてはおりますが、とても見応えのある秀逸な作品でした。
その他雑感
殺陣は魅力ではあるのですが、後半、複数の人数を采女と共に切って行くシーンでは通常のチャンバラのように右に左に刀を振るうのではなく、真正面からグサッと行くので少し驚いた。え? 今ってそう言うのもあり? などと『影の軍団』で育って来た私は個人的に思いました(そもそもあまり時代劇を観ていない)。
それから、岡田准一さんが宣伝していらっしゃる遊園地「ひらかたパーク」では、毎回彼が演じた映画とコラボしてパロディポスターを作るのは有名ですが、『散り椿』にもあったとは知りませんでした。しかもすごい量(笑)